2015年11月22日 マイルChS G1
優勝馬:モーリス
プロフィール
- 生年月日
- 2011年03月02日 04歳
- 性別/毛色
- 牡/鹿毛
- 戦績
- 国内:12戦7勝
- 総収得賞金
- 536,246,000円
- 母 (母父)
- メジロフランシス by カーネギー(IRE)
- 馬主
- 吉田 和美
- 生産者
- 戸川牧場 (門別)
- 調教師
- 堀 宣行
- 騎手
- R.ムーア
京都競馬場で行われたマイルチャンピオンシップ(G1)はモーリスが優勝し、安田記念(G1)に続いて春秋のマイル王に輝いた。
本馬の生産は日高町の戸川牧場。昭和35年創業の牧場で、過去には平安S(G3)、アンタレスS(G3)を制したダイシンオレンジや、ホッカイドウ競馬重賞を2勝したサムライジャパン、ジャパンダートダービー(G1)4着の実績があるブイロッキーなどを生産している。現在、繁殖牝馬は8頭。
レース当日、代表の戸川洋二さん夫妻は日帰りで京都競馬場へ向かい、その横には娘の文乃さんと、西武ライオンズの選手でシーズンオフ中の息子・大輔さんも揃って観戦していた。日高町豊田の自宅では、先代の戸川仁さん、妻のフミ子さんがレースを見守っていた。歓喜の瞬間を迎えると、待ってましたとばかりに車が集まってきた。日高町の三輪茂町長をはじめ、地元の牧場主、HBA門別支所や日高町役場の職員が祝福した。恒例の万歳写真を撮り終えると、仁さんが報道陣のインタビューに応じた。「またG1を勝てて嬉しい。期待以上の走りを見せてくれました。夢のようですね。皆さんに感謝です」
本馬は父スクリーンヒーロー、母メジロフランシス、母の父カーネギーという血統。牝系はメジロ牧場で繁栄した根幹牝馬の一頭、メジロボサツにさかのぼり、その末裔からは名牝メジロドーベルやメジロマントル、最近ではサウンドリアーナ、ショウナンラグーンといった重賞馬が誕生している。
戸川牧場代表の洋二さんは以前、メジロ牧場に勤めており、事務をしていた晴恵さんと結ばれ、晴恵さんの実家・戸川牧場を後継することになった。そうした縁があって、メジロ牧場の繁殖牝馬が、戸川牧場に仲間入りし、そのうちの一頭が本馬の母メジロフランシスだった。今も戸川夫妻と交流が深く、ともにメジロ牧場時代を駆け抜けた岩崎義久さん(現レイクヴィラファーム)は、本馬の優勝に喜んでいる一人だ。
「洋二さんは職人肌の方で、私が小さい頃からお世話になりました。メジロ牧場にはメジロフランシスと同系馬が多かったことから、戸川さんで繁殖生活を送ることになりました」と、当時を振り返る。
メジロ牧場は2011年に解散となったが、メジロの血は現代の競馬にも生きている。母の父メジロマックイーンという血統から誕生したオルフェーヴル、ドリームジャーニー、ゴールドシップ、タイセイレジェンドに続き、今度はメジロの牝系から大器登場となった。
「牝系からも素晴らしい馬が現れて、本当に嬉しいです。筋骨隆々で気性の強いところは、祖母メジロモントレーに似ていますね。メジロの馬というとスタミナがあって、芝で長く脚を使う馬が多い傾向でしたが、戸川さんの配合で生まれたモーリスは1600mで見事なキレ味。またメジロの血統が見直されるキッカケになったらと思います」
もう一人、本馬の走りに目を凝らしているのが、本馬を育成した新冠町・大作ステーブル代表の村田大作さんだ。本馬が1歳時、HBAサマーセールに上場した際、その歩きを見てこれはと感じ、チェックを入れた。いざセールに入ると、後の活躍を考えれば意外にも、バイヤーの手は上がらなかった。落札価格は157万5,000円(税込)。育成を経て2歳時、HBAトレーニングセールへ上場。公開調教で出色の時計を叩き出し、1,050万円(税込)でノーザンファームが落札した。予想に反して、トレーニングセールでも再び“ひと声”で決着がついたが、後に大作ステーブルの追い風となる勝利をもたらすのだった。
「これだけの馬に携わることができて誇りに思っています。自分のやってきたことは間違いではなかったと。チャンスの大きい価格帯の中から、夢が広がるような、胸を熱くする出会いができました。この馬の歩みを見ていると、本当にドラマチックな馬だと思います。香港は育成馬のジャガーメイルが3、4、4、2着と惜しい結果でした。モーリスには是非1着を願っています」
大作ステーブルから車で15分、レックススタッドに本馬の父、スクリーンヒーローがいる。今季は自身過去最多の190頭と交配し、30万円からスタートした種付料は、10倍に上昇した。今、日高で最も鼻高々の種牡馬だろう。株式会社レックスの海老原雄二マネージャーは、別の切り口から“ドラマチック”という言葉を用いて、本馬の快進撃に胸を躍らせている。
「この馬を見ていると、日本に根付いた牝系の上に、あらゆる名馬の血が見え隠れしますね。胸の深いところや、全身を使うフォームは父譲り。一方で、父の父グラスワンダーや、母の父カーネギーの特徴も出ていて、ひと言では語りつくせない、ドラマチックな血統が走りに表れています。春に中山競馬場でモーリスを見た時、完成はまだまだ先だなと思いました。それでいてすぐにG1を勝つのですから、末恐ろしい馬ですね。スクリーンヒーローはジャパンカップ(G1)で海外馬を破りました。父子2代で世界一を目指して欲しいです」
本馬の次走は12月13日、香港国際マイル(G1)。地元の最強マイラー・エイブルフレンドとの対決に、現地は盛り上がっているという。戸川牧場の皆さん、本馬に関わったホースマンが期待を寄せている。西武ライオンズの選手も、競馬新聞を広げているかもしれない。日本のモーリスから、世界のモーリスへ。JBISサーチの香港国際競走特集ページに、先頭ゴールのシーンが飾られることを心待ちにしたい。