馬産地ニュース

JRA日高育成牧場で子馬が誕生

  • 2010年03月09日
  • 4日前に生まれた仔馬
    4日前に生まれた仔馬
  • 授乳に難を持つ母馬をテーマに研究も実施
    授乳に難を持つ母馬をテーマに研究も実施
  • 分娩厩舎のモニターを監視する頃末専門役
    分娩厩舎のモニターを監視する頃末専門役
  • 分娩日時の予測に効果を得ている糖度計とpH試験紙
    分娩日時の予測に効果を得ている糖度計とpH試験紙
 JRA日高育成牧場では、子馬が誕生している。今年も2月末から出産が始まり6頭の子馬が生まれる予定だ。昨年誕生した1歳馬が7頭いて、同牧場にて誕生した馬達は、初期、中期、後期育成を経て、2歳の春にJRAブリーズアップセールで売却されると競走馬として巣立つ予定。生産から競走馬まで一環となった「強い馬づくり」に基づく研究成果への期待は大きい。

 同牧場では、これまで「強い馬づくり」を目的とした育成技術研究を進めており、一方では充実した育成施設を民間に開放して馬産界の馬づくりに大きな貢献を果たしてきた。また、この強い馬づくりの根幹となる生産についても研究馬を飼養して研究を始めてきたが、3年前より11頭の繁殖牝馬を登録して“競走馬として走ること”を前提とした本格的な生産と育成に関する研究を進めている。

 この生産に関しては、近年「出産前後の繁殖牝馬への栄養学」など臨床研究も進んでいるが、未だに生産者個々の経験による伝承技術のウエイトが重いのも実情。同牧場では、世界に先駆けて3Dエコー撮影による胎児の発育・発達様式の観察や子馬の肢勢調査に取り組み、腱や咽喉の形成研究にはさらに多角度の検査を取り入れている。競走馬の命取りになる屈腱炎や咽喉鳴、関節異常、クラブフットなどの予防、早期矯正への可能性が広がり生産者のリスク回避に大きな期待が掛かっている。

 また、出産時期の母親の乳のpH値、Brix値(糖度)の変化からは出産時刻の予測を既に1~2日の誤差範囲までに捉えており、この成果からも分娩時期には予定日の1~2週間も前から徹夜で監視してきた生産者の負担も軽減出来そうだ。

 同牧場の朝井洋場長は「これまでと同様に研究成果は研修会などで発表していきますが、生産者の方には、何時でも良いですから研究状況を見に来ていただきたい。」と生産者と向き合った研究推進への意欲が伺われる。6~7頭ほどのわずかなシェアながら競走馬として送り込む事に、厳しい状況の生産者のことを気遣ってきた朝井場長だが、研究テーマによってはサンプリング数が少ないことも事実。しかし、最近は研究に期待を寄せる地元生産者からもデータ収集の協力が増えてきたと言う。

 研究の現場を案内して頂いた研究主任の頃末憲治専門役は、最後に「以前は栗東トレセンの競走馬診療所に勤務していて、生産者が大変な事は理解していたつもりなのですが、今回、競走馬として送り込むことを前提とした生産に携わってきて、生産者のリスクの大きさとか様々な苦労の大きさを改めて実感しています。小規模の生産者の方にも少ない費用で生産技術を向上できるような研究成果を提供したいです。」と真剣な面持ちで語っていた。

 この子馬たちは、順調に行けば来年の春以降に競走馬として中央デビューする予定で、出走馬リストの生産者欄に「日本中央競馬会」と記載される。暖かい目で応援してほしい。
取材班