重賞ウィナーレポート

2019年06月12日 関東オークス(中央交流) Jpn2

2019年06月12日 川崎競馬場 曇 重 ダ 2100m このレースの詳細データをJBIS-Searchで見る

優勝馬:ラインカリーナ

プロフィール

生年月日
2016年03月30日 03歳
性別/毛色
牝/栗毛
戦績
国内:8戦3勝
総収得賞金
86,543,000円
パイロ(USA)
母 (母父)
フェールクークー  by  アラムシャー(IRE)
馬主
大澤 繁昌
生産者
日進牧場 (浦河)
調教師
武藤 善則
騎手
武藤 雅
  • ラインカリーナの母フェールクークー(14歳)
    ラインカリーナの母フェールクークー(14歳)
  • 今春生まれたラインカリーナの半妹(牝当歳、父ミッキーアイル)
    今春生まれたラインカリーナの半妹(牝当歳、父ミッキーアイル)
  • フェールクークーと当歳馬は現在、浦河町・高村牧場へ預託されている
    フェールクークーと当歳馬は現在、浦河町・高村牧場へ預託されている
  • 日進牧場の放牧地
    日進牧場の放牧地
  • 日進牧場の看板
    日進牧場の看板

 『グランダム・ジャパン2019』3歳シーズンの最終戦は、中央・地方交流のダートグレード「関東オークス(Jpn2)」。JRA所属馬4頭を、南関東牝馬三冠をめざすトーセンガーネットらの地方勢10頭が迎え撃つ形となったが、レースはJRA所属馬2頭の一騎打ちに。大外枠からハナを奪った4番人気ラインカリーナが、中団追走から迫ってきた1番人気マドラスチェックの猛追を退け、鞍上の武藤雅騎手とともに重賞初制覇を成し遂げた。

 ラインカリーナの生まれ故郷は、浦河町・天馬街道沿いに牧場を構える日進牧場。生産から中期育成までを一貫して行う総合牧場で、1977年の天皇賞(秋)を制したホクトボーイやクラシック2冠を含むG1レース3勝を挙げたミホシンザン、1999年の高松宮記念(G1)優勝馬マサラッキなどを生産。育成馬としてもメイショウドトウやタップダンスシチーなどのG1馬を手掛けてきた。

 「長くこの仕事をやっていて1つ勝ち上がることの難しさを身に染みて感じていますので、交流とはいえ重賞勝利の響きは格別です」と話すのは、日進牧場の専務・谷川彰久さん。「2100mはちょっと長いのではないかと思っていたので、逃げてあれほどしぶとい脚を使ってくれたのには驚きました。武藤雅騎手も初重賞勝利をお父様(武藤善則調教師)の管理馬で達成できて、喜びもひとしおなのではないでしょうか」と、キングズガードが2017年のプロキオンS(G3)を制して以来、約2年ぶりとなる生産馬重賞勝利の喜びを噛みしめる。

 ラインカリーナの母フェールクークーは、日進牧場のオーナーブリーディングホースとしてJRAでデビューし、ダートの短距離戦で通算3勝(うち笠松で2勝)を挙げて繁殖入り。そしてパイロとの交配で5番仔として産んだ牝馬がラインカリーナだった。「当時はまだパイロの種牡馬評価が今ほど定まっておらず、価格も手ごろで種付けしやすかったんです。ただパイロ産駒の例に漏れず、生まれた当時のラインカリーナも気が強い馬でした」と谷川さんが言うように、父パイロの名前を頻繁に耳にするようになったのは昨年あたりから。ハセノパイロ(2018年・東京ダービー)、デルマルーヴル(2018年・兵庫ジュニアグランプリ)、ミューチャリー(2019年・羽田盃)などが地方のビッグレースを次々と制し、今やパイロはダート種牡馬としての地位を確固たるものとしている。

 「フェールクークーは仔出しの良い母馬で、ラインカリーナの兄姉もみんな見栄えのする馬体をしていたんです。ただ、その割には競走成績が伴っていなかったので、正直に言うとラインカリーナに関しても『馬体や動きは素晴らしいのだけど…』と疑心暗鬼の気持ちでした」と、ラインカリーナが牧場で過ごした時期を振り返る。

 その後、1歳秋のオータムセールで売却されて、美浦の武藤善則厩舎へ入厩することになったラインカリーナ。間もなくデビューを迎えるという2018年5月、突然、谷川さんのところに武藤調教師から電話がかかってきたそうだ。「調教の動きが素晴らしいと言うんですよ。武藤先生とは昔からの付き合いですが、これまでにそういう連絡をもらった記憶がなかったので、ラインカリーナに相当手応えを感じているんだなと思いました」と谷川さんは当時のことを明かしてくれた。

 2歳6月のデビュー戦を12番人気で快勝。3歳2月のくすのき賞で2勝目を挙げたラインカリーナは、ダート競馬の出世レースとして名高い伏竜Sに出走。ゴール直前でかわされて3着に敗れたものの、負けた相手が牡馬一線級のデアフルーグとマスターフェンサー。改めて、ラインカリーナの実力を証明する一戦となった。「まず、2歳の早い時期にデビューできたことが大きかったですね。2勝目を挙げたくすのき賞も抽選での出走でしたし、ラインカリーナは特別な運を持っている馬なのかもしれません。そして、そのチャンスをきっちりとモノにできる勝負強さは、彼女自身が持って生まれたものだと思います」と、関東オークス(Jpn2)制覇に至る道のりを振り返り、その強運ぶりを強調する。

 現在、母フェールクークーは、同じ浦河町の高村牧場へ預託に出されている。そして今春には、父ミッキーアイルの元気な牝馬を出産。その成長過程をつぶさに見ている高村祐太郎さんは「父が変わっても、フェールクークーの仔はみんな素晴らしい馬体をして生まれてきます。今年生まれた当歳も将来が楽しみですね」と未来に期待を膨らませている。その当歳馬に対する思いは、牝系を大切に育ててきた谷川さんも同じだ。「この牝系は芝向きなのかダート向きなのか判断しかねるところがあって、毎年、配合する種牡馬を変えているんです。実際、フェールクークーの半妹ブランダムールは、JRAの芝レースで5勝しましたからね。今年の当歳は父がミッキーアイルなので芝向きでしょうし、お腹の中にはマジェスティックウォリアーの仔が宿っていて、こちらはラインカリーナと同じくダートで活躍してほしいと願っています」と、妹やお腹の仔にも期待を膨らませている。

 ラインカリーナの次走は、古馬との初対戦となるブリーダーズゴールドカップ(Jpn3)を予定しているという。「歴戦の古馬相手にどんなレースができるか、このレースがラインカリーナの将来を占う意味でも試金石となりそうですね。ここで好勝負できるようなら、秋のJBCも視野に入ってくるかもしれません。私もスタッフといっしょに、門別競馬場へ応援に駆けつけようと思っています」と愛馬にエールを送る谷川さん。

 マサラッキが高松宮記念(G1)を先頭で駆け抜けてから、今年でちょうど20年。天馬街道が紅葉に染まる季節、特別な運を持つラインカリーナが日進牧場へビッグタイトルを運んできてくれるかもしれない。