重賞ウイナーレポート

2021年05月23日 オークス G1

2021年05月23日 東京競馬場 晴 良 芝 2400m このレースの詳細データをJBIS-Searchで見る

優勝馬:ユーバーレーベン

プロフィール

生年月日
2018年01月27日 03歳
性別/毛色
牝/青鹿毛
戦績
国内:7戦2勝
総収得賞金
196,355,000円
ゴールドシップ
母 (母父)
マイネテレジア  by  ロージズインメイ(USA)
馬主
(株) サラブレッドクラブ・ラフィアン
生産者
ビッグレッドファーム (新冠)
調教師
手塚 貴久
騎手
M.デムーロ
  • オークス勝利後、万歳で喜ぶ牧場の皆さん
    オークス勝利後、万歳で喜ぶ牧場の皆さん
  • レース後、牧場に帰ってきたユーバーレーベンと牧場の皆さん
    レース後、牧場に帰ってきたユーバーレーベンと牧場の皆さん
  • 牧場に初のクラシックを届けた
    牧場に初のクラシックを届けた
  • 1歳時、クラブのツアー時のユーバーレーベン
    1歳時、クラブのツアー時のユーバーレーベン
  • 募集価格は総額1,500万円だった
    募集価格は総額1,500万円だった

 東京競馬場で行われた優駿牝馬オークス(G1)はユーバーレーベンが優勝した。

 本馬の生産は新冠町のビッグレッドファーム。これまでには生産馬マイネルキッツ、ドリームバレンチノ、ディアドムスでG1(Jpn1)を制しており、今回は待望のクラシック初制覇となった。

 レース当日は本馬の馬主、サラブレッドクラブ・ラフィアンの代表・岡田紘和さん、同牧場マネージャーの蛯名聡さん、同牧場明和・場長の長田基洋さんが競馬場に向かい、牧場ではスタッフが集まって声援を送っていた。それぞれの思いが通じるかのように、ユーバーレーベンは長い直線を踏ん張り通した。

 取材に応じてくれたのは、同牧場明和・調教主任である榎並健史さんと、金子仁さん。牧場時代の本馬をよく知る二人に、今回の勝利を伺った。

 まずは榎並さん。牧場でのキャリアは22年で、様々なスタッフと長らく現場を支え、この牧場の空気を吸ってきた。レース後、グリーンチャンネルの生産者インタビューで受話器を握っていたのは榎並さんだ。

 「優勝できて嬉しいです。岡田(繁幸)が導入したマイネプリテンダーからは後継牝馬が一頭だけで、それがマイネヌーヴェルでした。その子がマイネテレジアで、ユーバーレーベン誕生につながりました。牧場で種牡馬生活を送るロージズインメイの血も、ゴールドシップの血も入った馬です。その馬で、東京芝2400mの舞台で、強いディープインパクト産駒らを相手に勝てたことも大きいですね」

 言葉通り、本馬の血統背景はビッグレッドファームの結晶、集大成のような馬だった。血統のみならず、素質の片りんも早い段階からのぞかせていた。

 「ユーバーレーベンはもともと評価の高い馬で、自信を持っていました。2歳夏にデビュー勝ちした時には、一年後のオークス(G1)を意識しましたし、暮れの阪神ジュベナイルフィリーズ(G1)で負けた時も、オークス(G1)は勝機があると前を向きました。生前、岡田(繁幸)は“ダービーに使いたい”と話すほどでした。今回は馬体重が減らなければと思っていたので、+8kgの発表を見てさらに期待が膨らみました。首を上下する仕草が激しいときがあって、返し馬はそれが心配でした。早め先頭から押し切るレースとなりましたが、よく残してくれましたね。レースのあとは泣いているスタッフもいました。やっと勝てたという気持ちです」

 二人目の金子さんは、榎並さん曰く“レース後、泣いているスタッフ”の一人だった。

 「ほっとしましたね。1勝馬の身でしたが、実力は通じると信じていました。直線が長いので、大丈夫かなと思いましたが、勝ってくれて涙が出ました。見ているスタッフ同士、拍手をして喜び合いました。牧場にいた頃から度胸のある馬で、将来は大きなレースでも、という思いはありました。長い距離も合っていますね」

 ビッグレッドファームは北海道外からの出身者が多い。金子さんは九州出身で、携帯には地元からお祝いのメッセージがたくさん舞い込んだという。

 レース後は新冠町の鳴海修司町長がお祝いに駆けつけた。スタッフはマスクをつけているが、それぞれの声や足取りから、笑顔や興奮が伝わってくる。広い事務所ながら、置けきれないぐらいのお花・お酒が届けられた。ビッグレッドファームは昔からせりや庭先で若駒を数多く購入しており、そうした背景もあるだろう。

 本馬は2018年1月27日生まれ。ゴールドシップの2年目産駒で、サラブレッドクラブ・ラフィアンの募集馬となり、価格は一口15万円・総額1,500万円だった。同牧場で生まれ育ち、後期育成まで一貫して行われた。牧場時代の本馬については、「どっしりした馬でしたね。追い切りを始めたばかりの頃は、目立つ動きではありませんでしたが、調教を重ねるたびに良化し、追い切りを見るのが楽しみでした。2歳1、2月の頃には抜群の動きを見せていて、牧場にいる世代トップを争う存在でした」(榎並さん)

 金子さんは牧場時代に本馬を担当していて、一緒に過ごした時間は長かった。

 「大人しく、手のかからない馬でした。馴致はスムーズで、食欲もあって、調教では一番早いグループにいました。他の馬と比べて扱いやすいので、経験の浅いスタッフが騎乗することもありました。ビッグレッドファームでは数多くのゴールドシップ産駒を手がけていますが、産駒は基本的に大人しいですよ。ユーバーレーベンは近づくとネコみたいに寄ってきて、かわいい一面も。パートスタッフからも人気のある馬でした」(金子さん)

 レース後、同牧場にユーバーレーベンが帰ってきた。牧場初のクラシックというお土産を持って。現在はふるさと・新冠町明和の空の下で、リラックスした日々を送っている。休養期間を経て、秋からの始動に備える。

 「幸い、脚元の腫れはなく、問題ありません。個人的な思いですが、父であるゴールドシップが挑戦した凱旋門賞(G1)の舞台も、合っている馬ではないかと思っています」(榎並さん)

 「牧場に帰ってきて、馬にお礼を伝えました。基本的には以前と変わってないですが、大人になりましたね。また無事に走ってきて欲しいと思います」(金子さん)

 最後に、取材でのこぼれ話を一つ。ビッグレッドファームのスタッフは、牧柵の設置や厩舎の内装工事など、業者がやるような仕事も積極的に実行し、立派に作り上げる。時には重機を操り、ペンキを塗り、橋を造り、草刈り車を走らせる。難しい馬を乗りこなすほど、騎乗技術の高い榎並さんも例外ではなく、あらゆる仕事をこなしている。

 「今、こうして取材を受けている時も、窓の外に見える木が目に入って、手入れがもう少し必要だなと思ったところです」

 G1馬の取材の話で、木の手入れの話になったのは初めてかもしれない。榎並さんの話しぶりの、何気なさが印象に残った。とても真剣なまなざしだった。

 牧場の美しい景観へのこだわり。ビッグレッドファームの「B」は「Big」でもあり「Beauty」の意味も添えたくなる。牧場のエリアは広く、それも分散していて、どこにいるのか迷うほどだが、随所に整備が行き届いている。その維持・管理は大変手間のかかることだろうが、その成果で、牧場にいるだけで癒され、絵画にいるような世界に浸ることができる。

 岡田繁幸、岡田紘和社長の描く美しい牧場をくみとり、忠実にかたちにしてきたのは、榎並さんや金子さんを含めた大勢のスタッフたち。牧場の豊かなスケールを感じる一方、現場を支えている人たちが向き合う仕事の細かさ、器用さもこの牧場の持ち味であり、長所であるのだろう。