重賞ウィナーレポート

2011年01月29日 シルクロードS G3

2011年01月29日 京都競馬場 晴 良 芝 1200m このレースの詳細データをJBIS-Searchで見る

優勝馬:ジョーカプチーノ

プロフィール

生年月日
2006年04月11日 05歳
性別/毛色
牡/芦毛
戦績
国内:14戦6勝
総収得賞金
302,201,000円
マンハッタンカフェ
母 (母父)
ジョープシケ  by  フサイチコンコルド
馬主
上田 けい子
生産者
ハッピーネモファーム (荻伏)
調教師
中竹 和也
騎手
藤岡 康太

  「もう一度、競馬に送り出してあげたい。あの頃はその一心でした」(山口ステーブル代表・山口裕介さん)
 ※山口ステーブル…BTC(軽種馬育成調教センター)利用の育成牧場。競走馬の育成、調教のほか、市場コンサイナー事業も手がけている。

 09年NHKマイルカップ(G1)を制し、一躍脚光を浴びたジョーカプチーノだが、日本ダービー(G1)後は度重なる筋肉疲労に悩まされた。ついに3歳秋シーズンは一度も出走することができず、翌年の高松宮記念(G1)で復帰を目指すも、右前脚深管に不安が出て断念。生まれ故郷のハッピーネモファーム(浦河町)へ放牧に出され、山口ステーブルで本格的な乗り込みを再開したのは昨年6月のこと。歓喜に沸いたNHKマイルカップ(G1)からすでに1年が経過していた。

 「こちらへ移動してきた当初は600キロくらいありました。もともと大きな馬ですが、それにしてもまるで種牡馬のようでしたね。ただ、若駒だった育成時代とは違って貫禄が出ていました。顔を見て、あっ老けたなって(笑)」

 山口さんによれば、ジョーカプチーノは“優等生タイプ”。人に対して素直で1歳、2歳の頃からスタッフの手を煩わせることはほとんどなかったという。だからといって印象が薄いわけではない。むしろその逆で、山口さんは当時から「この子はモノが違う」と確信していた。「走りが前向きで、一生懸命に走る。スピードが飛び抜けていた」。だから、10番人気でNHKマイルカップ(G1)を制した時もそれほど驚きはなく、予感めいたものを感じていたという。レース当日はセール準備のため札幌競馬場入りしていた山口さんだったが、気持ちが徐々に高ぶり、急遽、千歳空港へ。家族にスーツを届けてもらい、ジョーカプチーノが待つ東京競馬場へと急いだ。

 「ぎりぎりパドックが始まる頃に到着したんです。ゴールした瞬間は『ああ、やっぱりすごい馬だったんだ』って。みんなで喜んで、感動して、本当に夢のようで。最高でした」

 新しい世界を見せてくれたジョーカプチーノは山口さんにとって「神様からの贈り物」。それだけにもう一度輝きを取り戻してもらいたかった。

 実戦から1年以上遠ざかっていたジョーカプチーノの体は、やはり相応に緩んでいた。体が増えた分だけ脚元への負担は大きくなる。とはいえ、軽い運動では足りないため、まずはダイエットが先決だった。「筋力を鍛えて、余分な脂肪を減らす。このあたりは人間の減量と同じです。カイバの量を調整しながら、徐々に負荷をかけていきました」。

 7月、8月と月を追うにつれてペースアップ。だんだんと前に進む力が強くなり、秋を迎える頃には、調教を終えた騎乗スタッフの手がビリビリと痺れるようになっていた。「体が引き締まって、動きも本当に良くなって。これなら、と10月初旬にトレセンに送り出しました」

 復帰戦は入厩からわずか3週間後の10月30日スワンS(G2)。馬体重はプラス38キロだったが、ほとんどが成長分で久々を感じさせない体つきだった。最後は交わされたものの、2枚腰を使ってコンマ2秒差の3着に粘り込んだレースぶりに山口さんは感嘆した。「すごい。やっぱり強い。たいした馬だ」。

 12月のラピスラズリS(OP)で1年7ヵ月ぶりの勝利を挙げ、単勝1番人気で迎えた年明け初戦のシルクロードS(G3)。パドックに出てきたジョーカプチーノは馬体に身が入り、凄みすら感じさせる体つき。山口さんの目にはデビュー以来、最高の出来に映った。

 「普通に出てくれれば、勝てる」

 しかし、ゲートで立ち遅れて、まさかの11番手追走。これでは外を回って掲示板かな、と山口さんが諦め半分の気持ちになったもの無理はない。ただ、当のジョーカプチーノは諦めてなどいなかった。外々を回り、内を通った馬たちより余計に走りながらも、上がり32秒6の末脚で直線一気の差し切り勝ち。ファルコンS(G3)、NHKマイルC(G1)に続く3つ目の重賞タイトルを手にした。それは単純な復活劇ではなく、ジョーカプチーノの新たな可能性の扉が開いた瞬間だった。

 「まさかあんな末脚を使えるなんて、正直言って驚きました。本当にすごい馬、頭が下がる思いですね。あの競馬ができれば、レース運び、距離などいろいろな面で幅が出るのではないでしょうか。楽しみが広がります」

 次は3月27日の高松宮記念((G1)、阪神1200m)へ。長期休養を乗り越え、成長を遂げたジョーカプチーノがもう一度あの高みを目指す。