重賞ウィナーレポート

2023年11月19日 マイルChS G1

2023年11月19日 京都競馬場 晴 良 芝 1600m このレースの詳細データをJBIS-Searchで見る

優勝馬:ナミュール

プロフィール

生年月日
2019年03月02日 04歳
性別/毛色
牝/鹿毛
戦績
国内:13戦5勝
総収得賞金
509,631,000円
ハービンジャー(GB)
母 (母父)
サンブルエミューズ  by  ダイワメジャー
馬主
(有) キャロットファーム
生産者
ノーザンファーム (安平)
調教師
高野 友和
騎手
藤岡 康太

 前走の富士S(G2)で約1年半ぶりとなる重賞制覇を果たしたナミュールは、その勢いのままにマイルCS(G1)へと挑んでいく。

 ここまでG1レースには7度出走しており、オークス(G1)では3着に入着。秋華賞(G1)では勝ったスタニングローズとは半馬身差の2着となっているものの、今年のヴィクトリアマイル(G1)と安田記念(G1)では続けて不利を受けるなど、実力の高さを証明しながらも、運に見放されたレースも多かった。

 そのナミュールに、このマイルCS(G1)でも試練が訪れる。決して有利とは言えない、大外枠の16番からの出走となっただけでなく、当日に騎乗予定だったムーア騎手が2Rのスタート直後に落馬し、3レース以降のレースが全て乗り替わりとなる。ナミュールの鞍上も、これが初騎乗となる藤岡康太騎手に託されることとなった。

 「メンバーは強くなりましたが、前走よりも状態はいいと聞いていました。それだけに外枠と分かった時には、G1だと運が無いのかなとは思いましたが、レース前の乗り替わりが発表された時には、ここでも試練を与えてくるのかと思いました」とはナミュールの騎乗育成を行った、ノーザンファーム空港の林寛明厩舎長。育成厩舎を任されるようになって、最初のG1出走馬がナミュールとなる、そのナミュールがなかなかチャンスを掴めないでいた中で、同じく育成馬だったブレイディヴェーグが、初のG1挑戦となったエリザベス女王杯(G1)を優勝。林厩舎長や共に働くスタッフたちに、G1制覇の喜びを与えてくれた。

 その余波を受けて迎えたマイルCS(G1)ではあったが、決してポジティブではない材料が揃い過ぎたばかりに、単勝オッズはどんどんと下がり始めていく。

 「レースは自宅のテレビで見ていましたが、画面越しにも状態は良く見えました。能力を出し切れればいいレースは出来ると思っていましたが、内枠に入っている有力馬たちを相手に、外枠からどう立ち回っていくのだろうとも考えました」(林厩舎長)

 ゲートが開くと、まず飛び出していったのはセルバーグ。そこにマテンロウオリオンが並びかけるも、気合を付けられたバスラットレオンが一気に主導権を握っていった。

 セルバーグ、バスラットレオンと7枠に入った馬が、先行争いを繰り広げていく一方で、それより外の枠に入っていたナミュールは、後方3頭目で脚を溜めていく。

 「スタートは煽るように出ましたが、それでもそこそこの位置にはいたので、どの位置でレースをさせるのかと思っていたところ、後方に下げていった時には驚きました。ただ、結果として速いペースになったので、その位置で競馬をさせてくれたのが良かったのかもしれません」(林厩舎長)

 前半3ハロンは34秒3。1000m通過も58秒2というハイペース。直線に入ってからも先頭を走っていたバスラットレオンではあったが、馬場の真ん中に進路を向けた時、空いた内側からソウルラッシュが抜け出すと、それを目標としたかのように、ジャスティンカフェが迫りくる。

 2頭で決まるかと思われたレースだったが、馬群をこじ開けながら、スピードを増していったナミュールが、その外から一気に追い込んできた。

 「残り1ハロン前あたりの脚色を見た時に、「え?」といった気持ちになりました。そこからは冷静では無かったですね」(林厩舎長)

 前が開いてからのナミュールの末脚は桁違いだった。上がりタイムはメンバー中最速の33秒フラット。まさに並ぶ間もなくソウルラッシュを交わし切った時、8度目の正直が達成された。

 「鞍上の藤岡騎手の好騎乗もさることながら、あのメンバーを相手にしながら勝ちきってくれたことや、これほどまでの末脚を持っていたことにも驚かされました」(林厩舎長)

 過去のレースでも3度に渡って、上がり最速の脚を使っているナミュールであるが、それは全て芝1600mでのレースとなる。距離が伸びても対応できる器用さがあるからこそ、末脚勝負のレースに徹することはできなかったのかもしれないが、結果としてハイペースのレースを後方待機できたことが、G1級の末脚を引き出せたとも言える。

 これで育成馬は2週連続(エリザベス女王杯(G1)…ブレイディヴェーグ)ともなったわけだが、林厩舎長にとってはこれまで何度も悔しい思いをしてきた分、ナミュールのG1制覇はまた格別な思いがあった。

 「マイルCS(G1)では強いメンバーを相手しながら、これほどの勝ち方ができたのは、馬が本当に強くなっている証だと思います。夏に調整していた頃にもまだ緩さは残っていただけに、まだまだ成長できるはずです」と林厩舎長は更なる飛躍を期待する。それを結果として証明してくれそうなのが、初の海外遠征となる香港マイル(G1)となりそうだが、ここでG1勝利を果たした暁には、これまでの鬱憤を晴らすかのように、G1での連勝記録が始まるのかもしれない。