2019秋 北海道馬産地見学ガイドツアー 現地取材レポート

馬産地見学ガイドツアーレポート[ツアー2日目]

ツアー2日目:朝から雨が降る中、レインコートを着て門別・静内・新冠地区のスタリオン・生産牧場をめぐりました。

2019年10月4日

まだ夜が明ける前、窓を叩く雨の音で目が覚めました。この日は、もっとも多くの馬の見学を予定していましたが、予定を大幅に変更せざるを得ません。それでも、競走馬のふるさと日高案内所の河村所長が訪問先と連絡を取り合って、少しでも良い条件で馬を見てもらおうと交渉を続けています。

荒木貴宏牧場


えさやり体験
他の写真を見る
他の写真を見る

ホテルを出て約30分。荒木貴宏牧場に到着しました。ここは、生産から育成まで行っている個人牧場ですが、近年では引退名馬の飼養管理にも力を入れている牧場です。今回はオリオンザサンクス、トーシンブリザード、ロードクロノス、ブライアンズロマンなどを見せていただきました。本当は、放牧地で自由気ままに過ごす馬たちを自由に見学していただく予定でしたが、2班にわけて、厩舎の廊下から、馬房の中にいる馬たちを見学。そしてにんじんのえさやり体験も行いました。なかなか馴染みのない馬たちかもしれませんが、ホッカイドウ競馬出身のオリオンザサンクスは南関東の変則三冠馬(羽田盃、東京ダービー、ジャパンダートダービー(G1))で、トーシンブリザードは南関東三冠馬にしてジャパンダートダービー(G1)も勝って、フェブラリーS(G1)2着馬。43勝をあげたブライアンズロマンは、今はなき北関東競馬の三冠馬にして日本競馬史上最多勝(当時)となる43勝をあげた名競走馬で、年齢は28歳。今回のツアーでプランされている馬の中では最高齢馬です。

えさやり体験では、小さく切ったにんじんを、ブライアンズロマンを除く馬たちに食べさせてあげるのですが、指でつまむのではなく、手のひらに乗せて食べさせてあげると、馬も食べやすいという説明には「えーーっ」と反応。最初は恐る恐るといった参加者でしたが、慣れるにしたがい、馬との距離感を楽しんでいるようにも見えました。雨の中、変わらぬ対応をいただいた上に、帰りには、ポストカードと昆布のお土産までいただき、荒木さんには本当に感謝です。

日本軽種馬協会静内種馬場


デクラレーションオブウォー
他の写真を見る
他の写真を見る

荒木貴宏牧場を出た一行は、桜並木で有名な二十間道路にあるスタリオンへと向かいます。最初に訪れたのは、競走馬のふるさと案内所を統括する日本軽種馬協会の最前線基地とも言うべき静内種馬場です。

雨は、若干小降りにはなったものの、相変わらず降り続いています。せまいバスの中でレインコートの着脱をお願いするのは心苦しいばかりです。ここでは、遊佐場長から歓迎のあいさつをいただいたのち、屋根がある場所で見学をスタート。中村さんの解説により、産駒活躍中のヨハネスブルグ、バゴ、産駒のデビューを来年に控えているクリエイターⅡをご紹介いただいたところで、雨が上がったので同じく産駒デビューを来春に控えるマクフィと新種牡馬デクラレーションオブウォーは普段、展示会などでも使われる馬見せスペースに移動して見学いただきました。すべての馬が外国産馬で、実際のレースを見た方はおそらくいないと思いますが、ヨハネスブルグは欧米2歳チャンピオン、日本生産界にとって悲願ともいえる凱旋門賞(G1)に勝っているバゴは全欧3歳牡馬チャンピオンであると同時に、菊花賞馬ビッグウィーク、そしてこのツアーのあとに行われた秋華賞(G1)を勝ったクロノジェネシスの父でもあります。日本から参戦したラニをやぶってベルモントS(G1)に勝利したクリエイターⅡや、英国2000ギニー(G1)優勝馬マクフィ、そして初年度産駒からフランスのクラシック勝馬を送るデクラレーションオブウォーは将来の日本を背負って立つ存在と期待されている馬たちなのです。

日本軽種馬協会は、これら優秀な種牡馬をとおして国際競争力をもつ馬の生産育成を支援し、発展を支えているのです。

アロースタッド


ディーマジェスティ
他の写真を見る
他の写真を見る

日本軽種馬協会静内種馬場を出て、隣接するアロースタッドへと向かいます。当初の予定では4頭ほどを展示いただいたあと、放牧されている馬たちを自由にご覧いただく予定でしたが、放牧地周辺がぬかるんでいることなどを考慮し、つい4か月ほど前に日本ダービー(G1)を勝ったばかりのロジャーバローズを含め、見学できる馬たちをすべて1頭ずつ見せていただくことになりました。中でも、解説を担当いただいた岩間さんには当初、予定になかった馬を解説いただくことにもなり、本当にありがとうございました。

最初に登場したのは、札幌記念(G2)を制したトウケイヘイロー。続いて産駒が中央、地方で大活躍中のシニスターミニスターです。そして、人気は1、2を争うというペルーサ、産駒の活躍によって種牡馬復帰を果たしたナカヤマフェスタなどが矢継ぎ早に登場。参加者の方々は必死にカメラで追いかけますが、朝日杯フューチュリティS(G1)、そしてNHKマイルC(G1)に勝ったグランプリボスや高松宮記念(G1)優勝馬ビッグアーサー、マカヒキやサトノダイヤモンドと死闘を繰り広げた皐月賞馬ディーマジェスティなどが息つく暇も与えてくれません。途中、1度はあがった雨が強くなってきましたが、バスに戻る人もなく、ヒーローたちとの再会に夢中のようでした。その様子を見ながら、改めて雨を恨みます。

この馬だけは、と言うと怒られそうですが快晴の元でご覧いただきたかった尾花栗毛のトーホウジャッカルは菊花賞(G1)をレコード勝ちした馬。そして最後を飾るのはロジャーバローズ、ワンアンドオンリーと豪華ダービー馬の連続展示でした。

展示いただいた総勢18頭の馬々もそうですが、松木場長以下、馬を引くスタッフの方々もずぶぬれになりながらの対応に感謝です。少しだけ余った時間は厩舎の中にいる馬たちを見学いただきながら、アロースタッドでの見学が終了しました。

桜舞馬公園

アロースタッドの見学を終えた一行は、トイレ休憩をかねて桜舞馬公園(オーマイホースパーク)で態勢を整えます。ここは偉業を成し遂げたサラブレッドたちの功労を称え、冥福を祈るとともに業界の発展を期する静内軽種馬生産振興会が平成2年に開設した公園で、場内の中心には大種牡馬テスコボーイのブロンズ像が設置されているほか、静内町(現在の新ひだか町)やシンジケート・ハロウェー会が建設した「馬魂碑」「功労繁殖牝馬之碑」も移設されている。また、サクラユタカオーやタマモクロス、ブライアンズタイムなど静内町のゆかりのある功労種牡馬の墓碑が35基37頭、功労繁殖牝馬の墓碑が5基5頭設置されているほか、功労種牡馬之碑には22頭が刻銘され、功労繁殖牝馬之碑には65頭の名前が刻まれています。

レックススタッド


タニノギムレット
他の写真を見る
他の写真を見る

30頭近い種牡馬が繋養されているレックススタッドは、社台スタリオンステーションやアロースタッドと並ぶ国内屈指の大型スタリオンステーションです。ここも当初の予定では放牧されている馬たちを自由に見学いただく予定でしたが、雨が止む気配がないために厩舎内での見学に予定を変更せざるを得ませんでした。

2つある厩舎の、どの場所にどの種牡馬がいるかという見取り図を事務局の石川さんに作っていただき、見学を開始します。

年度代表馬モーリスを送ったスクリーンヒーローや、産駒デビューが来年に迫った国際派ランナーのエイシンヒカリなどに混じって、とくに女性からの人気が高いエイシンフラッシュや今年から種牡馬デビューを果たした芦毛のスノードラゴンや、個性派スプリンターのハクサンムーンなども人気に的。ほか2冠馬ネオユニヴァースやダービー馬タニノギムレットの馬房の前にもたくさんの人だかりが出来ていました。
昼食は「海が見える温泉施設」、新冠温泉レ・コードの湯ホテルヒルズへ。本当は、温泉で冷えた体を暖めていただきたかったのですが時間的にそれは叶わず、それでもヒルズ自慢の料理に舌鼓を打ちながら、参加者同士の親交を深めていただきました。

優駿スタリオンステーション


ベストウォーリア
他の写真を見る
他の写真を見る

午後になって、雨は若干小降りにはなってきましたが、まだ完全にあがっているわけではありません。気を取り直して向かう先は優駿スタリオンステーションです。ここでは、一部の馬たちを、厩舎内の広い廊下を利用して展示いただきました。

屋内での展示ではありましたが、グランプリホースのゴールドアクター、天皇賞馬レインボーライン、宝塚記念(G1)優勝ミッキーロケットほか、ディープインパクトの最高傑作とも噂される未完の大器シルバーステート、長くダート重賞戦線を賑わせたベストウォーリアが事務局の椎名さんの説明とともに順番に引いて出されます。他との比較では広いとはいえ、厩舎の廊下は本来、馬を見るための場所ではありません。馬との距離が近く、一部の方々には怖い思いをさせてしまったかもしれませんが、逆に言えば種牡馬の迫力のようなものをお感じいただけたかもしれません。そして、今回、展示された馬たちは引退してまだ日が浅い馬ばかり。現役時代のイメージを蘇らせた人もいるかもしれません。

展示終了後は厩舎内で見学いただきました。カレンブラックヒルやロジユニヴァースといった現役種牡馬たちとともに、後日、訃報が伝えられたマヤノトップガンも厩舎内でご覧いただくことが出来ました。年齢は重ねましたが、さすが時代を築き上げた名馬のオーラは健在。たくさんの方がカメラにその姿を納めていました。

優駿メモリアルパーク

優駿スタリオンステーションでの見学時間を終え、かつてこの場所で種牡馬生活を送っていた種牡馬の碑が建立されている優駿メモリアルパークへと移動すると、雨はほとんど上がっていました。オグリキャップのホワイトブロンズ像に見守られるここにはナリタブライアンの記念品が飾られている記念館があるほか、コマンダーインチーフやキングヘイローといった活躍種牡馬の墓碑があります。刻まれた名前を見ながら、在りし日の名馬を思い出し、冥福を祈る。それだけで、どこか心が洗われたような気持ちにもなります。

名物のソフトクリームを口にする人、トイレ休憩でリセットする人、時間の過ごし方がそれぞれでしたが、思うことは同じです。「あと6時間ほど早く低気圧が通り過ぎてくれたら」。

ブリーダーズ・スタリオン・ステーション


ヴィクトワールピサ
他の写真を見る
他の写真を見る

すっかり天候に翻弄された感のあるツアー2日目でしたが、馬の見学としては、この日最後となる日高町のブリーダーズ・スタリオン・ステーションへと移動します、

優駿スタリオンステーションからブリーダーズ・スタリオン・ステーションまでの移動は時間にすれば約50分。
ここでは7頭の種牡馬を展示会風に、遠藤さんから解説いただきました。

最初に登場してきたのは今年から種牡馬生活をスタートさせたグレーターロンドンです。慢性的となった脚部不安と戦いながら、それでも中京記念(G3)をレコード勝ち。全15戦中、8戦で出走メンバー最速の上がりタイムを記録した馬でした。続いて同じディープインパクト産駒のマイルチャンピオンシップ(G1)優勝馬ダノンシャーク、最優秀4歳以上牡馬のラブリーデイ、最優秀2歳牡馬リオンディーズ、G1/Jpn1最多勝を記録したコパノリッキーとフレッシュな種牡馬がラインナップされたあとは、実績十分のベテラン種牡馬2騎。12歳になったヴィクトワールピサと、キタサンブラックの父であり、ディープインパクトの全兄ブラックタイド。ときおりユーモアを交えた分かりやすい解説は種牡馬に対するリスペクトと、愛情に満ち溢れ参加者たちの心をも和ませてくれるものでした。

その後は、展示された馬も交えて厩舎に戻された馬たちを、厩舎の裏戸越しに見学させていただきました。

日胆サドラー

11回目となる競走馬のふるさと案内所馬産地見学ガイドツアーとなりますが、日高の馬具屋さん「日胆サドラー」に立ち寄るのは初めてです。

今やハイブランドショップとして世界的に有名なシャネルやエルメスも、元々は馬具の専門店からスタートしたという経緯もあります。初めて立ち寄る場所だけに参加者の方々の反応は、私たちにとっても興味深いものでしたが、思いのほか高評価。乗馬の経験者にとっては「ビックリするくらいに安い」「いろいろな馬具があって楽しい」という声をいただきましたし、乗馬の経験がない方には「鞭や頭絡を触るのは初めて」「アクセサリーとしても欲しいものがたくさん」と喜びの声が届けられました。

その後、一行が向かうのは登別。北海道を代表する温泉地でもありますし、ゆっくりと温泉につかり冷えた体を暖めて最終日に備えていただきたいと思います。