ダート頂上決戦への前哨戦「第19回東京中日スポーツ杯武蔵野ステークス(G3)」は11月15日、東京競馬場で行われた。7番人気のワイドバッハが、4角最後方の一番外から大外一気に突き抜け力強く差し切り、待ちに待った重賞初勝利を果たした。この勝利により12月7日に中京競馬場で行われるチャンピオンズカップ((G1)ダート1800m)への優先権を獲得した。

　ワイドバッハは新冠町の八木常郎さんの生産馬。今年2月に牧場を息子の明広さんに託したばかりだ。レースの日、いつも通り牧場で作業を済ませ家族でテレビの前で応援に臨んだ。「最近はずっと、後方からのレースをしているので最後方でも落ち着いて観ていられました。あとは武騎手がどの位置から動いていくのかに注目していました。」そうレースを振り返るのは次世代を担う新社長の八木明広さん。家族だけの牧場でもあり、そう簡単には重賞を勝てないと思っていたので東京に応援には行かなかったそうだ。「直線に入ってからテレビの画面からワイドバッハが消えたので、ああ、伸びて来られなかったんだな、と少し諦めの気持ちになりましたが、画面が変わってレース全体が映し出されたら、大外からすごい追い込みをする姿が目に飛び込んで来たので固唾を飲んで見守りました。」矢のように突き抜け、ゴール前でしっかりとかわした。嬉しい重賞初勝利に、家族で歓喜に沸いた。

　念願の重賞勝利を果たした瞬間「勝っちゃった。」あっけにとられて思わずそう言ったそうだ。「重賞常連の馬もいた中で勝ててとても嬉しいです。休み明けからオープンのレースでは安定した結果を出していたのでそのまま維持してくれたら良いなと思っていましたが、本当に良かった。」嬉しさがこみ上げて来て明るい笑顔が弾ける。たくさんの関係者にお祝いの電話や連絡を頂き、「どうして東京に応援に行かなかったの！」と冷やかされたそうだ。

　「レース後、庄野調教師に電話を入れたら「凄かったね！」と笑っておっしゃっていましたよ。前半の時計も良かったし、最後は良い脚を使う事も自信があったらしくレース前から勝利を確信していたらしいです。」体調も良く力もついて、中距離戦も楽しみになって来た。

　牧場時代は小ぶりでそんなに目立たない馬だったそうだ。大人しいタイプではなかったが、手がかからず順調にトレーニングをこなし育って行ったそうだ。

　母グリーンヒルレッドは、牧場にとって大切な稼ぎ頭になっている。「体が大きくて、穏やかな馬です。現在はメイショウボーラーを受胎し、のんびり生活しています。他の牝馬と共に朝に放牧して夕方に集牧し、来春の出産に向けてゆっくり準備を進めています。」

　新社長の明広さんは日頃から、講習を受けに札幌まで足を運ぶなどして仕事に対しての努力を惜しまない。現在牧場には9頭の繁殖牝馬がいて、これからの時期が大切になると言う。「こうして競走馬を生産している中で、一番の目標はやはりG1に出て勝てる馬を作りたいって事です。もちろん、出るだけてもすごい事だっていうのはわかっています。でも、いつかは勝ちたいです。」明るい笑顔ではっきりと答えてくれた。目標を達成する日はもう目の前に来ている。