重賞ウィナーレポート

2019年11月10日 エリザベス女王杯 G1

2019年11月10日 京都競馬場 晴 良 芝 2200m このレースの詳細データをJBIS-Searchで見る

優勝馬:ラッキーライラック

プロフィール

生年月日
2015年04月03日 04歳
性別/毛色
牝/栗毛
戦績
国内:12戦5勝
総収得賞金
737,467,000円
オルフェーヴル
母 (母父)
ライラックスアンドレース(USA)  by  Flower Alley(USA)
馬主
(有) サンデーレーシング
生産者
ノーザンファーム (安平)
調教師
松永 幹夫
騎手
C.スミヨン
  • ジェンティルドンナも育成してきたC3厩舎
    ジェンティルドンナも育成してきたC3厩舎
  • ノーザンファーム空港の育成馬としては、2015年のマリアライト以来の優勝馬となった
    ノーザンファーム空港の育成馬としては、2015年のマリアライト以来の優勝馬となった

 2歳時のメイクデビューを勝利すると、続くアルテミスS(G3)で重賞初制覇。その勢いのままに阪神JF(G1)も勝利し、その年の最優秀2歳牝馬に輝いたラッキーライラック。3歳初戦となるチューリップ賞(G2)でも、単勝1.8倍という圧倒的な人気に応える勝利をあげるなど、この世代における絶対的ヒロインであるどころか、歴史にその名を残すような名牝誕生の予感さえ感じさせていた。

 だが、続く桜花賞(G1)ではゴール前でアーモンドアイに差しきられて、初めて2着に敗れると、そのアーモンドアイがオークス(G1)、秋華賞(G1)も制し、史上5頭目の牝馬三冠馬となった一方で、自身はオークス(G1)で3着、秋華賞(G1)では9着に大敗。その後、牡馬を相手とした4歳時の中山記念(G2)で2着に入るも、1番人気に支持された阪神牝馬S(G2)、ヴィクトリアマイル(G1)共に、そのファンからの期待に応えられないレースが続いていた。

 その姿を忸怩たる思いで見ていたのが、ノーザンファーム空港の鈴木俊昭厩舎長だった。

 今年の6月からC3厩舎を任された鈴木厩舎長であるが、育成スタッフだった頃に初めてラッキーライラックに跨がったとき、背中から伝わってくるその大物感に驚きを感じていたと話す。

 「凄い馬になると思っていましたし、調教で跨がる度に、その成長ぶりにも驚かされていました。クラシックでも主役を務める馬になるとも思っていただけに、同世代に強い馬こそ揃っていたとは言えども、改めて、牝馬がいい状態でレースを使っていくことの難しさも知りました」

 ヴィクトリアマイル(G1)の後、牧場に戻ってきたラッキーライラックと鈴木厩舎長は久しぶりの対面を果たす。秋はエリザベス女王杯(G1)を目標に調整がされることになったが、鈴木厩舎長も背中を通して、距離があった方がラッキーライラックに合っているように思えた。

 「久しぶりに跨がった時に、改めてトビの大きな馬だと思いました。その一方でグッとハミを取りながら走っていたので、手綱を抑えるのも大変でしたし、気持ちと走りを一致させるためにも、リラックスさせるように努めました」

 リラックスをさせるべく鈴木厩舎長が取り組んだのは、ラッキーライラックをゆったりと歩かせることだった。最初は行きたがるような仕草を見せていたラッキーライラックであったが、そのうち、調教に向かう際にも落ち着きが出てきただけでなく、周回コースや坂路での調教でもゆったりとスタートを切れるようになり、終いまでの集中力も途切れなくなっていた。

 「乗っていても気持ちが良かったですし、イメージ通りの調教ができたと思いました。リラックスできたのもあるのか馬体も増えていましたし、むしろ、馬体が出来上がりすぎて、入厩前には引き締めた方がいいのではとさえ思えた程でした」

 期待をしていた府中牝馬S(G2)こそゴール前で交わされて3着に敗れたが、それでも前哨戦としては納得のいく結果であり、何よりもラッキーライラックが競馬でもリラックスした走りができていたことに次走への期待が膨らんだ。

 エリザベス女王杯(G1)は年下のクラシックホースに人気を奪われる形で、3番人気の評価となったが、その走りはまさに女王復活を感じさせるものだった。これまで、2年連続で2着となっているクロコスミアが先頭に立ったレースで、中団から追走したラッキーライラックは、最後の直線で空いたインコースに進路を向けていく。その外には1番人気のラヴズオンリーユーが末脚を伸ばして行くも、そこから更に一伸びしたのはラッキーライラックだった。

 「状態はいいと聞いていましたが、あの競馬をするとは思ってもみませんでしたし、最後の直線の末脚や、最内を突いてきた姿にも驚かされました」

 実は鈴木厩舎長は、ラッキーライラックの父であるオルフェーヴルにも育成スタッフだった頃に跨がってきた。そのオルフェーヴルが出走した4歳時の凱旋門賞(G1)で、騎乗していたのがスミヨン騎手。最後の直線では一気に抜け出し、日本競馬の悲願が達成されたかのように思われたが、ゴール前で急に内側に斜行して2着に敗れてしまう。だが、ラッキーライラックはゴール板までまっすぐに駆け抜けていった。

 「ゴールの瞬間はとても感動しましたし、個人的にも色々な縁を感じるG1勝利となりました」とレースを振り返る鈴木厩舎長。これが1年8か月ぶりの勝利となったラッキーライラックだが、「縁」がもたらしたとも言える復活劇は、このエリザベス女王杯(G1)から始まっていくのだろう。