2024秋 北海道馬産地見学ガイドツアー 現地取材レポート

馬産地見学ガイドツアーレポート[ツアー2日目]

2日目は日高管内の牧場・競馬関連施設を訪問。

2024年9月6日

下河辺牧場


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馬産地見学ガイドツアー2日目の朝は午前7時40分からスタートです。千歳市内のホテルを同時刻に出発し、日高自動車道を日高方面へ。目指すのは日高町の下河辺牧場です。ここは、1933年創業という歴史ある牧場で、現在は生産から育成、調教までを行っています。牧場の総面積は約400ha、そこに120頭の繁殖牝馬を繋養し、年間生産頭数は80頭前後。下河辺代表以下80人のスタッフで「生産馬すべてが勝ち馬となることを目指している」牧場です。

これまで、その歴史の中で2003年の三冠牝馬スティルインラブや2013年の桜花賞馬アユサン、2017年の菊花賞馬キセキなどを送り、昨年は開場以来最多となるJRA年間90勝を達成。その結果、ブリーダーズランキングは総合、そしてJRA部門で、ノーザンファーム、社台ファームに次ぐ第3位となっています。ツアーで訪れる直前は生産馬シンリョクカが新潟記念(G3)に優勝したほか、アラジンバローズが佐賀のサマーチャンピオン(Jpn3)に、ミニアチュールが岩手のビューチフルドリーマーカップに優勝するなど1週間の間に中央、地方の重賞競走を3勝したとあって、牧場は活気に満ち溢れていました。

ここでは、当歳馬と繁殖牝馬、そして離乳を終えた1歳馬を2グループに分けて見学させてもらいました。案内役を買って出ていただいたのは、主に育成部門を統括する下河辺隆行社長にご案内いただきました。途中、バスに乗り込んでいただいた下河辺社長は「牧場として意識しているのは勝利数です。昨年は、馬たちが頑張ってくれたおかげで開場以来、最高の成績を残すことができました」と胸を張り「社台グループという大きな背中に少しでも近づこうと頑張っています」と頑張るスタッフ、馬たちを労いました。

ここでは2016年中山牝馬ステークス(G3)に勝ったシュンドルボン(2011年生、父ハーツクライ)と、その当歳(牡、父ブリックスアンドモルタル)、そして2022年ジャパンダートダービー(Jpn1)に勝ったノットゥルノの半姉で、自身もJRAオープン馬のショウナンバビアナ(2016年生、父ディープインパクト)と、その当歳(牝、父ロードカナロア)でした。

そして、場所を移動して2018年フローラS(G2)に勝ったサトノワルキューレが生んだ2番目産駒(牝、父エピファネイア)と、現役オープン馬ソウルラッシュ、そしてディオの半弟となるキセキの産駒のエターナルブーケ2024を紹介いただきました。

下河辺社長は「ご覧いただいたように、私たちの牧場では、主に生まれてから2歳の春までを担当させてもらっています。その中で1番難しいと思うのは、もしかしたら簡単に見えるかもしれませんが、馬を正しく歩かせるということだと思います。今日は、そういったところを見ていただきました。これからも、下河辺牧場の馬たちを応援してください」とお話いただきました。

優駿スタリオンステーション


インディチャンプと記念撮影2班
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優駿スタリオンステーションは、1989年に創業された新冠地区にある種牡馬繋養牧場です。これまでオグリキャップ(2010年没)やマヤノトップガン(2019年没)、コマンダーインチーフ(2007年没)やキングヘイロー(2019年没)などを繋養し、今シーズンはヘニーヒューズやアジアエクスプレス、インティなど32頭の種牡馬で延べ1,738頭の繁殖牝馬に配合を行い「日高地区で最も忙しいスタリオンステーション」となっています。

ここでは4頭の種牡馬が個体展示されました。

最初に登場したのは2022年チャンピオンズカップ(G1)優勝馬ジュンライトボルト(2017年生、父キングカメハメハ)。種牡馬生活1年目を無事に終えたばかりの新米パパですが、現役時代から一段とボリュームアップされた馬体を誇らしげに周回を重ねる中「供用初年度の今年94頭に配合。次代のダート競馬を支える1頭と期待されています」と紹介されました。

続いて、2016年のJRA賞最優秀短距離馬で種牡馬としても成功しているミッキーアイル(2011年生、父ディープインパクト)。8年目シーズンを終えて円熟期を迎えているベテラン種牡馬は「産駒は日本だけではなくオーストラリアでも活躍中です。今年の種付頭数は110頭。8年連続で100頭以上の繁殖牝馬に配合する人気種牡馬です」と解説が加えられました。それから、〝未完の大器〟としてスタッドインを果たし、種牡馬として成功しているシルバーステート(2013年生、父ディープインパクト)、そして初年度産駒が1歳市場で高い評価を受けているインディチャンプ(2015年生、父ステイゴールド)は「2019年のJRA最優秀短距離馬。この春・夏で行われた市場では1億1,000万円を筆頭に上場された13頭がすべて売却されるなど高い人気を誇っています」と紹介され「初年度産駒は来年デビューします。産駒を応援してください」と付け加えられました。

個体展示の後は4班に分かれてインディチャンプと記念撮影をさせてもらいました。今回のツアーでは初めて見る種牡馬の大きさ、迫力に圧倒されながら、初めての記念写真に納まっていただきました。その後は自由展示。厩舎の窓から顔を出してくれない馬には厩舎スタッフのサポートもいただきました。ありがとうございます。

優駿メモリアルパーク

優駿スタリオンステーションでの見学を終えたあとは、隣接する優駿メモリアルパーク・優駿記念館へと移動してトイレ休憩を兼ねたブレイクタイムを設けさせてもらいました。

オグリキャップの等身大ホワイトブロンズ像がランドマークとして出迎えるこの場所ではオグリキャップの功績を称える優勝肩かけや馬服、記念写真のほか、全国のファンから寄せられたメッセージなどを展示しています。また、この場所でしか購入できないオリジナルグッズなども販売しています。

また、敷地内にはナリタブライアンやコマンダーインチーフ、アドマイヤオーラなど新冠地区で種牡馬生活を送っていた種牡馬、活躍牝馬などの墓碑などもあり、多くのファンが訪れる人気スポットにもなっています。

日本軽種馬協会静内種馬場


カラヴァッジオと記念撮影1班
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新冠ヒルズでの昼食をはさみ、向かった先は日本軽種馬協会静内種馬場です。ここでは、遊佐繁基場長自らバスに乗り込んでいただき、日本軽種馬協会が行う「生産育成技術者研修」で使う施設や、診療施設、輸出検疫施設などをご紹介いただきました。

「生産育成技術者研修」は「ファンに愛されるような強い馬づくりは、優れた技術者が不可欠」と1990年からスタートした研修制度です。現在は16名の研修生が1年間という時間の中で、基本的な知識と技術を学んでいます。「研修生たちの先生役ともいえる研修用の乗馬の中にはケイアイレオーネなどの重賞勝ち馬もいて、すべてが元競走馬たちです」と遊佐場長からご紹介をいただきました。

その後は、同種馬場が誇る現役種牡馬をご紹介いただきました。ここは、一般見学を行っておりませんが公式インスタグラムなどで馬を紹介しています。

最初に登場してきたのは産駒が国内外で活躍中のデクラレーションオブウォー(15歳、父War Front)でした。「デクラレーションオブウォーというのは〝宣戦布告〟という意味で、産駒も物騒な名前が多いのですが、本馬自身はとても穏やかな馬です。配合する繁殖牝馬によって、さまざまなタイプの産駒を送り出しますので、競馬場でこの馬の子供を見かけたら応援してください」と紹介されました。

産駒トータルクラリティが新潟2歳ステークス(G3)を勝ったばかりのバゴ(2001年生、父Nashwan)は元気いっぱいに2番目に登場してきました。「種牡馬としては高齢ですが、気持ちは中学生。種付けも、とても元気です。とはいえ、これから先はそう長い種牡馬生活ではないと思いますので、応援してください」と温かいメッセージが送られました。

そしてカラヴァッジオ(2014年生、父Scat Daddy)。「世界で大活躍しているスキャットダディの系統で、祖父のヨハネスブルグも現在は静内種馬場で余生を送っています。カラヴァッジオの産駒はアメリカ、イギリス、フランス、アイルランド、ドイツ、オーストラリアで重賞勝ち馬を送り、日本でも持ち込み馬のアグリが重賞勝ち馬になっています。本邦産駒の本格的なデビューは2年後ですが、それまで覚えておいていただき、子供たちを応援してください」とメッセージをいただきました。

展示終了後は、このカラヴァッジオと2班に分かれての記念撮影。「日本軽種馬協会では北海道、青森、九州の3地区で14頭の種牡馬を繋養していますが、内国産種牡馬は九州地区のネロだけです。みなさまには馴染みの薄い馬ばかりかもしれませんが、日本で活躍した馬はそのまま種牡馬となるケースが多く、血の偏りを是正するための措置です」と付け加えられました。

なお、この模様は公式SNSにて動画配信されたので、ご覧になった方もいらっしゃるかもしれません。

アロースタッド


カフェファラオと記念撮影1班
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新ひだか町にあるアロースタッドは、1982年創立。日高管内に現存する民間スタリオンとしては最も歴史が長く、そして繋養頭数が最も多い大型スタリオン施設です。その歴史の中には社会ニュースにもなったラムタラ(2006年帰国)を受け入れたほか、2000年代初頭にはアンバーシャダイ(2007年死亡)、メジロライアン(2007年引退)、メジロブライト(2005年移動)の父仔3世代同時繋養という珍しい話題を提供しています。

2024年シーズンは33頭の種牡馬ラインナップで1,300頭を超える繁殖牝馬に配合を行いました。

ここでは今年から種牡馬生活をスタートさせた3頭が解説付き個体展示を行い、その後は、それぞれお目当ての馬たちと厩舎で見学いただきました。

最初に登場してきたのは、高松宮記念(G1)優勝ファストフォース(2016年生、父ロードカナロア)。3歳6月にデビューし、初勝利は4歳4月のホッカイドウ競馬でしたが、条件を満たしてJRAに復帰すると2021年サマースプリントチャンピオンとなり、2023年の高松宮記念(G1)で短距離界の頂点に立つなどドラマティックな競走生活を送りました。「初年度種付料は受胎条件80万円。今年は79頭の繁殖牝馬に配合を行いました」と報告がありました。続いて、2021年のJRA賞最優秀ダートホースのテーオーケインズ(2017年生、父シニスターミニスター)。偉大なる父のもとで種牡馬生活をスタートさせた同馬の種付料は受胎条件の250万円。97頭の繁殖牝馬に配合したそうです。

最後はアロースタッドで最も忙しいシーズンを過ごしたカフェファラオ(2017年生、父アメリカンファラオ)でした。史上2頭目となるフェブラリーS(G1)2連覇を成し遂げ、2022年のJRA賞最優秀ダートホース。「種牡馬生活1年目となった今年は受胎条件の150万円の種付料に設定され、191頭の繁殖牝馬に配合しています」と紹介され、その後は4班に分かれての記念撮影にご協力いただきました。

その後は自由見学となりましたが、スタリオンスタッフの方々に加え、事務局(株)ジェイエスの職員の方も応援に駆けつけていただき、お目当ての馬たちが厩舎の窓から顔を出すお手伝いをしていただきました。ありがとうございます。

桜舞馬ホースパーク

1990年に開設された桜舞馬ホースパークは「日本の道百選」「さくら名所100選」「北海道遺産」などに選ばれ日本屈指の桜の名所として多くの人から親しまれている静内二十間道路の入り口に位置する公園です。

ここにはトウショウボーイやサクラユタカオーなど、数々の名馬を輩出した種牡馬テスコボーイのブロンズ像や、静内町(現在の新ひだか町静内)やシンジケート・ハロウェー会によって建設され、ここに移設された「馬魂碑」や「功労種雄馬之碑」などがあり、また新ひだか町の由来のある多くの名馬の墓碑が建立されている。

この日までに建立されている功労種牡馬の墓碑は39基41頭、功労繁殖牝馬の墓碑は5基5頭。ほか、功労種牡馬之碑には22頭の名前が、功労繁殖雌馬之碑には70頭の名前が刻まれています。

今年春に亡くなったロジャーバローズの墓碑も建立され、手を合わせる参加者の方もいらっしゃいました。

また、この場所にはアロースタッド、レックススタッドの見学申し込みを受け付ける二十間道路案内所も設置されているので、立ち寄ったことがある方も多いかもしれません。

レックススタッド


タイトルホルダーと記念撮影1班
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桜舞馬ホースパークからは徒歩圏内にあるのがレックススタッドです。1987年に設立された、この大型スタリオンセンターはヨーロッパ風のモダンな厩舎が目印。三冠馬ミスターシービー(1999年移動)や賞金王テイエムオペラオー(2012年移動)ほか日本ダービー馬アイネスフウジン(2001年移動)、ダイナガリバー(2001年移動)などがここで種牡馬生活を送っていました。2024年シーズンはタイトルホルダーなど3頭の新種牡馬を加えた27頭の種牡馬ラインナップで941頭の繁殖牝馬に配合を行っています。

ここでは3頭の種牡馬を解説付きで個体展示を行い、残りは自由見学とさせていただきました。

最初に登場したのは2010年の日本ダービー馬エイシンフラッシュ(2007年生、父キングズベスト)でした。究極ともいえる瞬発力を武器に日本ダービー(G1)、天皇賞(秋)(G1)を制覇し、天皇賞(春)(G1)2着、有馬記念(G1)2着、宝塚記念(G1)を3着など幅広い距離で活躍し、現役引退後は2022年のジャパンカップ(G1)優勝ヴェラアズール、同年の京成杯(G3)優勝オニャンコポンなどを送り出しています。

そして2016年の日本ダービー馬マカヒキ(2013年生、父ディープインパクト)。サトノダイヤモンドやディーマジェスティ、リオンディーズといったライバルたちとの死闘を制して世代の頂点に立ち、遠征したフランスでもニエル賞(G2)に勝って世界にその名を知らしめた馬です。その後、長いスランプもありましたが8歳秋の京都大賞典(G2)に優勝。この勝利はニエル賞(G2)からは中5年28日、日本ダービー(G1)からは中5年4か月10日ぶりとなり、G1レースを勝利した競走馬の史上最長間隔の勝利記録だそうです。種牡馬としての人気も上々で、今年産声を上げた初年度産駒の1頭「デロングスターの2024」が今年のセレクトセールで1億6,500万円の評価を受けたこと、そして今年4月には3冠牝馬アパパネとの間にマカヒキの牡馬が生まれていることなどが報告され「父仔2代連続日本ダービー(G1)制覇の期待が高まります」と報告されました。

そして、最後はまだ現役時代の記憶が新しい新種牡馬タイトルホルダー(2018年生、父ドゥラメンテ)。類まれなる運動能力と心肺機能を武器に菊花賞(G1)、天皇賞(春)(G1)、宝塚記念(G1)に勝ち、凱旋門賞(G1)にも挑戦。2022年のJRA最優秀4歳以上牡馬のタイトルも手中にしています。

種牡馬初年度の種付料は受胎確認後350万円に設定され、159頭の繁殖牝馬に配合されたことが明らかになりました。

ここで、うれしいサプライズが。展示の様子を見ていた事務局から、予定にはなかったタイトルホルダーとの記念写真の許可が認められました。時間を短縮させるために2班に分かれての撮影となりましたが、参加いただいたすべての方に、タイトルホルダーとの写真に納まってもらいました。

その後は自由見学。ここでもスタリオンスタッフの方々が最後まで居残り、写真撮影に協力いただきました。ありがとうございました。

北海道市場


北海道市場で模擬せりを体験
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レックススタッドを出発したバスが向かう先はセレクションセール、サマーセールなどの舞台となっている「北海道市場」そして「競走馬のふるさと日高案内所」です。

現在の北海道市場は1985年(昭和60年)に竣工されました。総工費は5億7,395万円。鉄筋コンクリート2階建で、立ち見席も含めた収容人数は約1,200人。「東洋一」と謡われた市場設備です。ここを舞台に、賞金王となったテイエムオペラオーや、国内外のG1競走を6勝し、種牡馬としても成功を収めているモーリス、あるいはG1/Jpn1最多勝を記録したホッコータルマエなどが取引され、昨年(2023年)は、ここで4市場(セレクションセール、サマーセール、セプテンバーセール、オータムセール)合計12日間のサラブレッド市場が開催。延べ2,630頭が上場されて2,071頭が、合計180億9643万円で取引されています。

今回、企画されたのは参加者の方々に「模擬せり」を体験していただこうというものでした。

実際に北海道市場で活躍する3人の鑑定人、そしてビッドスポッターに協力いただき、2024年セレクションセールに上場された馬の中から、鑑定人が指定した馬を競り上げていただこうというものです。

昨今はインターネット、あるいはグリーンチャンネルなどを通してせり進行に慣れている方も多く、絶妙なタイミングで声がかかります。最初、慣れないうちは少し照れくさいものですが、市場全体に日々わたるような大きな声で自分の意思を鑑定人に伝えてくれるビッドスポッターにつられるように参加者のリアクションも大きくなります。そしてまた絶妙なタイミングでハンマーが振り下ろされました。

実はこの体験型プログラムは、ツアー終了後のアンケートでも高い評価をいただきました。ご協力いただきましたみなさま、本当にありがとうございました。

競走馬のふるさと日高案内所


ふるさと日高案内所
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この日を締めくくるのは「競走馬のふるさと日高案内所」。実は、私たちが1番驚いたのは、今回ツアーに参加いただいた半数以上の方が、初めてここを訪れるという事でした。ツアーにも同行していた河村所長は、日高管内にいる見学対象馬について、見学の可否、見学条件などが色別に記された大きな地図を前に「ここは、重賞競走に勝ち、引退した馬を見学できるかどうかをお知らせする場所です。見学できる場合でも、見学時間に制限がある場合がありますし、見学に際して予約が必要かどうかなど、それぞれ個別に条件が異なる場合がありますので、牧場を訪問する場合には必ずご確認ください」と説明しました。壁に貼られた引退名馬たちの写真や貴重なビデオ、DVDなどに興味を示す方や、本棚に並べられた本は「貸し出しは不可ですが、ここで見ていただくことは可能です」とのことで、もし楽しみな馬産地旅行が雨や台風なのでスケジュールの変更を余儀なくされた場合は、ここを思い出してみてはいかがでしょうか。