京都競馬場で行われた菊花賞(G1)はコントレイルが優勝。圧倒的な1番人気に応え、クラシック3冠を達成した。

 本馬の生産は新冠町のノースヒルズ。過去にはキズナ、ワンアンドオンリーといった日本ダービー馬をはじめ、JRAのG1馬だけでもアーネストリー、トランセンド、ノーリーズン、ビートブラック、ファレノプシス、ヘヴンリーロマンスなど多数生産している。リーディング生産牧場ランキングは現在第4位で、同牧場にとっては過去最高順位タイにつけている。

 レースを振り返ったのは同牧場ゼネラルマネージャーの福田洋志さん。当日は京都競馬場で見届けたという。

 「祈るような気持ちで応援していました。最後まで本当によく走ってくれましたね。コントレイルの頑張りに感謝しかないです」と、振り返る。北海道の牧場ではスタッフが気持ちを一つに声援を送っていた。レース後、新冠町の鳴海修司町長や牧場関係者が駆けつけ、ともに喜び合った。スタッフの姿に目を移せば、キャリアのあるスタッフは安どの表情を浮かべている。長いマラソンのゴールを切ったランナーのような表情にも映る。その横でとびっきりの笑顔を見せる若手スタッフもいる。後日、町の一角には優勝幕が掲げられ、万歳写真は町の広報誌の表紙を飾った。

 牧場では、殊勲の母ロードクロサイトが元気に繁殖生活を送っている。牧場で対面したロードクロサイトはコントレイルとは対照的な芦毛で、年齢を重ねて白さを増している様子だった。10歳となる姿は母性と気品に満ちていた。日本の馬主や牧場ならば、何千何億と積んでも手に入れたい馬、一族だろう。つい最近行われたキーンランド社の繁殖セールでは、コントレイルの叔母にあたる馬が185万ドルという高額で取引された。

 写真撮影時に持ち手を担当したのは若手スタッフだった。ノースヒルズにはスタッフが約30人いて、仕事ではそれぞれのキャリアに関係なく、基本的にはどの馬も分け隔てなく接しているという。

 「扱いが難しい馬以外は、キャリアの浅いスタッフも普通に接していますね。コントレイルのお母さんや弟も例外ではありません。いろいろな経験をして、いろいろな事を感じとってもらえたらと思います」(福田さん)

 これほどのG1馬の母馬と日常的に接する機会は、もちろん少ないことであって、キャリアの浅いスタッフにとっては、その記憶やリアリティが、今後の馬づくりの知恵につながっていくに違いない。

 また、コロナ禍前であれば、同牧場では生産馬がG1に出ると、新人スタッフも含めて競馬場で馬を見る機会を作っていた。その理由が印象的で、「G1に出る生産馬を応援するため」に加えて、「G1に出走するほどの一流のサラブレッドの姿を、間近で目に焼き付けておくため」と聞いて、馬づくりだけでなく、人材育成の熱心さも垣間見た。新たに牧場から送り出されるであろう素質馬の生産・育成には、先輩たちと一緒に今頑張っている若手スタッフたちも、キャリアを生かして本領発揮するだろう。

 本馬の次走はジャパンカップ(G1)で、同レースには底を見せていないG1馬アーモンドアイやデアリングタクトらも参戦し、言わずもがな歴史的一戦となる盛り上がりを見せている。馬産地のホースマンも、このレースばかりはそれぞれの仕事や立場を抜きにして、一競馬ファンとして純粋に楽しんでいるような空気を感じる。一方で、出走陣営となる福田さんや牧場スタッフの皆さんの心中やいかに。応援の声は府中まで届くだろう。

 「まずは無事に競馬開催があり、そのために尽力されているJRA、関係者の皆さまに感謝しております。これからは年上の馬を含めての対戦にもなりますが、また彼らしい走りを見せて欲しいです。競馬を盛り上げることは大事なことですし、ファンの皆さまの期待に応えられたらと思います」(福田さん)