2015年06月02日 北海優駿(DW2015)
優勝馬:フジノサムライ
プロフィール
- 生年月日
- 2012年03月24日 03歳
- 性別/毛色
- 牡/黒鹿毛
- 戦績
- 国内:12戦4勝
- 総収得賞金
- 15,115,000円
- 馬主
- 藤沢 和徳
- 生産者
- 柏木 一則 (新冠)
- 調教師
- 米川 昇
- 騎手
- 石川 倭
『ダービーウイーク2015』の第3戦、門別競馬場で行われた「北海優駿(ダービー)」は、大波乱のスタートとなった。単勝1.1倍という圧倒的な1番人気に推されたオヤコダカがゲートが開いた直後に落馬、場内は悲鳴とどよめきに包まれた。動揺が広がる中、5番人気のフジノサムライがマイペースの逃げに持ち込むと、最後まで他馬の追撃を凌ぎきり、先頭でゴール。初重賞勝利と同時に第43代目の北海優駿馬に輝いた。
フジノサムライの故郷は、新冠町東川に位置する柏木一則さんの牧場。8頭の繁殖牝馬を奥様、息子さんと3人で飼養している家族経営の牧場だ。牧場にとっては2011年の新春賞(園田)を制したキヨミラクル以来、4年ぶりの生産馬重賞勝利がダービーのタイトルとなった。
フジノサムライのレースは何度か競馬場へ応援に行っていたが、北海優駿(ダービー)当日は自宅のタブレットで観戦していたという柏木さん。「1頭抜けて強い馬がいたからね、勝つのは無理だろうと思って家でゆっくり見ていました。まさかあんなことが起こるなんて誰も予想してなかっただろうし、周りからは“ダービーは運のある馬が勝つんだから運があったんだよ”と言われ、それで納得するようにしました」と苦笑い。
フジノサムライの母カシノヴィガは、“運の強い馬”の最たるものだった。2003年8月に日高地区を襲った台風10号で、新冠町東川地区は甚大な被害を受けた。厚別川沿いにある柏木さんの牧場も浸水し、翌朝水が引いてから厩舎を確認すると、当時1歳だったカシノヴィガの姿がない。「万が一に備えて厩舎の扉は全開にしていたんですが、1m50cmくらいのところまで水が来ていた跡があったから、馬栓棒の上まで水で満たされてしまったんです。一晩中押し寄せてくる水と格闘して外に出れる状態じゃなかったし、心身ともに疲弊していて、『あぁ、流されてしまったんだな』と愕然とするしかありませんでした」と被災当時を振り返った。
しかし、昼過ぎに近所の牧場から「1歳馬が数頭道路を歩いている」との報せが入り、他の牧場から流された馬たちと一緒に路上を彷徨っているところを発見される。道路といっても、流されてきた土砂や流木に阻まれて普通に歩けるような状態ではなく、長い時間をかけてゆっくり引いて歩いた。「馬栓棒をすり抜けた時できたような擦り傷が膝にあっただけで、大きな怪我もなく元気な姿でした。うちの厩舎は使えないので、報せてくれた近所の牧場に預かってもらって、なんとかその場をしのぎました」と奇跡のようなエピソードを話してくれた。
九死に一生を得たカシノヴィガは、中央・地方で22戦1勝の成績を残し、繁殖牝馬として牧場へ戻った。初年度はゴールドアリュールと配合。受胎している状態で繁殖馬セールに上場したが買い手がつかず、「この馬はここに居たいんだなと思って、もう売るのは諦めました」と笑う柏木さん。この辺りもカシノヴィガの運の強さなのかも知れない。その後も故郷で繁殖生活をつづけ、5番仔として誕生したのがフジノサムライだった。
「母がダート馬だから、ダート適性のある種馬ということでスクリーンヒーローに決めました。生まれてきた時は脚長で馬体に余裕のあるつくりをしていて、これまでの母の産駒とタイプがまったく違いましたね。気性は悪くはなかったけど、自分より大きな馬にも向かって行くような我の強さはありました」と、競走馬となった現在の姿を彷彿とさせるエピソードを明かしてくれた。
11月中旬から4月末まで開催が休みに入るホッカイドウ競馬の所属馬は、シーズン終了後、他場に移籍する馬も多い。今回の北海優駿(ダービー)に出走した9頭のうち、ここを目標に据えて期間移籍もせず、厩舎に残って調整をつづけた馬はフジノサムライ、オヤコダカなどの5頭。“生え抜きの馬”として意地を見せた勝利でもあった。ダービー馬となったフジノサムライの次走は、ホッカイドウ競馬代表で挑む「ジャパンダートダービー(Jpn1)」。相手はさらに手強くなるが、正攻法の競馬で全力を尽くして欲しい。