重賞ウィナーレポート

2013年05月16日 のじぎく賞(GDJ)

2013年05月16日 園田競馬場 晴 良 ダ 1700m このレースの詳細データをJBIS-Searchで見る

優勝馬:ユメノアトサキ

プロフィール

生年月日
2010年04月01日 03歳
性別/毛色
牝/栗毛
戦績
国内:16戦6勝
総収得賞金
17,230,000円
サウスヴィグラス(USA)
母 (母父)
ボヤージ  by  クロフネ(USA)
馬主
市川 智
生産者
ハクツ牧場 (新冠)
調教師
新子 雅司
騎手
坂本 和也
  • ユメノアトサキの母ボヤージ(8歳)
    ユメノアトサキの母ボヤージ(8歳)
  • 今年生まれたユメノアトサキの全弟(牡、父サウスヴィグラス)
    今年生まれたユメノアトサキの全弟(牡、父サウスヴィグラス)
  • ユメノアトサキの生産者・ハクツ牧場の村田万記さん(母ボヤージ&全弟の当歳馬と)
    ユメノアトサキの生産者・ハクツ牧場の村田万記さん(母ボヤージ&全弟の当歳馬と)
  • ユメノアトサキが育った起伏のあるハクツ牧場の放牧地
    ユメノアトサキが育った起伏のあるハクツ牧場の放牧地
  • ハクツ牧場の看板
    ハクツ牧場の看板

 「グランダム・ジャパン2013」3歳シーズンは、第6戦までを終えて1位(28P)エイシンルンディー(笠松)、2位(20P)ウォータープライド(愛知)、3位(17P)ホクザンルージュ(兵庫)という暫定順位。第7戦となる「のじぎく賞(園田)」には、そのポイント上位を争う馬たちが揃って出走してきた。しかし、ここで1番人気に推されたのは地元・兵庫のユメノアトサキ。前走の兵庫クラシック1冠目「菊水賞」で牡馬を相手に6馬身差の圧勝劇を見せつけ、満を持してのグランダム・ジャパンシリーズ初参戦となった。そしてレースでは、二の脚を利かせてハナを奪ったユメノアトサキがマイペースに持ち込み、最後まで追いすがったウォータープライドを振り切って先頭でゴールイン。牝馬同士なら負けられぬと、兵庫クラシック馬の意地を示した。

 ユメノアトサキの生まれ故郷は、新冠町のハクツ牧場。昨年のグランダム・ジャパン3歳シーズン「留守杯日高賞」を生産馬のミスシナノが制したように、コンスタントに活躍馬を送り出している家族経営の牧場だ。過去の代表生産馬には、芝の中距離重賞で3勝を挙げたウインブレイズや、南関東重賞の常連だったウエノマルクンなどがいる。

 「前走の菊水賞がぶっちぎりの内容だったので、好勝負になると思っていました。序盤からレースを引っ張って、最後までしぶとかったですね。後で知りましたが、インタビューで坂本和也騎手は嬉し泣きをされていたようで…馬主さんも電話口で大変喜んでいました」と喜びのコメントを寄せてくれたのは、同牧場の村田紀次さん。人気を背負った逃げ馬を見守るプレッシャーは、騎手にかかる重圧と同様に相当のものがあるのだろう。

 「ユメノアトサキは母の初仔だったので、やや小さめの体つきに出ました。昼夜放牧をしていたのですが、放牧地では機敏な動きをしていましたね。大きな流星は母とそっくりです」と、ユメノアトサキが牧場で過ごした時期を振り返ってくれた。

 母のボヤージもハクツ牧場の生産馬で、ローレルクラブで募集されたクロフネ産駒の期待馬だった。しかし、新馬戦(福島芝1800m)で2着に入る素質を示したものの、結局1勝も挙げることができずに牧場へ戻って繁殖入り。そしてサウスヴィグラスとの交配で初めて生まれてきた仔がユメノアトサキだった。さらに母系を遡ると、ユメノアトサキの祖母にプチアノ(米国産)の名前がある。16年前、村田さんがアメリカ・キーンランドのせりで購入してきた繁殖牝馬だ。当時、ナリタブライアンがCBスタッドで種牡馬生活を始めており、その交配相手に相応しい肌馬を求めて海外まで出向いたという。「何頭か目星をつけていたのですが、高くて買えなくて…。宿泊先のホテルで分厚いカタログを見直していた時、パッと目にとまったのがプチアノでした。カーリアンと同じ母系で、父ルビアノの優れたスピードも魅力的。狙ってみようと思いました」と、その経緯について教えてくれた。何人かのバイヤーと競り合いになったが、なんとか予算内で買うことができたそうだ。

 ハクツ牧場出身の活躍馬は、ミスシナノ、コスモケンジなどサウスヴィグラスの産駒が特に目立つ。その理由について村田さんは、「もともとはエンドスウィープに高い期待をかけていたのですが、残念ながら死んでしまいましたからね…。その血を引くサウスヴィグラスには早くから注目していたんです。そして初めてサウスヴィグラスの仔をとった時、その出来の素晴らしさにピンときました。絶対的なスピードは産駒に確実に受け継がれますし、総じてトモのしっかりした頑丈な馬が生まれます」と教えてくれた。今年もボヤージは、ユメノアトサキの全弟に当たるサウスヴィグラス産駒を出産している。「今年生まれた当歳は、立派な後肢が特長です。お産の時、その大きなお尻を見て驚きました。現時点では、姉以上の素質を感じています」と村田さんも期待を懸けている。

 村田さんが海外のせりで購入してきたプチアノからは牝馬が多く生まれ、そのほとんどがハクツ牧場へと戻り、繁殖牝馬となって枝葉を広げ続けている。ボヤージの姉に当たるファニーゴールドも、「ロータスクラウン賞」「九州大賞典」などの重賞を制したミヤノオードリー(佐賀)を誕生させた。「プチアノには一流の競走実績を誇る種牡馬を交配してきましたし、引退した牝馬は全て繁殖にしました。孫の世代になって、ようやく結果が出始めましたね。ユメノアトサキの走りを見ると、サウスヴィグラスとの相性も良いと思います。これからはプチアノの血統にサウスヴィグラスを掛けて勝負していきます」と力強く話す。

 「ユメノアトサキはよほど兵庫の水が合っているのか、それとも門別で揉まれた経験が活きているのか、グングン成長していますね。この先は、兵庫を代表する馬になって欲しいと思います。家族経営の牧場なので、いつもテレビやパソコンでの観戦になりますが、いつか現地で応援したいです」と夢を託す村田さん。ユメノアトサキは次走、ダービーウイークの第5戦「兵庫ダービー」に挑戦し、牝馬ながらに1番人気に支持されて、見事にその期待に応えて見せた。これは村田さんの望む「兵庫を代表する馬」を遥かに越えて、「地方競馬を代表する馬」へと飛躍していくかもしれない。近々、またその喜びの声を聞きに牧場を訪れようと思う。