重賞ウィナーレポート

2023年05月28日 日本ダービー G1

2023年05月28日 東京競馬場 晴 良 芝 2400m このレースの詳細データをJBIS-Searchで見る

優勝馬:タスティエーラ

プロフィール

生年月日
2020年03月22日 03歳
性別/毛色
牡/鹿毛
戦績
国内:5戦3勝
総収得賞金
658,977,000円
サトノクラウン
母 (母父)
パルティトゥーラ  by  マンハッタンカフェ
馬主
(有) キャロットファーム
生産者
ノーザンファーム (安平)
調教師
堀 宣行
騎手
D.レーン

 昨年のJRA年度代表馬となったイクイノックスは、ノーザンファーム早来の桑田厩舎の育成馬となる。今年に入ってからもドバイシーマクラシック(G1)を優勝。ロンジンワールドベストレースホースランキングでは129ポンドの評価を与えられ、日本調教馬としては史上3頭目となる世界一の評価を受けた。

 そのイクイノックスでさえもクビ差及ばなかったのが、日本ダービー馬の称号だった。

 「イクイノックスほどの馬でもダービー(G1)は勝てないのかと、あの時は思いました。その後、活躍していくイクイノックスの姿を見ながら、今後、自分の厩舎からあれほどの馬は出てくるのだろうかと考えたこともあります」と桑田裕規厩舎長は話す。ただ、イクイノックスが2歳戦から頭角を現し始めた頃、クラシックの夢をかけたくなるような動きをしていたのがタスティエーラだった。2歳を迎えたタスティエーラは、春先に歩様の乱れが出て、夏にかけて立て直しを図っていくも、それが馬体の更なる成長を促していく。

 2歳の10月に入厩すると、11月のメイクデビュー東京を優勝。次の年の共同通信杯(G3)では4着に敗れるも、中2週で臨んだ弥生賞ディープインパクト記念(G2)を優勝し、クラシック第一冠となる皐月賞(G1)では5番人気ながら2着に入着を果たす。

 「皐月賞(G1)は勝ち馬の切れには屈しましたが、勝ちに等しい内容のレースだったと思います。先行馬にとっては苦しい流れとなりましたが、それでも最後までいい脚を使ってくれました」(桑田厩舎長)

 弥生賞ディープインパクト記念(G2)に続いて、同じ条件での皐月賞(G1)でも好走を見せた形となったが、それだけに左回りかつ、距離も2ハロン伸びる日本ダービー(G1)は正直、不安もあったと桑田厩舎長は話す。

 「前向きさもあり、小回りを苦にしないような先行力と器用さも兼ね備えていただけに、個人的には皐月賞(G1)がタスティエーラにとって最も適した条件でないかと思っていたのは事実です。ただ、馬体の印象からすると距離は持つのではとの期待もあったのと、新馬戦は東京を勝っているので、左回りも苦にしないだろうとも思っていました」(桑田厩舎長)

 万全の状態でダービー(G1)に臨ませるべく陣営も万策を講じていく。中5週のローテーションを考慮して、中間の調整はいつものノーザンファームしがらきではなく、美浦からほど近いノーザンファーム天栄を選択。普段、調整に携わっているノーザンファームしがらきのスタッフを、ノーザンファーム天栄に呼び寄せて調教を行っていった。

 「敏感な馬なので、環境が変わったことによる変化も気にするのではと思いましたが、天栄としがらきのスタッフが共に意見を出し合いながら、皐月賞(G1)の疲れを取ってくれただけでなく、精神面もリラックスさせてくれました。その後、レースに向けて仕上げてくれた堀先生や厩舎のスタッフと、関わっていただいた全てのホースマンの思いが、最高の状態でタスティエーラをダービー(G1)に臨ませてくれたのだと思います」(桑田厩舎長)

 この日、東京競馬場には71,868人ものファンが詰めかけた。その大観衆は最近のレース前におけるマナーを守るかのように、ゲートに全ての馬が入るまでは、声を出さないように努めたものの、その静寂はスタートと共に歓声へと変わっていく。

 好スタートを切ったタスティエーラは4、5番手からレースを進めていく。その後ろには皐月賞(G1)で後塵を拝したソールオリエンス。2頭は互いをマークするような形で、大歓声の待ち受ける最後の直線へと向かっていく。

 「タスティエーラはいい位置にいるなと思いましたが、後ろだと思っていたソールオリエンスもそこにいるのか、といった気持ちでした(笑)。ただ、これまでのタスティエーラのレースを見ていても、必ず直線では先頭に立ってくれていましたし、あとは追い出してからの勝負になると見ていました」(桑田厩舎長)

 残り1ハロンでタスティエーラは先頭に立つ。その時の反応の良さを見た時、桑田厩舎長はこれまで我慢していた感情が、一気に声となって溢れ出る。

 「当日は用事があって親戚の家にいたのですが、レースを見ていたら絶対、叫んでしまうと思っていたので、その時だけは車の中に移動しました。先頭に立ってからは「残せ!頑張れ!」と叫び続けていました」(桑田厩舎長)

 その声は車外だけでなく、東京競馬場のタスティエーラにも届いていたのかもしれない。追い込んできたソールオリエンスをクビ差振り切っての優勝。それはこの3歳世代に日本で誕生した7,708頭の頂点にタスティエーラが立った瞬間でもあった。

 「勝った後は嬉しい気持ちだけでなく、どこかホッとしたような気持ちにもなりました。レースの後には電話やLINEの通知が鳴りやまなかっただけでなく、その次の日からも会う人、会う人に『ダービー(G1)おめでとう!』と言われて、改めて育成馬がダービー(G1)を勝てた喜びを感じていましたが、今はこれからも無事にレースをしてもらいたいという思いが強いですね」(桑田厩舎長)

 レース後、キャロットファームの秋田博章社長からは、「秋は天皇賞(秋)(G1)か菊花賞(G1)の二択となる」と今後のローテーションについての話も聞かれていたが、このまま勝ち進んでいった先には、育成厩舎の先輩であるイクイノックスとの対決も考えられる。

 「今のイクイノックスに挑んでいくためには、まだまだタスティエーラ自身も成長しなければいけませんが、対決の日が楽しみになるほどの馬であるのは間違いありません。そして、今年の2歳馬を含めて、今後もダービー(G1)を沸かすような馬を送り出していきたいと思います」(桑田厩舎長)

 ダービー馬を手掛けたホースマンから発せられたその言葉は、実に力強かった。