新和牧場事務所を埋め尽くさんばかりに送られた、関係者からのお祝いの花。「ＧⅠ勝ちでもないのにこんなに祝ってもらえるなんて…」と話しながらも、谷岡毅社長は満面の笑みを浮かべた。
　サクラメガワンダーの母であるサクラメガは、兄弟にサクラチトセオーやサクラキャンドルの名前も見つけられる、新和牧場を代表する基礎牝系、サクラクレアーを母に持つ。
　トップサイアーのサンデーサイレンスを配合されたサクラメガは、牧場の期待を一身に集めて産まれてきたが、競走馬としてデビューすることは叶わなかった。だが、生まれ故郷の新和牧場で繁殖入りを果たし、初年度にグラスワンダーを配合。小さく出ると言われる初仔にも関わらず、サクラメガワンダーは実に立派な馬体をして産まれてきた。
　このまま成長してくれれば…と谷岡氏を始めとする牧場スタッフの誰もが思う中、思っても見なかったことが起こる。母となったサクラメガはあまりにも子供を可愛がりすぎるばかりに、常にサクラメガワンダーを側に置きたがるようになってしまったのだ。
　人を寄せ付けないだけでなく、放牧地でも幼いサクラメガワンダーを連れて走り回るその姿に、谷岡氏は気が気ではなかったという。だが、この時に鍛えられたことが後で功を奏したのだろうか？
　育成に入ったサクラメガワンダーは、目立った故障もなく順調に調教を積み、騎乗者の評判も集めるようになっていた。
「数々の名馬を輩出しているラジオたんぱ賞だけに、出られるだけでも嬉しかった」と谷岡氏は笑うが、来年のクラシック候補生を退けての勝利。しかも直線でムチを使わずに伸びてきた走りは、まだ体力面に余裕があるだけでなく、距離が伸びても大丈夫なことを証明した。「賞金面でクラシックへの出走が叶ったことが嬉しかったですね。本番に向けてこれからまだ強い馬が出てくると思いますが、この馬自身もまだ成長を遂げています。無事にクラシックの舞台に立って欲しいです」「まだ、この馬に関して話すことは山ほどあるんですよ」と谷岡氏は笑う。だが、これから話すことが無くなるほどの活躍を、サクラメガワンダーはしてくれそうな気がしてならない。阪神競馬場で行われた第22回ラジオたんぱ杯2歳Ｓ（ＧIII）は、安藤勝己騎乗のサクラメガワンダー（父グラスワンダー、母サクラメガ、母父サンデーサイレンス）が１番人気アドマイヤムーンとの接戦を制し、3連勝で重賞初制覇を飾った。