イギリスにアストンマーチンという乗用車のブランドがある。どこかで耳にしたことのある名前だと思った方もいらっしゃるだろうし、映画ファンにとっては、「００７シリーズ」で主役を務めるジェームズ・ボンドが劇中で手足のように操るボンドカーとして認知されているはずだ。
　ボンドカーとしてスクリーンの中に出てくるアストンマーチンは、機関銃にミサイル、はては水中でも活動ができるというまさにスーパーカー。
　そのアストンマーチンと、戸佐眞弓オーナーの愛称である「まーちゃん」から名前を取ったアストンマーチャンは、軽快なスピードとレースセンスの良さで、今年のＧ１スプリンターズステークスを制してみせた。

　「レースは牧場で見ていたのですが、ゴールの瞬間は泣きそうになりました」と、その時の感動を振り返るのは、社台ファーム事務局の長濱卓也さんである。
　桜花賞で７着に敗れた後、アストンマーチャンは短距離路線へ戦いの場を定め、オークスを目指す他の３歳牝馬たちよりも先に社台ファームへと調整に戻ってきていた。
　石坂調教師は忙しい中を縫って、幾度と無く牧場へと足を運び調整状態を確かめる中、長濱さんや牧場スタッフたちは滞りなくスケジュールを消化し、無事に厩舎へ送り出してみせた。
　「調教状態も良かったみたいですし、鞍上の中舘さんもアストンマーチャンには手が合うのではと思って見ていました。それでもあの不良馬場で、一流の古馬たちを相手に実に強いレースを見せてくれました。石坂調教師や厩舎スタッフの皆さんに感謝するとと共に、戸佐オーナーにも喜んでいただけたことが、アストンマーチャンを送り出した生産牧場として、とても嬉しいことです」と長濱さん。
　実は長濱さんは２歳の早い時期からアストンマーチャンの将来性に期待をしており、レースも度々見に行ったことがあるという。そこまで思いを寄せていた馬だからこそ、レースの瞬間に泣きそうになるほどの感動を覚えたのだろう。
　
　これで混合Ｇ１を３勝と、今年の３歳牝馬のレベルが著しく高いのは周知の事実。その中でも古馬を制して芝短距離界の頂点に立った感のあるアストンマーチャンは、「スーパーカー」ならぬ「スーパーホース」として君臨していくことになりそうだ。