重賞ウィナーレポート

2014年06月01日 日本ダービー G1

2014年06月01日 東京競馬場 晴 良 芝 2400m このレースの詳細データをJBIS-Searchで見る

優勝馬:ワンアンドオンリー

プロフィール

生年月日
2011年02月23日 03歳
性別/毛色
牡/黒鹿毛
戦績
国内:9戦3勝
総収得賞金
372,681,000円
ハーツクライ
母 (母父)
ヴァーチュ  by  タイキシャトル(USA)
馬主
前田 幸治
生産者
株式会社 ノースヒルズ (新冠)
調教師
橋口 弘次郎
騎手
横山 典弘
  • 幾多の活躍馬が巣立った厩舎
    幾多の活躍馬が巣立った厩舎
  • レース後は牧場事務所に大勢の方がお祝いに駆けつけた
    レース後は牧場事務所に大勢の方がお祝いに駆けつけた
  • 牧場は新冠町の美宇地区に構える
    牧場は新冠町の美宇地区に構える

   東京競馬場で行われた第81回東京優駿日本ダービー(G1)はワンアンドオンリーが好位追走から抜け出し、1番人気イスラボニータとの競り合いを制して優勝した。

   本馬の生産は新冠町のノースヒルズ。鳥取県に構える同牧場グループの大山ヒルズと連携し、一貫した生産・育成を行っている。過去にはノーリーズン、ファレノプシスといったクラシックホースや天皇賞馬ヘヴンリーロマンス、グランプリホース・アーネストリー、ダート王者トランセンドなど、多数のG1馬を生産している。同レースは昨年のキズナに続くVで、生産馬による2連覇という偉業を達成した。

   「優勝できて大変嬉しく思っています。当日は北海道からスタッフ6名が応援に駆けつけました。パドックでは、今年も我々の最大目標の一つである日本ダービーに生産馬が出走できるという喜びでいっぱいでした。無事にゲートを出た後、横山典弘騎手が早目に前々へ取りついたのを見て、良い位置につけているなと思いました。最後は本当によく伸びてくれましたね。橋口弘次郎厩舎に入厩した日から数えて、ちょうど丸一年での勝利となりました。その間放牧に出すことなく、とても大切に育ててくれた橋口調教師、スタッフの皆さん、そしてコンビを組んだ横山騎手に感謝しています。牧場としては2年連続のダービー勝利となりました。多くの方々に祝福いただき、ありがたく思っています。」と、レースの感想を語ってくれたのは、同牧場ゼネラルマネージャーの福田洋志さん。レース直後、牧場へ駆けつけると、新冠町の小竹国昭町長や近隣の牧場主、市場関係者が駆けつけ、牧場で声援を送っていたスタッフと喜びを分かち合った。競馬中継で優勝調教師の記者会見が流れると、事務所に集まったスタッフは皆、目を輝かせながらその言葉に耳を傾けていた。

   父ハーツクライ、母ヴァーチュ、母の父タイキシャトルという血統の本馬は、母の3番仔として誕生した。皐月賞馬ノーリーズンと同じ母系出身で、1歳夏までを同牧場で過ごし、その後は大山ヒルズでの育成を経て栗東・橋口厩舎へと巣立った。

   「実に順調な成長過程でした。彼の成長記録には病気やケガの記録は無く、本当に健康に過ごしていました。よく踏み込んで歩く馬で、栄養コンサルタントからも評価を得ていました。ブレーキングも大山ヒルズへの移動も、一番早いグループに入っていました。」と、福田さんは当時を振り返る。牧場から厩舎へ馬を送り出すにあたり、いかに健康に、順調に送り出せるかを牧場現場では留意している。本馬はその点で、全くといって良いほど陰りがなかった。それは、ダービーへの道の基盤を築き、揺るぎないものにした。橋口調教師は当歳から本馬を見ていて、現役時代を管理した父ハーツクライに似ていると、語っていたという。

   ホースマンの夢として目されるダービーを連覇した。その重みや難しさは競馬ファン、競馬の世界に身を置く人間なら、説かずともわかる話だろう。どのような努力がこれほどの成果に結びついたのか。馬の資質もさることながら、強い馬づくりへの手腕・技術にも興味を抱かせる。牧場の理念は「Challenging Spirit」_ホームページのトップページにもその文言が掲げられている。事務所や休憩室には目標や心掛け、スタッフを鼓舞する言葉を記した紙が貼られてある。仕事の傍ら生産馬がG1出走となれば、現地での応援を叶えたり、経験に応じて国内外のサラブレッド市場に出向いたりする機会を作っている。自然に囲まれた牧場は一方で街のショッピングセンター・飲食店から離れていて、それはまた不便な場所かもしれないが、牧場では定期的にスタッフの誕生日会などのレクリエーションに取り組んでいる。それはチームワークやモチベーションの向上、働きやすい環境に対する配慮を感じさせる。強い馬づくりは、強い人づくりの結果でもあるのではないだろうか。

   加えて、2頭のダービー馬が誕生したことにより見えてきたポイントが、牧場の更なる意識のアップにつながっている。

   「昨年、ノースヒルズで生まれ育ったキズナがダービーを勝ったという経験は非常に大きなものでした。ダービーというレースに対して、スタッフ一人ひとりが強く意識するようになりました。」と、福田さんは最高の栄誉がもたらした変化に触れる。

   「高い素質があっても、ダービーまでの過程で順調さを欠いてしまうことがあれば、出走は難しくなります。目標とするレースから逆算して、そのためには今、どれぐらいの状態にあることが望ましいか、把握しなければなりません。本番までの積み重ねは、当歳時からすでに始まっています。キズナ、ワンアンドオンリーの勝利を受けて、そうしたことを実感しました。」

   緑の芝生に映えて、最後に抜け出す脚色は鮮やかだった。水色と赤の勝負服に観衆の視線が注がれた。研ぎ澄まされた482kgの馬体は弾み、2分24秒6の時計でゴールに飛び込んだ。それは彼を取り巻く周りの方々による、日々の地道な努力が生み出した速さとタイミングが、たぐり寄せた境地とも言えるかもしれない。

   日本一の称号を得た本馬には、様々な可能性が広がっている。菊花賞(G1)を勝てば、牧場にとって牡馬クラシック完全制覇。父仔海外G1制覇という壮大なシナリオも想像に難くない。

   「夏の間、じっくり疲れをとって秋に備えて欲しいですね。まだ成長の余地もあると思います。ダービーでウイナーズサークルに入った時、またこの場所に立ちたいと、改めて思いました。ワンアンドオンリーには、“ノースヒルズに生まれてくれて、ありがとう”という気持ちです。」