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重賞ウイナーレポート特別編~アドマイヤマーズ・香港マイル(G1)

  • 2020年01月07日
  • パドックを周回するアドマイヤマーズ(ノーザンファーム空港 友道優一氏提供)
    パドックを周回するアドマイヤマーズ(ノーザンファーム空港 友道優一氏提供)
  • レース後のアドマイヤマーズ(ノーザンファーム空港 高見優也調教主任提供)
    レース後のアドマイヤマーズ(ノーザンファーム空港 高見優也調教主任提供)
  • 関係者もアドマイヤマーズの周りに集まって、喜びを分かち合った(ノーザンファーム空港 高見優也調教主任提供)
    関係者もアドマイヤマーズの周りに集まって、喜びを分かち合った(ノーザンファーム空港 高見優也調教主任提供)

 29回に渡る香港マイル(G1)の歴史において、初めて3歳馬による優勝を果たしたアドマイヤマーズ。育成を手がけたノーザンファーム空港の高見優也調教主任は、この快挙を興奮に包まれるシャティン競馬場で見ていた。

 「香港遠征の話があった夏頃から応援に行こうと決めていました。そのうち、牧場でアドマイヤマーズの蹄鉄を打ってくれていた装蹄師(ネイシー・ケリー氏)と、育成厩舎のスタッフで、友道調教師の息子さんでもある優一君も加わってきて、3人で香港に行くことになりました」(高見調教主任)

 国内ではG1レースの応援に出かけることはほとんどなく、海外G1でもオルフェーヴルの出走した凱旋門賞(G1)しか無かったという高見調教主任であるが、この日は現地まで応援に来て良かったと思えるような結果となった。この日、シャティン競馬場で行われた4つの国際G1レースの最初に行われた香港ヴァーズ(G1)において、育成馬であるグローリーヴェイズ(レイクヴィラファーム生産)が優勝。グローリーヴェイズもアドマイヤマーズと同様に、ケリー氏が装蹄を行ってきた馬でもあった。

 「グローリーヴェイズは勝てそうで勝てないレースが続いてきただけに、海外でのG1制覇を、目の前で果たしてくれたことは驚きでもあり、そして、嬉しかったです。この勝利を見て、アドマイヤマーズへの期待も膨らんできました」(高見調教主任)

 前日に行われたスクーリングにも同行したという高見調教主任であるが、パドックを周回するアドマイヤマーズは、その時と同じような落ち着きを見せていた。

 「友道厩舎のスタッフの方からも『飼い食いもいいし、状態面の不安も無い」と聞いていました。スクーリングの時には、友道先生とスミヨン騎手とがレースプランを話し合っていましたが、ゲートが開くとその通りのポジションでレースを進めていてくれたので、あとはアドマイヤマーズが能力を出し切ってくれるのを信じるだけでした」(高見調教主任)

 人気を集めていたのは、昨年のこのレースの勝ち馬であり、この香港マイル(G1)を含めて、昨年から今年まで10連勝を果たしていたビューティージェネレーション。また、日本で春秋マイルG1制覇を果たしたインディチャンプに加え、ヴィクトリアマイル(G1)をレコードで制したノームコア、そして2017年のマイルCS(G1)の優勝馬ペルシアンナイトと、国内のマイルG1優勝馬も名を連ねるレベルの高いレースにおいて、アドマイヤマーズは先行争いをくり広げるビューティージェネレーションを前に置きながらレースを進めていく。

 最後の直線、先に抜け出したビューティージェネレーションの外に進路を取ったアドマイヤマーズは、残り一ハロンで一気に交わしさると、その外から脚を伸ばしてきたワイククとの一騎打ちになる。しかしながら、高見調教主任は抜け出した瞬間に勝利を確信していた。

 「アドマイヤマーズの最大の武器はその勝負根性だと思っていたので、他の馬に並びかけられても凌いでくれると思いました。でも、ゴール前では『どうにかしてくれ!』とも思っていました」(高見調教主任)

 スクーリングを行ったレース前日には、もう一つのエピソードがあった。

 香港でG1を勝ちたいと常々話していたものの、11月17日に亡くなった近藤利一オーナーが、生前に足繁く通っていたホテルのレストランに、高見調教主任を含めた関係者は足を運ぶ。そこで近藤オーナーが好んでいたメニューを頼み、故人を偲んだだけでなく、改めて勝利が最高の弔いになると誓い合った。

 「ゴールの瞬間、近藤会長がここまで感動を取っておいてくれたのかなとも思いました。そう思うとアドマイヤマーズとスミヨン騎手をゴールまで導いてくれたのは、近藤会長だったのかも知れません」(高見調教主任)

 友道調教師からはレース後に、「日本に帰ってから近藤オーナーに良い報告ができます」とのコメントも聞かれていたが、きっとこの勝利だけでなく、関係者の笑顔や喜びの涙までも、近藤オーナーは天国から見守っていたに違いない。