門別競馬場で行われた『ダービーウイーク2014』の第3戦「北海優駿(ダービー)」を、3番人気のヤマノミラクルが制した。道中は中団で脚を溜めながら直線で外へ持ち出し、ジリジリと脚を伸ばして先に抜け出したワイルドサプライズをゴール直前でアタマ差捕らえ、重賞初制覇をダービーの舞台で華々しく飾った。

　ヤマノミラクルの生産者は、新冠町大富の石郷岡雅樹さん。1970(昭和45)年に牧場を創業し、1990年代には、高崎・金沢・岩手・高知を渡り歩いて長く活躍したトーシンイチバンや、南関東競馬の重賞戦線を沸かせたベストンスイングなどを生産。最近は中央競馬で生産馬の活躍が目立ち、今年の日経新春杯(G2)で4着に入ったコウエイオトメ(牝6歳)や、準オープンまでクラスを上げてきたウィキマジック(牡6歳)、ケイティバローズ(牝4歳)などが、現役馬として気を吐いている。

　「ヤマノミラクルはもともと期待の高い馬でしたが、少しスピード不足な面があり、2歳時は歯が立ちませんでした。それでも先々のことを考え、短距離戦で中距離を意識した競馬をしたり、調教で工夫したりしてきました。そういった陣営の努力が、ようやく実りましたね。最後は写真判定になりましたが、勝ったとわかった時は家族で万歳をしました(笑)。お祝いの電話もたくさんいただき、本当に嬉しかったです」とレースを振り返って喜ぶのは、ヤマノミラクルの生産者・石郷岡雅樹さん。当日は出産、種付けの多忙な時期と重なったため、テレビの前で声援を送っていたそうだ。

　ヤマノミラクルは、カンパニーの初年度産駒。毎年、新種牡馬を狙って交配しているという石郷岡さんにその理由を聞くと、「新種牡馬には、必ず成功する馬が入っていると考えています。先物買いする意味でも、初年度に積極的な交配をしてるんですよ。カンパニーの丈夫さは、ヤマノミラクルに受け継がれたと思います」と、してやったりな笑顔で答えてくれた。

　一方の牝系は、石郷岡さんが15年前に初めてアメリカの繁殖セールへ出向いて探し当てた血統だ。名種牡馬ダンジグを父に持つポリッシュデイムに目をつけ、購入を決断。アメリカですでに3頭の仔を産んでいたが、日本へ輸入して繁殖生活をスタートさせると、4頭の牡馬がJRAで次々に勝利を挙げ始める。そして日本で5番目に産んだ唯一の牝馬が、ヤマノミラクルの母ケイアイリードだった。「ケイアイリードは、故障もあってデビューできずに繁殖牝馬となりましたが、フォーティナイナーとダンジグのニックスを持ち合わせており、ポリッシュデイムの後継として期待は大きかったんです。早速、その力を発揮してくれましたね」と血統表を眺める石郷岡さん。代々の種牡馬、繁殖牝馬を伝える表情は、自信に満ち溢れている。

　「ヤマノミラクルは、当歳の時は従順でしたが、1歳春ぐらいから母に似て気性が強くなってきたんです。加えて生まれつき脚が内向しており、獣医師や装蹄師と矯正に取り組みました。北海道市場では2度とも主取りになってしまいましたが、安売りしたくなかったので、お台以下の値段では妥協しませんでした。放牧地でも動きは素軽くて、走る予感はしてたんですよ」と、ヤマノミラクルが牧場で過ごした時期について話してくれた。1歳6月まで石郷岡さんの牧場で過ごし、その後はコンサイナーの育成牧場へ移動。そして2歳5月にホッカイドウ競馬からデビューして順調にレースを使われ、冬場には南関東へ移籍。今季の開幕と同時にホッカイドウ競馬へ戻り、ついにはダービーを制するまでに成長した。

　「ダービーと名のつくレースを生産馬が勝つのは初めてのことです。やっぱり嬉しいもんですね。牧場の実績は市場での評判にもつながりますから、今後に向けても大きな1勝です」と、殊勲の愛馬を改めて讃える石郷岡さん。

　「今後も順調に走って欲しいと思います。差す競馬が板についてきましたし、ゆったり走れる距離が合っているので、クラシック3冠目の王冠賞も楽しみです。仕事の都合がつけば、競馬場まで応援に行きます！」と、最後に威勢良く話してくれた。“ダービー馬”の称号は、後々の競走生活でも色あせることなく輝きつづける。高齢となってG1を連勝した父のように、混沌とするホッカイドウ競馬の古馬路線を牽引していく存在へと成長していってほしい。