重賞ウィナーレポート

2023年10月28日 アルテミスS G3

2023年10月28日 東京競馬場 晴 良 芝 1600m このレースの詳細データをJBIS-Searchで見る

優勝馬:チェルヴィニア

プロフィール

生年月日
2021年02月03日 02歳
性別/毛色
牝/鹿毛
戦績
国内:3戦2勝
総収得賞金
328,424,000円
ハービンジャー(GB)
母 (母父)
チェッキーノ  by  キングカメハメハ
馬主
(有) サンデーレーシング
生産者
ノーザンファーム (安平)
調教師
木村 哲也
騎手
C.ルメール

 この春にアップされた、JRA-VANの2歳馬牧場レポートにおけるノーザンファーム早来の日下和博牝馬調教主任のインタビュー。ノーザンファーム早来の牝馬厩舎を管轄する日下主任は、そのインタビューの中で相撲の番付のように「一番の注目馬として挙げられるのは2頭。東のチェッキーノ21 (父ハービンジャー)、西のサロミナ21(父ハーツクライ)ですね」とアルテミスS(G3)でワンツーフィニッシュを果たしたチェルヴィニアとサフィラの名前を挙げていた。そして、この2頭は共にノーザンファーム早来の山根厩舎の育成馬となる。

 「その記事を見た時にはプレッシャーを感じました」と笑顔で話すのは山根健太郎厩舎長。ただ、その評価に見合っただけの能力を、チェルヴィニアとサフィラは兼ね備えていた。

 「チェルヴィニアですが、イヤリングから来た時の第一印象は、純粋にいい馬だと思いました。ただ、本格化するには時間を要するとの印象もあっただけに、2歳戦からあれほど速い脚を使えるような馬になるとは想像していませんでした」(山根厩舎長)

 そして母のチェッキーノは、山根厩舎長が育成スタッフの頃に関わってきた、思い入れの強い血統馬でもあった。

 「正直、チェッキーノにはあまり似ていません。乗り味だけでなく、馬の形もお母さんらしさが強く出ていなかったので、どこか寂しさも感じていました(笑)」(山根厩舎長)

 調教を進めていく中で勝気さが見え始めたチェッキーノとは違って、チェルヴィニアは普段からの素直さがそのまま変わることがなかった上に、調教進度も順調そのものという、まさに優等生だった。

 デビューも2歳6月のメイクデビュー東京となり、そこでは1番人気を集めるも、後にサウジアラビアRC(G3)で2着となるボンドガールの切れに屈する形で2着に敗退。ただ、京王杯2歳S(G2)の勝ち馬となったコラソンビートを3着に退けていたように、この時点から重賞級の能力を証明していた。

 「調教も順調かつ、身体もそれに見合った成長を見せていましたし、これなら早い時期のデビューでも結果が伴うだろうとの期待はありました。新馬戦は負けはしましたけど、しっかりと走ってきてくれただけでなく、初戦からこれだけのパフォーマンスができたのならば、これから更に凄い馬になってくれるのだろうとの期待が膨らみました」(山根厩舎長)

 続く新潟の2歳未勝利戦では、単勝1.1倍と言う圧倒的な支持に応えるかのように、2着馬に1秒差をつけての優勝。アルテミスS(G3)でも単勝1.5倍の1番人気に支持されていく。

 その時、2番人気を集めていたのが、日下主任の評価では東の横綱のチェルヴィニアとは甲乙つけがたい評価を得ていた、西の横綱に位置していたサフィラだった。

 「いずれは上のレースで戦うと思ってはいましたが、2頭共にアルテミスS(G3)に向かうと聞いた時には、こんなに早くぶつかってしまうのかと思いました。2頭共に人気に支持していただいただけに、取りこぼすことはできないと思っていただけでなく、できることなら2頭の同時優勝、それが叶わなくともワンツーフィニッシュで2着となった馬にも、賞金が加算されて欲しいと願っていました」(山根厩舎長)

 10頭立てで行われたレースで、チェルヴィニアは4枠4番、サフィラは7枠8番からの出走となった。内枠を生かすかのようにチェルヴィニアが、前目でレースを進めていくと、サフィラはその後ろの外目をキープしていく。

 逃げたショウナンマヌエラとの差を後続勢が詰めていった最後の直線。馬群の外に進路を取っていたサフィラは先行勢を捉えにかかった一方で、チェルヴィニアはそのサフィラの仕掛けに進路を失っただけでなく、前や横を他馬に囲まれた、絶体絶命の状況となってしまう。

 それでもチェルヴィニアは優等生らしく、鞍上のルメール騎手の指示を待ち続けた。抜け出したサフィラの後ろに進路を取っていくと、更にその外に馬を出して、更に末脚を伸ばしていく。結果は2着となったサフィラに1馬身3/4差を付けての快勝。ただ、スムーズな競馬ができていたのなら、その差は更に広がっていたのかもしれない。

 「長くいい脚を使える馬との印象があっただけに、あの展開となった時にはドキドキしました。それだけに馬群から抜け出てくる瞬発力には驚かされただけでなく、その後もサフィラを引き離していくような走りには、想像以上の走りを見せてくれたと思います」(山根厩舎長)

 ゴール前ではマッチレースを繰り広げた2頭であるが、実は牧場時代に併せ馬をしたことが無かった。

 「それだけにゴール前で2頭が上がってくる姿は、見ていて胸が熱くなりました。アルテミスS(G3)は2歳重賞の中でも、クラシックでの活躍馬を多く送り出している、王道のレースだと思いますし、2頭共にここでマイル適性の高さを証明してくれたのは、今後のレースを考えた場合でも大きいと思います」(山根厩舎長)

 レース後は阪神JF(G1)出走を目指していたチェルヴィニアだったが、調整の中で半腱半膜様筋に痛みが出たことで出走を回避。来年のレースに備えていくことになった。一方、サフィラは阪神JF(G1)に出走を予定。ライバルかつ、牧場時代は僚馬でもあるチェルヴィニアのためにも、ここは負けられないレースとなった。

 そして、来年は牝馬クラシックで2頭の再戦が見られるはず。現時点では東の横綱となっているチェルヴィニアであるが、サフィラが大きなタイトルを携えた時の「横綱対決」が楽しみでならない。