重賞ウィナーレポート

2023年04月30日 天皇賞(春) G1

2023年04月30日 京都競馬場 曇 稍重 芝 3200m このレースの詳細データをJBIS-Searchで見る

優勝馬:ジャスティンパレス

プロフィール

生年月日
2019年04月12日 04歳
性別/毛色
牡/青鹿毛
戦績
国内:10戦5勝
総収得賞金
653,878,000円
ディープインパクト
母 (母父)
パレスルーマー(USA)  by  Royal Anthem(USA)
馬主
三木 正浩
生産者
ノーザンファーム (安平)
調教師
杉山 晴紀
騎手
C.ルメール

 圧倒的な一番人気に支持されたタイトルホルダーが、2周目の第3コーナーで競走中止。そして、タイトルホルダーと共にレースを引っ張っていったアフリカンゴールドも心房細動を発症して、2周目の向こう正面で競走中止となった今年の天皇賞(春)(G1)。

 一流馬が揃うG1の舞台、そして、国内のG1レースでは最長となる、京都競馬場芝3200mの条件もまた、出走馬たちにとってタフなレースだったのかもしれない。それだけに、前走の阪神大賞典(G2)から続けて3000m越えのレースを走りながら、G1初制覇を飾ったジャスティンパレスの能力は高く評価されるべきだろう。

 「競走中止となってしまったアフリカンゴールド、タイトルホルダーを含め、全ての馬が力を出し尽くしたレースだったと思いますし、そこでG1初制覇を飾れた嬉しさもあります。ただ、ゴールの後は2頭のことが心配になっていましたし、大事には至らないと分かった時にはホッとしました」とジャスティンパレスの育成に携わった、ノーザンファーム空港の伊藤隆行厩舎長はレースを振り返る。

 2番人気で臨んだ天皇賞(春)(G1)であったが、その前日の青葉賞(G2)では、同じノーザンファーム空港の育成馬であり、個人的にも親しい関係である、田中洋二厩舎長が育成を手掛けたスキルヴィングが優勝していた。

 「田中厩舎長にはレース後すぐにお祝いの連絡を入れましたが、話している自分もどこか、スキルヴィングや田中厩舎長に応援されているような気がしました」(伊藤厩舎長)

 そんな伊藤厩舎長の気持ちを更に高めたのが、パドックを周回するジャスティンパレスの状態の良さだった。

 「周回している際にも、周りをしっかりと確認できる精神的な余裕も感じられました。馬体の張りなども申し分なく、まさに心技体揃った状態であると確認できました」(伊藤厩舎長)

 阪神大賞典(G2)の際には伊藤厩舎長が「一歩目を降ろした瞬間に馬が変わった」と話していた返し馬であったが、今回もまた、ルメール騎手の気遣いが感じ取れたという。

 「返し馬も最後までまってからキャンターに入ってくれましたし、その後も力みも無く、いいリズムで走らせてくれていました。それを見た時には、あとはゲートさえ無事に出てくれれば何とかなると思っていました」(伊藤厩舎長)

 先行馬2頭が互いにハナを主張したレースは、1000m通過が59秒7と、長距離戦としては速いペースで流れていく。その2頭から10馬身程離れた中団にジャスティンパレスの姿はあった。

 「まずは無事にゲートを出てくれたことにホッとしていました。中段からのレースとなりましたが、馬のリズムで走らせた時に、あのポジションになったのではと思います。折り合い面も含めて、その姿はパーフェクトと呼ぶに相応しいと騎乗であり、さすがクリストフ(ルメール騎手)だなと思っていました」(伊藤厩舎長)

 2周目の第4コーナーで、内から先頭をうかがっていたのはアイアンバローズ。その外からはディープボンドも一気に脚を伸ばしてくる。ただ、まるでその展開も分かっていたかのように、ジャスティンパレスとルメール騎手は、ディープボンドの後ろに付けると、最後の直線ではその外へと進路を向けていく。

 「ディープボンドをマークしていった道中の動きや、ロスなく外に進路を向けて、自分が動けるポジションを取りに行った上手さなど、この辺もまたパーフェクトだったと思います。ゴールの瞬間は三木オーナーや杉山調教師、そしてノーザンファームしがらきのスタッフや、自分の厩舎のスタッフなど、この馬に関わってきたみんなとの思い出が一気に頭をよぎって、胸が熱くなりました」(伊藤厩舎長)

 人馬一体でゴールを目指す競馬だが、その割合は「馬七人三」と言われることもある。長距離戦では更に人の比重も増すとは言われているが、ただ、パーフェクトな騎乗をしたルメール騎手だけでなく、この勝利はジャスティンパレスが、その好騎乗に応えるだけの成長を示していたとも言える。

 これが2歳時のホープフルS(G1)以来、6度目の挑戦でのG1制覇。その間にはクラシック三冠出走や、古馬を相手にした有馬記念(G1)出走もある。その代え難い経験を力に変えて、成長も重ねながらジャスティンパレスは強くなっていった。

 「ディープインパクト産駒でもありますし、育成時の印象からしても、まだまだ成長する余地は残されていると思います。古馬になってからのG1制覇は願っていた通りでもありますが、まだまだ心技体が完成へと近づいていくこれからの活躍が楽しみでなりません」(伊藤厩舎長)

 鞍上のルメール騎手からは、「中長距離界のスーパーホースとなれる馬」との最大級の賛辞も送られていたが、次走は宝塚記念(G1)の出走を予定。ここでも更に成長した姿を見せた時、誰もがジャスティンパレスを「スーパーホース」と認めるはずだ。

 ただ、これだけの馬を送り出したにも関わらず、伊藤厩舎長には厳しいお目付け役がいるようだ。

 「ウチの次女なのですが、勝ったにも関わらず、『何回目の挑戦でG1を勝つのよ』と檄を飛ばされました(笑)。その言葉を励みにして目の前にいる育成馬たちも、一つでも上の高みを目指していけるように、しっかりと管理していきたいと思います」(伊藤厩舎長)

 宝塚記念(G1)の後、伊藤厩舎長には「お目付け役」から、何と言われたのかを、改めて聞きたくもなった。