馬産地見学ガイドツアーレポート[ツアー3日目]
最終日は日高地域の見学を終えて、午後からは胆振地域の見学でクライマックスをむかえます。
2015年9月19日
ダーレー・ジャパン スタリオンコンプレックス
最終日の朝を迎えました。どんよりした空模様となりましたが、雨粒は落ちていません。出発が朝7時15分で、朝食時間がややタイトになってしまいましたが、最終日も多くの馬たちが一行を待ち構えています。静内エクリプスホテルに宿泊した参加者は、いくつもの馬の絵画が飾られているロビーを出て、バスへと乗り込みました。
バスは苫小牧方面に向かって走ること約45分。最初の目的地であるダーレー・ジャパン スタリオンコンプレックスへ到着しました。案内役はこのツアーでおなじみ、ノミネーションオフィスの石澤考康さんです。ここでは5頭の種牡馬が展示となりました。まず登場したキングズベストはすでに海外で実績を築いている馬で、貫録たっぷりに歩きました。優等生タイプのアドマイヤムーンは展示のお手本のように立ち回り、フリオーソは名種牡馬ブライアンズタイム産駒らしい体つきでした。ドバイワールドC(G1)の勝ち馬モンテロッソは、海外で高い評価を受けているドバウィの貴重な直子として、石澤さんから熱の入った解説がありました。最後に登場したのがパイロ。日本で着実に頭角を現し、今年はシゲルカガが交流重賞を勝ちました。自信に満ちた表情と、迫力のある馬体は充実ぶりを物語っていました。最後に厩舎をバックに全員で記念写真を撮り、牧場をあとにしました。ある女性参加者は「こんなに優雅な雰囲気の牧場は初めて」と、感想を話していました。
ベーシカル・コーチング・スクール
続いて一行が訪れた牧場は、ベーシカル・コーチング・スクールです。平成8年設立の育成牧場で、“人馬共に基本・基礎造りを大事にしたい”という想いから牧場名が付きました。バスを降りると調教コースやウォーキングマシーンが見えました。
ここでは1993年の皐月賞馬で、功労馬生活を送っているナリタタイシンを見学しました。現役時代はこのツアーの初日に対面したウイニングチケットと、日西牧場で余生を送っているビワハヤヒデと3強を形成し、それぞれクラシックを1冠ずつ分け合い、ドラマチックな戦いを繰り広げました。今年25歳となりましたが、スタッフの方によれば、夏は元気に夜間放牧をしていたそうです。厩舎前で記念写真を撮ると、牧場の高橋司代表の厚意で、特別に馬を撫でることができました。本来、見学で馬に触ることはマナーに反し、今回のツアーでも参加者が馬に触れる機会は、ほとんどありません。高橋代表はマナーの重要性に配慮しつつ、学校の先生のように馬を触る上での注意点を説明し、馬のそばへ参加者を招きました。ナリタタイシンは終始大人しく、参加者はじっくりと手触りを確かめていました。
ノーザンホースパーク
3日間の日程を組んでいたツアーも、いよいよ終盤を迎えます。日高を通過して、今度は胆振へ。着いた先は苫小牧市にあるノーザンホースパークです。「人と馬と自然」をテーマとした公園で、ディープインパクトやキングカメハメハ、先ほど見学したアドマイヤムーンらが取引されたセレクトセールの会場でもあります。
ここからは競走馬のふるさと案内所・胆振連絡センターの高橋啓太さんがツアーに同行し、参加者を案内しました。高橋さんは北海道市場の鑑定人としても活躍していて、インターネットのセール中継で声を聞いたことのある参加者もいたかもしれません。
ちょうどお昼の時間に差しかかり、ノーザンホースパークでは「K’s Garden」で昼食をとりました。食事の前後では散策時間を設け、参加者は自由に園内をめぐり、「HAPPYポニーショー」を観覧したり、余生を送っているウインドインハーヘア(ディープインパクトの母)やG1馬デルタブルース、アロンダイトらを探したり、グッズショップでお土産を物色したりしました。屋外馬場ではちょうど「北海道秋季馬術大会」が開かれており、乗用馬の華麗なジャンプも目の当たりできました。
社台スタリオンステーション
午後に入って向かったのは社台スタリオンステーションです。まず一般見学エリアに入り、一昨年に亡くなったトウカイテイオーのお墓参りをしました。月刊誌「優駿」が実施した「未来に語り継ぎたい名馬100(2015年版)」では第8位に名を連ね、その美しい流星と弾むような走りは、競馬ファンの記憶に深く刻まれています。お墓は生前過ごした放牧地の近くにあり、参加者の代表者が花を手向け、全員で手を合わせました。
その後、一行は社台スタリオンステーションの種牡馬厩舎へ移動し、事務局の三輪圭祐さんの案内で、25頭の種牡馬と対面しました。展示となった馬たちは豪華G1馬がズラリ。種牡馬入りしたばかりのエピファネイア、フェノーメノはまだ競走馬らしく、この春に初シーズンを送ったジャスタウェイ、ベルシャザールも若々しい姿でした。今年、267頭と交配して記録を打ち立てたロードカナロア、産駒の評価が高いルーラーシップは落ち着き払っていて、そのあたりの気性は「キングカメハメハ産駒らしい特徴」と、三輪さんより解説がありました。実力も個性も抜きん出ているオルフェーヴル、サラブレッドの理想的な体型を成すエイシンフラッシュ、この2頭はとりわけファンからの人気が高く、参加者の反応もしかりでした。今年もトリを務めたのはディープインパクト。圧倒的な存在感を示し、あっという間にその場の空気を支配しました。対面を楽しみにしていた参加者も多く、中には感極まっている参加者も見受けられました。
ノーザンファーム
ツアーもいよいよ最後の目的地へ。日本を代表する大牧場・ノーザンファームへと到着しました。今年も事務局の中尾義信さんがバスに乗り、じっくりと牧場内をまわりました。車窓からは広々とした放牧地や点在する厩舎が見え、建設中の新しい調教コースや、ダービー馬アドマイヤベガ、フサイチコンコルドらが鍛えられた屋外坂路コース付近を通りました。屋内坂路の頂上ではバスから降り、ウッドチップが敷き詰められた馬場に入ると、コースの起伏を実感できました。中尾さんは牧場の歴史を紹介した後、ユーモアをまじえながら場内施設を案内し、離乳方法や夜間放牧、牧柵の工夫などをわかりやすく説明しました。また、生産馬のエピソードにも触れ、ディープインパクトの育成時代や、今年の日本ダービー(G1)を制したドゥラメンテの近況を知ることができました。社台グループの創始者・吉田善哉さんの時代から仕事に励んでいる中尾さんの語りは、豊富な経験や馬との出会いに裏打ちされた強さや自信を携えていて、世界に通用する馬づくりへの想いがひしひしと伝わってきました。
こうして、3日間のツアーは幕を閉じました。参加者からは「沢山の馬に会えて良かった」という声もあれば、「ゆっくり馬を見たかった」という声もあり、そのあたりの調整は、毎年悩ましい部分となっていますが、今年も各牧場の協力を得ながら、無事にツアーを実施することができました。ツアーの終わりに同行スタッフが改めて挨拶をすると、参加者から温かい拍手があり、スタッフ一同深く安堵しました。参加者の皆さん、お疲れさまでした。ツアーを経て、皆さんの競馬ライフで「あ、あの馬の子が走っている」、「あの牧場の馬が走っている」というシーンが度々生まれることを願っています。