馬産地見学ガイドツアーレポート[ツアー1日目]
新千歳空港に集合したツアー一行は、初日は門別・新冠・静内地区の牧場を訪問。
2023年9月7日
はじめに
新型コロナウイルスの感染拡大防止の観点から休止していた「北海道馬産地見学ガイドツアー」が、同ウイルスの感染症法上の位置づけが2類相当から5類感染症へとなった事を受けて、9月7日、8日の両日、4年ぶりに規模を縮小させながらも再開いたしました。
12回目となる今回は、それでも蜜を避けるために参加者38名(当日欠席2名)が2台のバスに分乗するという贅沢ツアー。規模は縮小したものの1泊2日のスケジュールの中で、普段では見学できないような馬を含む150頭を超える馬や牧場施設などを見学することができました。
そんな「北海道馬産地見学ガイドツアー2023」の模様をレポートします。
久しぶりの開催。それも新型コロナウイルス感染症が、5類相当へと移行したものの全国的に感染者が右肩上がりの数字を示す中での開催とあって、参加者の方々をお迎えするスタッフも打ち合わせの段階から、やや緊張気味。いかに密を避けながら、ご満足いただけるような行程を組むのかに頭を痛めました。そのため、やや離れた場所にある種馬場や牧場は断念し、効率よくまわれる位置にある牧場をメインとしたスケジュールとなりました。
恐る恐る行った募集開始でしたが、蓋を開けてみれば40名定員のところ400組、600人を超える方々からの応募がありスタッフ一同、深く胸を撫でおろしました。改めて感謝申し上げます。
そんな厳しい倍率を潜り抜け、今回、ご参加いただいたのは日本全国からお集まりいただいた20代から60代までの男女40人。事前のアンケートによれば、約半数の方が北海道での牧場見学は初めてとのこと。また、参加いただいた方の中には過去11回のほとんどに応募いただきながらも今回が初めての参加という方もいて、嫌でも背筋が伸びる思いです。
集合、そして出発
集合場所は新千歳空港の到着ロビー。高い倍率だったとはいえ、12回目ともなれば過去にご参加いただいた顔もチラホラとお見受けすることになります。今回、長期的な天気予報によれば9月7日、8日の日高地方は「雨」。それでも、さすが10倍以上という高い倍率を潜り抜けた参加者の方々の強運が雨雲を吹き飛ばしてくれたのか、2日間を通して雨に降られることはなく、概ね良好な天気の下でツアーを行う事ができました。
集合場所となった新千歳空港の到着ロビーは、平日とはいえ国内外の旅行者でにぎわっていましたが、誰一人として集合時間に遅れることなく時間内にお集まりいただきました。ここでお名前を確認しながらツアー催行中は身に着けていただくネームプレートをお渡しし、バスの到着を待ちます。当たり前ですが、ほとんどの方が初対面。性別も年齢もバラバラということもあって最初はぎこちない雰囲気もありますが、そこは共通の趣味を持ち、目的をひとつにする者同士ですから、徐々に打ち解けた雰囲気が伝わってきます。
今回、バスの座席は2日間を通して固定させていただきました。様々なご意見をいただくことを承知の上での判断でしたが、これは感染症対策の一環です。快くご理解をいただきました事、感謝申し上げます。
出発は午前10時10分。これまで参加された方はお分かりかと思いますが、ツアーをまわるとそれぞれの見学場所で冊子型パンフレットを渡されます。撮影した馬の確認、馬の成績をなぞったりするにはとても便利なものですが、写真を撮ったりするときには置き場所に困るという一面も。そのため、今回は事前に参加人数分のパンフレットを取り寄せて、オリジナルトートバッグとともに座席に用意させていただきました。移動中のバスの中では、そんな資料を見ながら、競走馬のふるさと日高案内所の河村伸一所長、同胆振案内所スタッフの高橋啓太さんからツアー中の留意点や、見学に関するマナー、あるいはイヤホンガイドに関する説明、などがありました。また、馬が個体展示される際にはホワイトボードで馬名を紹介するので参考にして欲しいなどといった細かな説明があり、またツアーに同行させていただくスタッフの紹介などを行いながら、最初の目的地「ダーレー・ジャパン スタリオンコンプレックス」へと向かいます。
ダーレー・ジャパン スタリオンコンプレックス
ダーレー・ジャパン スタリオンコンプレックスは、アラブ首長国連邦の首相で副大統領、およびドバイの首長であるシェイク・モハメドによって設立された国際的なレーシング組織「ゴドルフィン」の傘下にある日本法人のスタリオン施設です。
ここではダーレー・ジャパン株式会社ノミネーションオフィスに勤務する石澤考康さんからダーレーグループのこと、そして繋養する種牡馬陣について説明があり、パイロを除くすべての馬が個体展示で行われました。展示される種牡馬は、事務所前に設けられた馬見せステージに1頭ずつ引いて出され、現役時代の競走成績や産駒をデビューさせているものについては、その成績が紹介されていきます。
最初に紹介されたのは、2歳から5歳まで4年連続でG1レースに勝利し、今年から産駒を競馬場に送り出すサンダースノーでした。続いて初年度産駒が好調なファインニードル、もう1頭のフレッシュマンサイアーでドバイシーマクラシック(G1)の優勝馬ホークビル。参加者の方々のボルテージは、まだ記憶に新しいタワーオブロンドン。あるいは現役時代には地方競馬、中央競馬の年度代表馬にも輝いたベテラン種牡馬フリオーソ、タリスマニック、アドマイヤムーンなどの紹介で最高潮に達し、個体展示の最後は新種牡馬のウィルテイクチャージ。その雄大な馬体と米国で3歳牡馬チャンピオンに選ばれた実力から、今年はダーレー・ジャパン スタリオンコンプレックスで最も多くの配合をこなしたことなどがアナウンスされました。
激しい気性を内在させるパイロは万が一のことを考えて馬房の外からの見学となりましたが「産駒の勝ち上がり率の高さには定評があります。ご自身が馬主になった場合、あるいはお知り合いに馬主の方がいらっしゃったら、ぜひパイロの産駒をお勧めします」とユーモアを交えて紹介されました。産駒デビュー前の外国産種牡馬など馴染みのない馬もいたかもしれませんが、アナウンスに耳を傾けながらカメラのシャッターを切り続けて関心の高さを伺わせました。
優駿スタリオンステーション
門別総合町民センターでの昼食タイムを挟んで、バスは一路、日高路へと向かいます。午後最初の目的地は優駿スタリオンステーションです。ここはヘニーヒューズやシルバーステートなどの人気種牡馬を多く抱え、2018年以降6年連続で日高管内最多の種付頭数を誇る人気スタリオンステーションです。
繋養種牡馬は30頭弱ですが、ここでは見学希望が多かった5頭を個体展示し、その他の馬は厩舎からの展示となりました。
最初に展示されたのは産駒の活躍により「未完の大器」から「ディープインパクトの有力後継種牡馬」へと成長したシルバーステート。初年度産駒ウォーターナビレラやセイウンハーデスなどが活躍し、2022年には種付け料が一気に600万円までに引き上げられましたが、それでも国内最多200頭の繁殖牝馬を集めた人気種牡馬です。続いて高松宮記念(G1)優勝ミスターメロディ。ダート1300mの新馬戦でいきなりレコードタイムを記録し、初めて芝コースを走ったファルコンS(G3)で重賞初勝利。古馬になってからG1ウイナーの仲間入りを果たしたことで仕上がりの早さと成長力を示しています。血統的に配合にしやすさなどもあって生産者から大人気。3年間で500頭近い繁殖牝馬に配合したことなどが紹介されました。今年からスタリオンラインナップの仲間入りを果たしたチュウワウィザードはドバイワールドカップ(G1)でも活躍したJRA賞最優秀ダートホース。20年チャンピオンズカップ(G1)ではゴールドドリームやインティ、クリソベリルにモズアスコットといったG1ウイナーを2~5着に引き連れ、堂々と先頭ゴールインを果たしています。ダート三冠競走の創設などを追い風に供用初年度となる今年、193頭の繁殖牝馬を集めました。続いて登場のワールドプレミアは慢性的な脚部不安に悩まされながらもデビューから引退まで高いレベルで活躍し、菊花賞(G1)、そして天皇賞(春)(G1)をレコード勝ちしたステイヤー。いかにも長距離ランナーという無駄肉のない漆黒の馬体が秋の陽ざしにまぶしく光りました。最後はアーモンドアイやダノンプレミアム、グランアレグリアらと好勝負を繰り広げてきたインディチャンプ。歴史に名を残すようなライバルたちを相手に安田記念(G1)、そしてマイルチャンピオンシップ(G1)に勝った名マイラーです。ステイゴールド系らしい強靭なバネを感じさせる歩様を披露してくれました。
そのあとは2か所に分かれている厩舎での見学。ヘニーヒューズやモーニン、エスポワールシチーといった実績十分な種牡馬陣にあって、意外な?人気はインティ。美しい栗毛の流星の顔を馬房からのぞかせると、一斉にカメラが向けられました。
優駿メモリアルパーク
トイレ休憩を兼ねて立ち寄ったのは優駿スタリオンステーションに隣接する「優俊メモリアルパーク優駿記念館」。オグリキャップの等身大ブロンズ像のほか、同馬やマヤノトップガン、ホッコータルマエなどをモチーフにしたと言われている馬像が出迎えてくれるスポットです。
記念館の中に、平成のスーパーホース「オグリキャップ」の功績を讃える数々の記念品が展示されていると同時に、馬にちなんだグッズやお土産品などがリーズナブルな価格で求められると評判です。参加者は思い思いにグッズを買い求めたり、外に放牧展示中のポニーと触れ合ったり、あるいは、ナリタブライアンやキングヘイロー、ヤエノムテキといった、優駿スタリオンステーションや新冠町に所縁のある馬たちの名前が刻まれている墓碑を前に感慨にふけったりしました。
30分程度の滞在時間ではありましたが、暑かったこの日は、自動販売機でジュースを買い求める人や、ソフトクリームで涼をとる人など思い思いの時間を過ごして次の目的地へと向かいました。
レックススタッド
レックススタッドは1987年設立。「日本の道百選」「さくら名所100選」「北海道遺産」などに選ばれた「静内二十間道路桜並木」沿いに建ち並ぶスタイリッシュな厩舎が印象的な、比較的新しいスタリオン施設です。種付シーズンのみの繋養種牡馬もいて、見学当日の繋養種牡馬は22頭。
こちらはタイムスケジュールの関係で一般見学者と重なる時間となってしまい、すべての馬が厩舎外からの自由見学となりましたが、日高案内所の河村所長手作りの厩舎配置図を片手に効率よく回ることができたようです。また、スタリオンスタッフの方々からは、なかなか馬房の奥から顔を出さない馬を呼び寄せてくれるなどの心温まるサービスがあり、この場を借りて感謝申し上げます。正確に人数を数えたわけではありませんが“1番人気”は9歳まで頑張ったダービー馬のマカヒキ。「今年から種牡馬となりましたが、初年度から100頭を超える繁殖牝馬を集める人気種牡馬になりました。その中にはアパパネもいましたよ」とサプライズ報告も。ただ、マカヒキ自身はシャイな性格なのか馬房の外に顔を出しても、照れるようにすぐ引っ込めてしまいますが、そのたびにスタッフの方が写真撮影に協力してくれました。また、イケメンダービー馬として人気の高いエイシンフラッシュやすっかり白くなったオメガパフューム、あるいはスクリーンヒーローといった定番の人気馬やシルポートやハクサンムーンといった個性派に交じって、意外なほどに人気を集めたのは、こちらも個性派スマートファルコンでした。ダートグレード競走19勝という金字塔を打ち立てた同馬は、ダート交流時代のパイオニアともいえる1頭です。現役時代に全国の地方競馬場で見せた圧倒的なスピードは18歳となった今でも強烈な印象をファンに残しているようです。
忙しい中、見学にご協力いただきましたスタッフの方々。本当にありがとうございます。
アロースタッド
レックススタッドと隣接するような場所にあるアロースタッドは1982年設立。現存する民間のスタリオン施設としては最も長い歴史を誇る大型種馬場です。見学当日は3か所の厩舎に29頭の種牡馬が配置されており、うち4頭を毎年2月に生産者向けに行われる種牡馬展示会と同じ場所で個体展示していただきました。
最初に登場したのは、ロードカナロア産駒として最初に誕生し、勝ち馬第1号にもなったステルヴィオ。3歳春のスプリングステークス(G2)で重賞初勝利。同年秋にマイルチャンピオンシップ(G1)に勝ち、その後も長くマイル路線で活躍しましたが、昨年5月に競走馬登録を抹消され、この春からここアロースタッドで種牡馬生活に入っています。新種牡馬ではありますが、スタッドインから1年近くの準備期間を設けられたこともあり、貫禄を増した馬体は迫力を感じさせるもの。事務局からは91頭の繁殖牝馬に配合されたことが報告されました。続いて、供用2年目を迎えたダノンプレミアム。ディープインパクトの8世代目産駒の中の1頭としてデビューした同馬は文字通りの天才ランナーでした。新馬、サウジアラビアRC(G3)、そして朝日杯フューチュリティS(G1)。脚部不安を発症して3歳春のクラシックシーズンは不完全燃焼に終わり、また古馬となってからはアーモンドアイと顔を合わせることが多く思うような成績を残せませんでしたが、それでも天皇賞(秋)(G1)2着、マイルチャンピオンシップ(G1)2着と活躍しました。生産地での人気は高く供用初年度となった昨年は145頭に、そして今年も99頭の繁殖牝馬が集まったことなどが紹介されました。3頭目の展示は、今年からアロースタッドで種牡馬生活をスタートさせるサンライズノヴァでした。ユニコーンS(G3)や武蔵野S(G3)の優勝馬としてその名を知られる存在ですが、岩手競馬のマイルチャンピオンシップ南部杯(Jpn1)に勝ち、金沢競馬のJBCスプリント(Jpn1)2着など全国地方競馬場のダートグレード競走で活躍した本馬の人気は全国区。登場するや、美しい栗毛の馬体にむけて一斉にカメラが向けられました。
個体展示の最後は、まだ現役生活のイメージが色濃く残るファストフォース。今年3月に行われた高松宮記念(G1)優勝馬です。アロースタッドには今年6月に入厩していますが、種牡馬としての供用は2024年シーズンからとなります。ひと通りの紹介が終わったあとは、4組に分かれたツアー参加者の方々と記念写真をパチリ。G1優勝馬と並んでの記念写真は形に残る思い出としていただければ嬉しいです。
その後は厩舎の中で休んでいる馬たちとの対面。世界的な人気を誇るカリフォルニアクロームには米国からもファンが足を運ぶとのこと。エポカドーロやシニスターミニスター、ナカヤマフェスタといった個性派スターたちとの時間を楽しんでいただきました。
桜舞馬公園
ツアー1日目の最後はトイレ休憩もかねて、新ひだか町の「静内二十間道路桜並木」沿いにある馬の公園「桜舞馬公園(オーマイホースパーク)」を訪れました。ここは競走馬生産者団体が中心となり、種牡馬シンジケートや静内町の協力を得て、平成2年12月に開設された公園です。
高くそびえる「馬魂碑」は昭和18年に静内町によって建立されたもの、また“功労種牡馬之碑”はシンジケート・ハロウェー会が建設し、それぞれ公園の開設とともに移設されたものと言いますが、ほか公園の中心には名種牡馬テスコボーイのブロンズ像がシンボル的に置かれ、その周囲には功労馬たちの墓碑が立ち並びます。
ツアー当日現在、功労種牡馬の墓碑は38基40頭、功労繁殖牝馬の墓碑は5基5頭。また、功労種牡馬之碑にはカツラギエースやイルドブルボンなど22頭の名前が、また功労繁殖雌馬之碑にはパワフルレディやタイシンリリィなど70頭の名前が刻銘されていました。
参加者の方々は、墓碑に刻まれた馬の名前を見ながら、競走馬時代、あるいはその産駒などの話に花を咲かせながら、墓碑をカメラに収めるなど思い思いに時間を過ごしたようです。
静内エクリプスホテル
宿泊ホテルは2017、18年にじゃらんオブ・ジ・イヤー「泊まって良かった宿大賞【朝食】」、楽天朝ごはんフェスティバル2017、同2018「北海道地区大会第1位」となったエクリプスホテルです。このホテルでは、活躍名馬をモチーフにしたコンセプトルームも用意されているほかエントランスロビーには新ひだか町生産タイトルホルダー、メロディーレーンの大型ポスターが用意されるなど、馬産地を意識するものとなっています。
また、翌日早くから出発する私たちのために、朝食時間を早めてもらうなどのご協力をいただきました。本当にありがとうございます。