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重賞ウイナーレポート特別編~ジャスタウェイ・ドバイデューティフリー(G1)

  • 2014年05月07日
  • 早来ファームのみなさん
    早来ファームのみなさん
  • 広い放牧地で1歳馬は鍛えられる
    広い放牧地で1歳馬は鍛えられる
  • 手入れの行き届いた厩舎
    手入れの行き届いた厩舎
  • 牧場事務所
    牧場事務所

 「中期育成」という言葉をご存知だろうか。

 繁殖牝馬をけい養し、競走馬を産む「生産牧場」でもなければ、トレセン顔負けの調教コースで馬を調教する「育成牧場」でもない。しかし、競走馬にとっては離乳してから育成牧場に移動するまでの大切な時間を過ごす場所だ。競走馬は、この時期に心身ともに大きく成長し、強い調教に耐えられるような健やかな精神と体力を備えることになる。中期育成は、生産牧場が兼務する場合も多いが、近年では改めてその重要性が見直されている。

 2014年3月29日、アラブ首長国連邦のメイダン競馬場で行われたドバイデューティフリー(G1)は、日本のジャスタウェイが後続に6馬身4分の1という圧倒的大差をつけて優勝した。そのジャスタウェイが離乳から後期育成に移動するまでの長い時間を過ごしたのが北海道勇払郡安平町にある早来ファームだ。生産した白老ファームと同様に手塩にかけて育てた馬の快勝に沸いている。

 「調子は良いと聞いていましたし、ここは狙っていたレース。きっと良い競馬をしてくれると信じていましたが、レースは日本時間でいうところの午前2時前の発走。普段牧場で働いているぼくたちにとっては一番厳しい時間でした」と、少し照れたように頭をかいたのは早来ファームで育成主任を務める清水大さん。「もう少し遅い時間でしたら、起きてリアルタイムで観戦することもできたのですが」と言いながらも「(レースの結果を知っていたから)安心してレースを見ることができました」と愛馬の快挙を嬉しそうに語ってくれた。

 牧場時代のジャスタウェイは「多くのハーツクライ産駒がそうであるように、この馬もトニービンの特徴がよく表現された馬でした。独特の柔らかさがあって、いかにも伸びしろのありそうな雰囲気がありました」。

 ただし、その言葉は裏を返せばやや晩成型という意味でもある。そこに苦悩があった。「サラブレッドは工業製品とは違いますので、いくら私たちが焦ってもつくることはできません。自分たちができることは、その馬が健やかな成長をしてくれることをサポートすることだけです」と言い、「この中期育成というポジションは、巣立つときがゴールではないと考えています。正しい方向へ頭を向けておくことがもっとも大切なことで、育成牧場で調教をスタートさせたときにいかに多くのエネルギーを蓄えて送り出すことを心がけています」と言葉を続けてくれた。

 そして、セレクトセールで現在の馬主さんと巡り会ったジャスタウェイは、清水さんたちの思惑通りに夏から秋にかけてぐいぐい成長し、たっぷりとエネルギーを蓄えたまま育成牧場に送り出すことができた。

 「3歳春のアーリントンカップ(G3)に勝っているくらいですから、完全な晩成型ではないと思っていますが、この馬の持っている成長力には改めて驚かされます。自分たちが携わった馬が、世界一の評価をいただいたことは誇りに思いますし、自信になります。この評価に負けないように、これからも頑張ってほしい」と願っている。