重賞ウィナーレポート

2013年05月26日 日本ダービー G1

2013年05月26日 東京競馬場 晴 良 芝 2400m このレースの詳細データをJBIS-Searchで見る

優勝馬:キズナ

プロフィール

生年月日
2010年03月05日 03歳
性別/毛色
牡/青鹿毛
戦績
国内:7戦5勝
総収得賞金
476,399,000円
ディープインパクト
母 (母父)
キャットクイル(CAN)  by  Storm Cat(USA)
馬主
前田 晋二
生産者
株式会社 ノースヒルズ (新冠)
調教師
佐々木 晶三
騎手
武 豊
  • キャットクイルとノースヒルズの皆さん
    キャットクイルとノースヒルズの皆さん
  • キャットクイル
    キャットクイル
  • キャットクイル
    キャットクイル
  • 事務所に飾られているお祝いの花
    事務所に飾られているお祝いの花

 ひとつの夢は、次の夢へのステップだ。 
 感動のダービー(G1)から1週間。

 所狭しと飾られた花がダービーの余韻を残しているものの、第80代ダービー馬キズナを生産した(株)ノースヒルズ(北海道新冠町)の牧場事務所は、すでに日常を取り戻していた。草がきれいに刈りそろえられた放牧地、掃除が行き届いた厩舎まわり。そして、何よりも次代を担う馬たちが、いつもと変わらぬ様子で草を噛んでいる。 

 新冠町にあるノースヒルズは、1984年創業。約100ヘクタール繁殖牝馬が約60頭。繁殖牝馬と当歳、それから育成に送り出す前の1歳馬を約30人超のスタッフが管理している。桜花賞(G1)などG1レース3勝のファレノプシスや天皇賞(春)(G1)を勝ったビートブラック、天皇賞(秋)(G1)のヘヴンリーロマンス。ジャパンカップダート(G1)2連覇でドバイワールドカップ(G1)2着のトランセンドや宝塚記念(G1)などを勝ったアーネストリーなどを送るオーナーブリーダーで、3歳牡馬クラシックはノーリーズンが2002年の皐月賞(G1)を勝っているが、ダービー(G1)は、キズナが初めての優勝となった。

 「金曜日に発表された前売りオッズからずっと1番人気だったことに驚きました。すべてのホースマンの夢であり目標とするダービー(G1)で、最もたくさんの人が勝てると思った馬、勝って欲しいと願った馬ということですから」と声を弾ませたのは繁殖マネージャーの佐藤雄輔さんだった。繁殖担当の佐藤さんは、20歳での出産となるキャットクイルをマネージャーの立場で見守ってきた。2010年のキャットクイルは予定日を3週間ほど過ぎた3月5日朝、のちにキズナと名付けられるディープインパクトの牡馬を出産した。「予定日よりも遅れはしましたが、お産は順調でした。キャットクイルは平均して立派な仔馬を出すイメージがある母馬ですが、キズナのときも思い描いていたイメージどおりの馬でした。きれいな馬で、雰囲気がありました」と当時のことを、まるで昨日のことのように話してくれた。

 その佐藤さんからバトンを受け継ぐような形で離乳までの約半年間を担当したのは鵜飼祐樹繁殖チーフだった。「いつも12頭くらいで放牧していたんですが、とにかく動きの軽い馬でした。放牧地をまるで飛びまわるように走っていたのが印象的です」と話してくれた。「自分はあまり冷静でいられませんでしたが、(1枠1番だったキズナが)パドックでのんびりと先頭を歩いている姿が、牧場にいたときとまったく同じだったことに驚きました。すごいな。すごい馬だなって、あのときに改めてそう思いました」。

 そして、離乳後から馴致に移動するまでを担当したのは岡研二繁殖アシスタントマネージャーだ。「とにかく健康な馬でした。男馬ですから、小さなケガなどはありましたが、寒い時期でも体調不良で休んだことはほとんどありません。それから、いろいろな方に見ていただいた馬です。精神的に落ち着いた馬で、見ていただくときに苦労した覚えはありません。そういう意味ではとても賢い馬だと思います」とキズナの牧場時代の思い出を語ってくれた。

 3人の言葉をつなぎ合わせると、キズナという馬の真の強さを垣間見ることができる。生まれたとき、いや生まれる前から期待の大きな馬だということは想像に難くないが、そうした人間の思いを裏切ることなく、健康に育ったということだ。そして、大山ヒルズを経てデビュー。レースキャリアを積み重ねながら、順調に世代の頂点へ向けてのステップを上がり、頂点へとのぼりつめた。

 スタッフ間の抽選を勝ち抜いて、ダービーを競馬場で応援することができた3人は「ダービーというレースに生産スタッフのひとりとして参加し、得られたものは大きい」としながらも「ダービーデイの独特な雰囲気。たくさんの人、そしてレース後のメディアの取材やまわりからの目でダービーというレースの重みを感じた」という部分で口を揃えた。例えるならば、かつて手がけた教え子の活躍を喜ぶ教師といった雰囲気だった。

 いま、彼らの目の前には、来年のデビューを目指す1歳馬、そして今年生まれた当歳馬。来年生まれるであろう産駒を宿している繁殖牝馬がいる。キズナの活躍はもちろん嬉しいし、自信にもなる。しかし、彼らの情熱は、もうすでに次の世代に向かっているのだ。