馬産地見学ガイドツアーレポート[ツアー3日目]
胆振管内牧場・競馬関連施設を訪問。
2024年9月7日
ビッグレッドファーム
ビッグレッドファームは1974年に設立された総合牧場です。現在、北海道と茨城県に計7つの牧場を構え、生産から育成、調教、休養に加え、種牡馬事業も展開しています。年間の生産頭数は70頭前後で、これまでユーバーレーベン(2021年オークス(G1))マイネルキッツ(2009年天皇賞(春)(G1))マイネルグロン(2023年中山大障害(JG1))ドリームバレンチノ(2014年JBCスプリント(Jpn1))などを送り出しているほか、コスモバルク(2006年シンガポール航空国際C (G1))やマイネルラヴ(1998年スプリンターズS(G1))に代表されるように毎年多くの馬を市場で購入して走らせています。
今回はビッグレッドファームで種牡馬として繋養されているウインブライト、ダノンザキッド、そしてゴールドシップの3種牡馬を木村浩史主任の案内で見学させていただきました。
この夏からデビューした初年度産駒が好調なウインブライト(2014年生、父ステイゴールド)は「海外から足を運んでいただくお客様には1番人気の馬です。すでに3頭が勝ち上がって仕上がりの早いところ、高い能力を証明出来ております。贅沢かもしれませんが、同じステイゴールド産駒のゴールドシップとうまく棲み分けができたら嬉しいなと思っています」と解説いただきました。
ダノンザキッド(2018年生、父ジャスタウェイ)は2020年のJRA賞最優秀2歳牡馬。「現役を引退し、今年の1月から種牡馬となったピカピカの1年生です。種牡馬生活の1年目はアクシデントと背中合わせということも多いのですが、順調なシーズンを過ごしました」と嬉しい報告も。「当スタリオンステーションではシーズンが終わると、どの馬も夜間放牧を行うのですが、この馬は夜間放牧をすると寂しがって痩せるくらいに歩いてしまいます」とアナウンスされると、期せずして「かわいい~」の声が。「性格をひと事でいえば〝お坊ちゃま〟。人懐っこくて、おとなしい馬です」と紹介されました。
個体展示の最後はゴールドシップ(2009年生、父ステイゴールド)。「フランスの凱旋門賞(G1)まで行った馬ですから、普段は実に堂々としています。父ステイゴールドは常にギラギラしていたような馬でしたが、この馬は比較的手がかかりません」と話し「この春は9シーズン目の種付けでしたが、もっとも多くの繁殖牝馬を集めることができました。来年春に産声をあげるこれらの馬が競走馬となって活躍してくれたときには、もっとたくさんの繁殖牝馬に配合できるようにしっかりと体調管理を行っていきたいと思います」と約束してくれました。
その後、4班に分かれてゴールドシップと記念写真におさまったあとは自由見学。ビッグレッドファームでは厩舎内からの見学も許可いただき、今回は時間の関係で個体展示できなかったダノンバラードやジョーカプチーノ、ロージズインメイらと厩舎に戻ったゴールドシップなど合計7頭を、なかなか見ることができない角度から見学させてもらいました。
また、少し離れた厩舎では23歳になったコスモバルクが元気に過ごしており、多くの参加者が訪れて再開を楽しんでいたのが印象に残りました。
ブリーダーズ・スタリオン・ステーション
ブリーダーズ・スタリオン・ステーションは1988年に門別地区(現在の日高町)に設立された大型スタリオン施設です。12haの敷地の中には10馬房の本厩舎含め4つの厩舎を構え、過去には3年連続ダートチャンピオンサイアーに輝いたアフリートや、三冠馬オルフェーヴル、二冠馬ゴールドシップを輩出したステイゴールド、あるいはスリルショー(2000年移動)などを繋養していました。2024年シーズンはリアルスティールやリオンディーズ、ブラックタイドなど20頭の種牡馬で延べ1,245頭の繁殖牝馬に配合を行いました。
遠藤常務からは「2024年シーズンのブリーダーズ・スタリオン・ステーションはマテラスカイの急逝という悲しい事故がありましたが、1,200頭を超える繁殖牝馬に配合することができました。今日は8頭の種牡馬を紹介いたしますので、楽しんでください」と、あいさつをいただきました。
ここでは、最多となる8頭の個体展示を見学いただきました。
最初に登場したのは第37回ジャパンカップ(G1)優勝馬のシュヴァルグラン(2012年生、父ハーツクライ)。「産駒メリオーレムが菊花賞(G1)候補の1頭となっています。本馬の競走馬成績同様に晩成型だと思っています」と紹介され、続いて初年度産駒がデビュー年度を迎えているフォーウィールドライブ(2017年生、父アメリカンファラオ)。「米国三冠馬アメリカンファラオ直仔として初めて日本に輸入された馬です。カフェファラオと似た血統構成というのもセールスポイントの一つだと思っています」と期待のコメントが送られました。また、2015年の最優秀4歳以上牡馬ラブリーデイ(2010年生、父キングカメハメハ)は「産駒は中央、地方のいろいろな舞台で活躍しています。本馬同様にタフに長く活躍できるように期待しています」とエールが送られ、父仔2世代連続で香港スプリント(G1)制覇を成し遂げたダノンスマッシュ(2015年生、父ロードカナロア)は「胴が詰まって、いかにもスピードがありそうな体型をしており、その体型どおりの活躍をしてくれました。来年デビュー予定の初年度産駒は市場での評価も高く、期待が膨らみます」と期待のコメントが重ねられました。
史上5頭目となる天皇賞(春)(G1)2連覇のフィエールマン(2015年生、父ディープインパクト)は「G1競走3勝はいずれも着差はわずかでしたが、勝利をもぎ取る勝負強さをもっていました」と紹介され「芝の中、長距離を得意としていました、血統からはスピード能力を秘めていると思います。フィエールマン自身が3歳デビューですから、これからデビューしてくるような産駒を楽しみにしていてください」と紹介され。続いて今シーズンからブリーダーズ・スタリオン・ステーションに移籍してきたサトノダイヤモンド(13年生、父ディープインパクト)。ちょうど産駒のシンリョクカが新潟記念(G3)に勝利した直後の訪問となりましたが「産駒のサトノグランツ、シンリョクカが芝の中、長距離で活躍しており、芝の中、長距離が主戦場となりそうですが、芝の短距離重賞で活躍する馬もおり活躍の場が広がっています」と嬉しい報告がありました。
そしてG1/Jpn1で史上最多の11勝を記録したコパノリッキー(2010年生、父ゴールドアリュール)については「産駒が今年のケンタッキーダービー(G1)で5着と健闘しました。産駒の活躍は主にダートコースで活躍していますが、芝の重賞で入着する馬や、芝の新馬戦に勝利している馬もおります。また、本馬が息の長い活躍をしたことから産駒にも同様の期待がかけられます」。
コパノリッキーの展示終了後には4班に分かれての記念撮影を行い、そして最後は2014年のJRA賞最優秀4歳以上牡馬で、ワールドベストレースホースランキング1位のジャスタウェイ(2009年生、父ハーツクライ)。「ダノンザキッド、テオレーマなど産駒は芝、ダート両部門でチャンピオンホースを送り込み、昨年のサイアーランキングでは当スタリオン最上位の成績でした」と報告されるなか、580kgという充実の馬体で周回を重ねました。
その後は自由見学。3つの厩舎に分かれるなか、キセキやリオンディーズ、リアルスティールなど参加者の方はそれぞれ思い思いの馬たちの馬房の前で時間を過ごしていただきました。
ノーザンホースパーク
ビッグレッドファーム、そしてブリーダーズ・スタリオン・ステーションでたっぷりと懐かしい名馬たちとの再会を楽しんでいただいたあとは、昼食会場を兼ねたノーザンホースパークへと向かいます。
ここは、「馬と自然とひとつになる」をコンセプトとする馬に関する総合テーマパークです。
競馬ファンにはセレクトセールの会場として、馬術競技に興味のある方なら各種馬術競技大会の会場として、そして市民ランナーの方々にはノーザンホースパークマラソンの会場として親しまれ、そういった方々以外の方々でもご家族で、友人と、またひとりでも楽しむことができるように様々なイベントが用意されています。
バスで到着した一行は、そのまま昼食会場「バックヤードグリル」にてボリューム満点のバーベキューセットをお楽しみいただいたあとは完全自由行動に。
「ハッピーポニーショー」はかわいらしいポニーたちが、さまざまなパフォーマンスを披露してくれます。その様子はSNS等でご覧になった方も多いと思います。ほか観光ひき馬、観光馬車、あるいは新設されたディープインパクトゲートやここでしか手に入らないレアグッズなどの買い物を楽しんでいただきました。
そんなたくさんのアトラクションが用意されているノーザンホースパークにはかつて競走馬として、あるいは種牡馬として活躍した馬たちが多数在籍しています。競技用として大活躍しているブラストワンピースや種牡馬として重賞勝馬を送り出したキンシャサノキセキほかフォゲッタブルやミッキースワロー、レインボーラインなど。ツアーで訪れた数日後にヴァーミリアン急逝という悲しいニュースもありましたが、当日は多くのファンに囲まれていました。
そんな豪華ラインナップではありましたが、ツアー参加者の1番人気は33歳となったウインドインハーヘアでした。ディープインパクト、そしてブリーダーズ・スタリオン・ステーションで見学させてもらったブラックタイドのお母さんです。訪れた時間帯は残念ながら放牧時間ではありませんでしたが「ニッポンの競馬を変えた馬」の威厳を感じ取った方も多かったのではないでしょうか。
社台スタリオンステーション
楽しかった「2024北海道馬産地見学ガイドツアー」の最後は社台スタリオンステーションです。
ここでは、社台スタリオンステーション、いや日本が誇る種牡馬ラインナップ22頭を見学台から見学させてもらいました。案内役は種牡馬展示会の進行役、そしてセレクトセールの鑑定人でもお馴染みの三輪さんにしていただきました。「写真を撮るのも大事かもしれませんが、実際に馬をご覧いただけるのは、本当にわずかな方々です。この機会を大事にして、ご自身の目にしっかりと焼き付けてください」と言うのは、本当は私たちが言わなければならない事だったのかもしれません。ありがとうございます。
「登場の順番に意味はありません。準備ができた馬から出てきます」とは言うものの、どこから出てきても豪華ラインナップ。
いきなり登場してきたのが年度代表馬にして2020~2023、そして2024年もサイアーランキング第2位のロードカナロア(2008年生、父キングカメハメハ)でした。「時代の流れとともに配合する繁殖牝馬の血統も変わってきます。いろいろな牝馬と配合させたいので、長い種牡馬生活を送ってほしい」。例えが不謹慎かもしれませんが、いきなりメインディッシュを提供されたような気持になりますが、その思いはすぐに吹き飛びます。胃もたれする暇もなく次に登場してきたのは三冠馬コントレイル(2017年生、父ディープインパクト)でした。「うわぁ」と歓声があがります。「三冠馬から、三冠馬という期待はもちろんですが、いろいろなジャンルからチャンピオンホースを出せたら、それがディープインパクト系を発展させることになる。それが彼に対する恩返し」と決意をのぞかせてくれました。それから新種牡馬のシュネルマイスター(2018年生、父Kingman)。「ドイツのA級牝系にさかのぼるファミリーで、スピード値の高いステイヤー血統。成功してほしい」と言葉を続けます。
そして、2024年サイアーランキング暫定第1位のキズナ(2010年生、父ディープインパクト)は「自分自身のことを王様だと思っている馬。優れた種牡馬となるためにはメンタルも大事という事を証明してくれた」。その後、「産駒デビューが楽しみ」グレナディアガーズ(2018年生、父Frankel)「産駒が高評価を受けている」ダノンキングリー(2016年生、父ディープインパクト)「自身の優れた部分を産駒に伝えている。この馬の現役時代のレースを見直して欲しい」ルヴァンスレーヴ(2015年生、父シンボリクリスエス)と続きます。そして「年を重ねるごとに配合する牝馬のレベルがあがり、今年は欧州からも配合に来ている」というキタサンブラック(2012年生、父ブラックタイド)と「社台スタリオンステーションとしてはサンデーサイレンス以来の米国年度代表馬。サンデーサイレンス級の活躍を期待している」と言うブリックスアンドモルタル(2014年生、父Giant's Causeway)と日米年度代表馬が続きます。
豪華ラインナップはまだまだ中盤。「典型的なダート中距離馬。ダート三冠を狙えるような馬を期待したい」クリソベリル(2016年生、父ゴールドアリュール)「マルチな才能を伝える優れた種牡馬。日本ダービー馬の父であることを評価いただきたい」サトノクラウン(2012年生、父Marju)。「今年は2歳サイアーランキングの暫定トップ。産駒の活躍によって繁殖牝馬のレベルもあがっており、今以上が期待できる」エピファネイア(2010年生、父シンボリクリスエス)、「数少ない産駒がデビューするや大活躍。社台スタリオンステーションの歴史で最大級に種付料が跳ね上がったが、2年目産駒も活躍を予感させるもので、偉大なる種牡馬になる可能性を感じさせる」スワーヴリチャード(2014年生、父ハーツクライ)の登場です。そして「絶好のスタートを切り、新たな名種牡馬誕生を予感させる」サートゥルナーリア(2016年生、父ロードカナロア)が矢継ぎ早に登場してきます。
さらに「性別問わず、芝ダート問わずに活躍馬を送り、フジキセキらしさを良く受け継いでいる」イスラボニータ(2011年生、父フジキセキ)のあとは「マルシュロレーヌにウシュバテソーロなど産駒が世界のトップレースを制するなど、良い意味で期待を裏切る」オルフェーヴル(2008年生、父ステイゴールド)には「いつまでも少年の心を失わない馬。自分自身、オルフェーヴルみたいに年齢を重ねたい」と笑いを誘っていました。
ナダル(2017年生、父Blame)は「配合によって色々な産駒が期待できるフィジカルモンスター」と表現され、レイデオロ(2014年生、父キングカメハメハ)は「水準以上の成績を残していますが、期待が大きかったゆえの苦悩を味わっています。ただ、サンデーサイレンスの血を持たないキングカメハメハ直仔で日本ダービー(G1)と天皇賞(秋)(G1)を勝った馬ですから、大きな期待以上のぜひ成功に導きたい」と力を込めていました。
「驚異的な勝ち上がり率を記録した」ニューイヤーズデイ(2011年生、父Street Cry)は「コスパの良いというポジションを確立させたい」とエールを送り「スピードタイプのハーツクライ系」と表現されたサリオス(2017年生、父ハーツクライ)は初年度から多くの繁殖牝馬を集めたことが報告されました。
供用2年目エフフォーリア(2018年生、父エピファネイア)は「コントレイルを負かした馬。今年生まれた産駒はセレクトセールでも高い評価をいただきました」と期待の高さをうかがわせ、最後はイクイノックス(2019年生、父キタサンブラック)。「絵になる馬。史上最高のお膳立てを整えられて、200頭を超える繁殖牝馬に配合しました。楽しみしかありません」と締めくくっていただきました。
あっという間の75分。とても贅沢な時間でしたが、もしかしたら1番贅沢だったのは時に血統マニアをうならせるような、そして時にとても分かりやすく、比喩やユーモアを交えながら75分にわたってお話いただいた三輪さんの解説だったのかもしれません。ありがとうございました。
そして、一行を乗せたバスは新千歳空港へと向かいます。社台スタリオンステーションから新千歳空港までは約15分。余韻に浸る間もなく次の目的地へと到着するのも、このツアーならではです。
今回は、ご参加いただいたみなさまのご協力で、ケガや病気トラブルなく無事に全行程を終了させることができました。この場を借りて、厚く御礼申し上げます。
さいごに
令和の競馬ブームともいわれる昨今、中央競馬、地方競馬ともに多くのファンに支えられて売り上げを順調に伸ばし、また競走馬市場も活況を呈しています。それらと足並みを揃えるようにウマ娘に代表される競馬ブームは馬産地にも広がりを見せ、ゴールデンウィークや夏休みには多くの方が馬産地に足をお運びいただきました。そのような状況の中で、どのような形で「競走馬のふるさと案内所」ならではのツアーを行うかは、大きなテーマでした。参加型の市場体験や、デビュー前の1歳馬見学を行程の中に組み入れたのは、ある意味でチャレンジでした。限られた時間の中で、かつてターフを賑わせ、今は第2、第3のステージを歩んでいる馬たちを1頭でも多くご紹介したいという気持ちはもちろんあります。でも、生産地には明日のスターを夢見て頑張っている馬たちと、そういう馬たちを懸命にサポートしている人がたくさんいます。そんな人たちを、ご紹介していきたいという気持ちも同じくらいに強いのです。ツアー終了後のアンケートでは多くの方にご好評をいただきました。改めて感謝申し上げます。ツアーは、来年も開催予定です。ぜひお誘いあわせの上、ご参加いただければ幸いです。本当に、ありがとうございました。