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追悼~スリープレスナイト

  • 2012年02月06日

 眠れぬ夜を、いくつ重ねたことだろう。馬も、人も。

 結果から言えば1200メートル戦で芝ダートを問わずに12戦9勝2着3回。スリープレスナイトは疑いようのないスプリントのスペシャリストだった。しかし、芝1400メートルのデビュー戦から、そこにたどり着くまでは簡便な道のりではなかった。

 仕上りが遅れ、デビューは3歳の1月。桜花賞出走を目指したこともあるが、2勝目はオークスの前週に組まれたダート1200メートル戦だった。その頃はゲート難にも悩まされた。目標とするレースを除外されたこともあるし、選出されなかったこともある。さらには馬インフルエンザの発生により移動制限もかけられた。距離延長の壁には何度も跳ね返された。それでも、果敢に挑戦し続けた。

 「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」。きっかけは得意なダートを捨てて、もっと得意な距離を選択したことだった。

 一方、デビューした年に重賞の京王杯オータムH(G3)含む40勝をあげて最優秀新人騎手に選ばれた上村洋行騎手もまた、伸び悩む時期があった。わずか3年で143勝を記録。4年目にはフェアプレー賞も受賞した将来有望な騎手だった。更なる高所を目指し海外で経験を積み、帰国後すぐにサイレンススズカとめぐり合った。順風満帆だったはずの騎手生活に陰りが見え始めたのは、この頃だ。勝てない日々が続き、原因不明の目の難病にも悩まされた。

 焦り、不安、そして思うように運べない苛立ち。失いかけていた自信を取り戻すのは勝利しかない。大きなリスクを承知で、手術を受けることを決意した。

 共通しているのは馬も、人もより高いレベルを目指すためにリスクを承知で、道なき道を選んだということだった。

 そんな馬と人が出会うきっかけとなったのはスリープレスナイトを初勝利に導いた安藤勝己騎手が東京競馬場でG1レースに騎乗するためだった。まるで互いが引き寄せ合うように出会い、そして互いに自信を取り戻させるように勝利を積み重ねた。

 自信を取り戻した馬と人は連勝街道を走って重賞3連勝含む5連勝を記録する。第42回スプリンターズS(G1)。春のスプリント決定戦「高松宮記念」の1~3着馬(ファイングレイン、キンシャサノキセキ、スズカフェニックス)とスリープレスナイトと同じように芝1200メートル戦を舞台に勝ち上がってきったビービーガルダンらを相手に堂々の1番人気に支持されて、圧勝した。

 上村騎手にとってはデビュー以来17年目。40戦目のG1初勝利だった。

 いつの場合も、名馬の訃報は突然だ。現役引退から2年と5か月。スリープレスナイトは2012年2月2日にけい養先のノーザンファームで右橈骨を骨折したことにより死亡した。残された産駒は2頭。彼らの活躍を祈らずにはいられない。