重賞ウイナーレポート

2020年05月31日 日本ダービー G1

2020年05月31日 東京競馬場 曇 良 芝 2400m このレースの詳細データをJBIS-Searchで見る

優勝馬:コントレイル

プロフィール

生年月日
2017年04月01日 03歳
性別/毛色
牡/青鹿毛
戦績
国内:5戦5勝
総収得賞金
796,110,000円
ディープインパクト
母 (母父)
ロードクロサイト(USA) by Unbridled's Song(USA)
馬主
前田 晋二
生産者
株式会社 ノースヒルズ (新冠)
調教師
矢作 芳人
騎手
福永 祐一
  • ダービー後、優勝の記念写真
    ダービー後、優勝の記念写真
  • 牧場スタッフの皆さん
    牧場スタッフの皆さん

 2020年の東京優駿日本ダービー(G1)はコントレイルが優勝。堂々、クラシック2冠を達成した。

 本馬の生産は新冠町のノースヒルズ。日本ダービー(G1)はキズナ(2013年)、ワンアンドオンリー(2014年)に続く3度目の制覇だった。

 現在、生産頭数は50頭前後。馬産地は全体的に人材不足で、近年外国人スタッフの割合が増えているが、ここに彼らの姿はいない。牧場は新冠町の山奥深い静かな場所にある。寮や社宅があり、スタッフには食事が付き、定期的に誕生日会やPOGイベントなどを開いている。昨年までは生産馬がG1レースに出走すると、スタッフが会社の仕事として現地観戦に出向く。応援することが第一であるが、さらなる理由は“一流馬の姿を目に焼き付けるため”と聞いた。女性スタッフも多く、平成生まれの若いスタッフも先輩の背を見ながら奮闘している。

 今年のダービー(G1)は無観客競馬での開催。レースには同牧場生産馬として本馬とコルテジア、そして育成馬ディープボンド(市場購入のキズナ産駒)が駒を進めた。同牧場ゼネラルマネージャーの福田洋志さんは、こう振り返る。

 「無事に競馬開催があり、そのために尽力されているJRA、関係者の皆さまに本当に感謝しています。当日は事務所にスタッフが集まり、声援を送っていました。残り200mでは鳥肌が立つような感動を覚えました。今回も1番人気でしたし、ファンの皆さまの期待に応えられて安堵しています。また、これほどの強い馬に携わることができて大変嬉しいです」

 レース後、同牧場には近隣の牧場関係者が駆けつけた。「おめでとう」の気持ちはもちろんだが、出走するだけでも難しいダービー(G1)を再び勝ったことに、心のうちは脱帽といった様子だ。鳴海修司町長はコントレイルをデザインしたネクタイを着用し、到着するや真っ先に福田さんと握手を交わした。人口約5,400人の小さな町にとって、この上なく明るい話題だ。

 ダービー(G1)当日の牧場の空を見上げれば、雲ひとつない青空が広がり、牧場の美しい景観を一層鮮やかにしていた。競馬場での現地観戦や、栄えある口取りは叶わなかったものの、牧場スタッフ全員がまばゆい勝利の光に照らされた。どちらかというと、若いスタッフは驚きの表情でいる。キャリアのあるスタッフは、達成感をにじませながら記念写真に立っていた。

 本馬は父ディープインパクト、母ロードクロサイトという血統。祖母FolkloreはBCジュヴェナイルフィリーズ(G1)、メイトロンS(G1)の勝ち馬。まずおさらいすれば、優れた血統というのが、この馬の長所の一つだろう。

 その一方、母ロードクロサイトは競走馬時代、JRAで2着2回・3着2回。ラストランは12着だった。競走成績だけを切り取れば、そうした馬はあまたいる。どこにでもいるといっても過言ではない。それをふまえて、牧場がロードクロサイトの血統の良さ、子出しの良さを信頼し、世界中から名繁殖牝馬が集まるトップサイアー・ディープインパクトを配した。これまで何頭もG1馬を送り出している牧場の、見事な采配を垣間見る。超のつく人気種牡馬の種付けで、1回で受胎したというから、生まれる前からしてコントレイルの運も強い。

 ダービー(G1)翌日。牧場の事務所はすでにお祝いのお花でいっぱいとなった。胡蝶蘭を背景に、福田さんのお話に耳を傾ければ、今回の栄冠の裏側として、ノースヒルズ清畠の開場をはじめ、大山ヒルズでの育成など、強い馬づくりにつながったポイントをいくつか聞くことができた。

 中でも興味深かったのは、放牧について。キズナやワンアンドオンリーが世代の頂点に立っていた頃、当時のノースヒルズのやり方を参考に、通年の昼夜放牧を取り入れる牧場が増えた。実際に重賞を勝つなど、結果を出す牧場も複数あった。「寒い冬でも関係なしに放牧している」「ずっと放牧している」「とにかく外に出していれば馬は丈夫になり、鍛えられる」という声は普通に飛び交うようになった。

 一方で、福田さんの話によれば、馬の放牧に対しては以前とは少し変化があるようだ。 「当歳や1歳について、どんな馬もできる限り放牧していこう、という時期がありました。寒い冬も含めて。今振り返れば、そこに改善点がありました。少し無理をさせていた子がいたかもしれません。そのやり方での馬の成長過程や結果をふまえ、また、海外の牧場やJRA日高育成牧場の獣医師のお話なども参考に、以前とは若干、管理方針を変えました。開場したノースヒルズ清畠では、放牧地の区画にバリエーションを持たせて、放牧するうえで個々の馬に合わせた微調整が効くようにしています」(福田さん)

 通年、広い放牧地に多頭数で長時間放牧し、ダービー(G1)制覇を含む素晴らしい結果を出しながら「これで良いのだろうか」と疑問を抱いた。過去の栄光に慢心することなく、結果を分析し、新しい答えを追求した。とすれば、そこにダービー(G1)制覇へのポイントの一つを感じる。

 放牧と個々の馬の管理の話を聞いて、以前取材で聞いた話を思い出した。少し脱線するが、関連性も感じる。ノースヒルズの自社制作カレンダーには馬の放牧シーンが複数掲載されている。心癒される魅力的な写真ばかりだ。北海道の牧場編では、馬の放牧風景を四季の美しさと合わせて表現している。

 一点、気づいたことはどの馬も頭絡をつけていない。頭絡をつけた方が馬を判別するのは容易い。管理頭数が多いところは、頭絡に馬名も入れている。また、つけたままの方が放牧や集牧の際も、何かと効率的と考える。福田さんに「頭数も結構いますが、なぜ頭絡をつけないのですか?」と尋ねると、その答えの一部は「裸の馬の状態でも馬を見分けできるように。それぐらい馬を観察するため」という内容だった。何気ないトーンで話していたものの、この牧場の鋭くて繊細な観察力に触れる話だった。だからこそ、放牧における馬の些細な変化に気づき、試行錯誤に着手できたのかもしれない。ちなみに、2020年11月のカレンダーの写真には、コントレイルの全弟が躍動感あふれる姿で登場している。やはり頭絡はつけていない。

 本馬の次走は神戸新聞杯(G2)と報じられている。秋の目標は菊花賞(G1)で、クラシック3冠がかかる。福田さんは、「生まれたときから目にしている馬ですが、レースに出走するたびに、どこか遠い存在になっていく気がしていますね。秋に向けては大山ヒルズで過ごしています。またこの馬らしい走りを見せて欲しいです」と、話している。