Ｖｏｌ．１２　坂田　博昭～北海道市場の鑑定人席から

　８月１８日（月）から８月２２日（金）に開催される「北海道市場サマーセール」。国内の１歳馬のセールとしては最大規模を誇り、春から秋にかけて行われる競走馬セールの中で最大のヤマ場と言えるものです。
　２月に放映されたＴＶ番組「どうぶつ奇想天外」で、課業で生産した馬をセールに上場した静内農業高校の生徒たちが特集されました。その際、競走馬セールの雰囲気をわずかながらご覧になった方、興味を持たれた方もいらっしゃると思います。あのセールが行われていた場所が、北海道市場。そしてその北海道市場は、何を隠そう「競走馬のふるさと日高案内所」に隣接しており、セールの様子は一般の方々も見学可能なのです。ですから、案内所に牧場見学の情報収集を兼ねて立ち寄れば、併せてセールを見学することも出来るのです。

　セールは、バイヤーが馬を検分する「展示」と、実際に馬が取引される「セリ」の２つのステージに別れます。

　展示は各日午前中に実施。その日上場される馬が居並び、バイヤーたちが目当ての馬たちをジックリと検分します。
　見学にいらした方は、バイヤーがしているように馬の細かい部分を見るよりは、馬の血統を照らし合わせながら少し遠目に仔馬を見るといいでしょう。その馬の父馬や母馬の姿をその仔馬と重ね合わせて見れば、その馬がどんな走りをしてくれそうなのか、思い描くことが出来るかも知れません。
　実際、「ほう、これはそっくり！」といった姿格好をしている仔馬に出会うことがあります。そんな風に親と仔のイメージが繋がったとき、サラブレッドの神秘と競馬の面白さというものを、改めて感じて頂くことがことが出来ると思います。

　展示の最中は、馬だけではなく馬を曳いている人間の方にも是非注目して下さい。
　大勢の人が行き来するセール会場。何かと落ち着きを失いがちな仔馬と上手にコミュニケーションを取りながら、上場される馬をその場に綺麗に立たせること。そして馬を細かく検分するバイヤーの目に「よりよく」見せること。ただ馬のそばに立っているように見えて、実は曳き手の役割にはとても重要なものがあるのです。
　仔馬がしっかりと落ち着いて立っていれば、それは人と馬のコミュニケーションがよく取れている証拠。馬も人も「いい仕事してる」ということになりますね。

　セールの最大の見どころは、何と言っても午後に行われるセリの風景。

　馬が１頭ずつ登場し、セリにかけられる場所がセールリンク。上場馬がバイヤーの前に姿を現し、あとはもうバイヤー同士の真剣勝負です。上場馬が多くのバイヤーの眼鏡にかなえば次々と声がかかり、会場の空気も一転してヒートアップ。高まったムードの中で最後の決着がつくそのとき、ハンマーが落ちる乾いた音の響き。極限まで張り詰めた緊張感がフッと弛む瞬間でもあります。
　そんな息を飲むような緊張感の中、長く続いたセリが終われば、会場から拍手が起こることがあります。そんな拍手は、落札したバイヤーだけではなく、緊張感の中で最後まで戦ったその他のバイヤー、そしてそのように高い評価を受けた馬を上場した生産者・関係者にも向けられているのです。

　馬が無事に落札されたあと、その値段もさることながら、それとは別に注目して欲しいことがあります。それは、自ら手がけた馬が評価され、売れたことに対する関係者の方々の喜びの表情。
　セリの間中上場馬を御してきた曳き手と、セールリンクの外で待つ牧場スタッフが互いに成功を喜ぶ。喜びとともに湧き上がるのが、仕事を成し遂げたという安堵の気持ち。涙を浮かべてそんな気持ちを分かち合う姿を目にすることも、しばしばです。

　取引される金額だけではない、上場される仔馬に込められている人間の気持ちというものは本当に暖かく、ときには熱いものでもあります。そんな馬を取り巻く人間のドラマが、競走馬セールにはあるのです。

　仔馬たちの姿に透けて見える、そんな熱い人間ドラマを直接ご覧になりに、是非北海道市場にお越し下さい！

（今年２月に放映されたテレビ番組「どうぶつ奇想天外」で静内農業高校の生産馬が特集された際、その馬の上場シーンでオークショニアをしていたのが私です。）


※北海道市場の見学については競走馬のふるさと日高案内所で注意事項などを確認してください。（案内所）