馬産地ニュース

独国獣医師による講習会が開催される

  • 2025年12月08日
  • 約40人の獣医師が出席した講習会
    約40人の獣医師が出席した講習会
  • ドイツから招かれた講師のザーラ・ジーラフ氏
    ドイツから招かれた講師のザーラ・ジーラフ氏
  • 画像診断の第一人者として知られる講師の山田一孝氏
    画像診断の第一人者として知られる講師の山田一孝氏

 12月6日、新ひだか町静内田原にある公益社団法人日本軽種馬協会静内種馬場研修寮2階講義室において、独国獣医師による講習会が開催された。

 この講習会はNAR地方競馬全国協会の補助を受けて実施している軽種馬経営高度化指導研修事業の一環。獣医師を対象にした講習会で、生産地における獣医療の高度化と国内外の最新知見の共有を目的としているという。

 講習会の演題は「競走馬診療における骨シンチグラフィ~日本での導入から臨床応用まで~」。講師はドイツ・バルクテハイデ病院獣医師のザーラ・ジーラフ氏、麻布大学獣医学部獣医学科産業動物内科学研究室教授の山田一孝氏、JRA日本中央競馬会競走馬総合研究所臨床医学研究室の野村基惟氏の3人が務めた。

 講習会には日高や胆振から約40人の獣医師が出席。主催者を代表して公益社団法人日本軽種馬協会静内種馬場場長の遊佐繁基氏は「本日はご多忙のところ、多くのみなさまにご参加いただきまして、まことにありがとうございます。今回のテーマは、競走馬診療における骨シンチグラフィ、日本での導入から臨床応用まで、です。骨シンチグラフィは2025年、日本で初めてJRA美浦トレーニングセンターに導入され、大きな注目を集めております。本日は、日本国内での導入・普及を牽引してこられた先生方に加え、ドイツの二次診療施設にて高度画像診断の最前線を担っておられる獣医師をお迎えし、日本と海外双方の視点から、臨床応用の現状とその可能性についてご講演いただきます。本日の講習会が、みなさまの日々の診療における判断力の向上、そして馬医療全体の発展に寄与する機会となれば幸いです」とあいさつした。

 「馬を対象とした骨シンチグラフィ導入までの歩み」をテーマに講演した山田一孝氏は、画像診断に加え、獣医療におけるRI利用推進を長年にわたって第一線で牽引し、これまでに多くの研究成果の公表や、精力的な情報発信に尽力。日本アイソトープ協会における協議委員等を歴任するとともに、現在は農林水産省獣医事審議会委員、日本獣医画像診断学会理事、日本ウマ科学会評議員を務め、学術・行政の両面から日本の獣医学の発展に寄与している。講演のなかで山田一孝氏は、骨シンチグラフィとは、放射線防護、法令改正、水溶性敷料開発、今後の展望について言及した。

 「JRAトレーニング・センターにおける骨シンチグラフィ導入と臨床的意義」をテーマに講演した野村基惟氏は、2012年に北海道大学を卒業後、JRA入会。これまで栗東トレーニングセンター競走馬診療所、競馬学校競走馬診療所、本部馬事部獣医課・アンチドーピング課を経験し、現在は競走馬総合研究所臨床医学研究室に勤務している。美浦トレーニングセンターにおけるシンチグラフィ検査の主軸メンバーでもある野村基惟氏は、JRAトレーニングセンターにおける画像診断、骨シンチグラフィの臨床的意義、骨シンチグラフィの検査運用について解説した。

 「馬の整形外科疾患に対する骨シンチグラフィと高度画像診断~ドイツのウマ臨床現場からの実践的知見~」をテーマに講演したザーラ・ジーラフ氏は、2008年から2014年までドイツ・バルクテハイデ病院のテクニシャンとして勤務した後、ベルリン自由大学で獣医学を専攻し、2020年に卒業。大学ではウマの骨シンチグラフィで使用される2種類の骨親和性物質を比較する研究に従事し、学術論文も執筆した。

 所属するバルクテハイデ病院は、ハンブルク近郊に1993年に設立。ドイツ北部の主要なウマの2次診療施設として、国内外から症例が集まり、骨シンチグラフィ検査や立位MRI検査やCT検査といった高度画像診断機器による画像診断を用いた診療を行っている。とくに骨シンチグラフィ検査については、馬用ガンマカメラ開発に携わり30年来の検査実績があり、現在も年間400頭近くの検査を実施。ザーラ・ジーラフ氏は、その中心として活躍しており、2次診療施設の画像診断について豊富な経験をもつほか、ブラジルのウマ診療施設にガンマカメラを導入する際には、現地での立ち上げに携わってサポートした経験があるという。

 講演では、頸椎疾患、胸椎関節症、繋靭帯炎などの症例を示し、シンチグラフィを活用することで、正確な診断と効果的な治療が可能になるとした。