ライターの馬産地紀行 Vol.10~河村清明
[ライターの馬産地紀行]
このコラムでは、取材で来たライターの方に、その時の馬産地を、その鋭い視点から感じ取った“もの”を書き下して頂きました
Vol.10 河村 清明~「牧場ツアーの楽しみ」
朝4時、寝たのか寝てないのかわからないうちに起床。始発電車で新宿を目指す。
羽田空港、新千歳空港を経て、牧場には昼前に到着した。用意された弁当を食べ終わると、さっそく1歳募集馬の展示が始まる――。
年間、少なくとも10回は馬産地へと足を運ぶが、6月だけは特別な気分に包まれる。いつもの「自由気ままな取材旅」とは違って、この1泊2日は「牧場見学ツアー」に参加しての行動になるからだ。
一口馬主として、僕は今、ラフィアン・ターフマンクラブとサラブレッドクラブ・セゾンに入会している。
それぞれのクラブと提携するビッグレッドファーム(BRF)、コスモヴューファーム(CVF)が、今年は合同でツアーを企画したため、両方の募集馬が一度に見られることになった。
ありがたい。
ただ、そのぶんスケジュールは大変である。
CVFでセゾンの募集馬25頭を見るやいなや、休む間もなくBRFへと移動する。今度はラフィアンの募集馬55頭に熱い視線を注ぐ。馬のことがわかるわけではないが、それでも納得して出資したいから、あるだけの集中力を発揮する。当然、展示の終わる夕方にはグッタリと疲れを感じる。
だが、ツアーの企画はそれだけに終わらない。夜は歓迎パーティーが催され、牧場スタッフや他の会員さんと楽しい時間を過ごすことができる。
「あの馬、どう思う?」
「オレは好きなタイプじゃないなァ」
「なら、どれに目つけてんの?」
そうした他愛もない会話が、実に心地いい。
パーティーのあとは当然のように、気のあったメンバーと2次会に流れることになる。
翌日もスケジュールはビッシリだ。
さらに募集馬を見たり、種牡馬を見たりするうち、気がつけば午後4時の出発時間が迫っている。
この瞬間がひどく悲しい。
1泊2日の日程ゆえ、どうしようもないのだが、滞在をとても短く感じてしまうのだ。もちろんその気持ちは、ツアーが充実しているからこそ湧いてくるものだろう。
バスが出発すると、その窓から、誰もが名残惜しそうに放牧地を見つめる。そして馬産地の牧場風景を離れると、今度はいっせいに募集馬パンフレットへと視線を落とす。
いよいよ出資馬を決めなければいけない。本当の戦いはここに始まるのだ。そう、ツアーは終わりを迎えても、この瞬間が、また別の楽しみの始まりでもある。
誰かが言った、牧場ツアーは「馬好きの修学旅行」なのだと。
その通りだと思う。
この僕が典型だが、いい年こいたオッサンが、顔を輝かせて募集馬を見つめる。さらに馬の鼻面を撫で、写真を撮る。夜は友と語り合う。そして帰るのを寂しがる。まさにこのすべてが「修学旅行の光景」ではないか。
募集馬パンフレットは、さしずめ旅のしおりだろう。ツアーの途中で加えた書き込みも、やがて貴重な思い出の一つに変わる。
取材・執筆に明け暮れる僕の日常の中にあって、6月の牧場ツアーは「貴重なアクセント」と言っていい。毎年のことだが、この2日間だけは、ただの馬好きに立ち返った自分を発見できるのが心から嬉しい。
このコラムでは、取材で来たライターの方に、その時の馬産地を、その鋭い視点から感じ取った“もの”を書き下して頂きました
Vol.10 河村 清明~「牧場ツアーの楽しみ」
朝4時、寝たのか寝てないのかわからないうちに起床。始発電車で新宿を目指す。
羽田空港、新千歳空港を経て、牧場には昼前に到着した。用意された弁当を食べ終わると、さっそく1歳募集馬の展示が始まる――。
年間、少なくとも10回は馬産地へと足を運ぶが、6月だけは特別な気分に包まれる。いつもの「自由気ままな取材旅」とは違って、この1泊2日は「牧場見学ツアー」に参加しての行動になるからだ。
一口馬主として、僕は今、ラフィアン・ターフマンクラブとサラブレッドクラブ・セゾンに入会している。
それぞれのクラブと提携するビッグレッドファーム(BRF)、コスモヴューファーム(CVF)が、今年は合同でツアーを企画したため、両方の募集馬が一度に見られることになった。
ありがたい。
ただ、そのぶんスケジュールは大変である。
CVFでセゾンの募集馬25頭を見るやいなや、休む間もなくBRFへと移動する。今度はラフィアンの募集馬55頭に熱い視線を注ぐ。馬のことがわかるわけではないが、それでも納得して出資したいから、あるだけの集中力を発揮する。当然、展示の終わる夕方にはグッタリと疲れを感じる。
だが、ツアーの企画はそれだけに終わらない。夜は歓迎パーティーが催され、牧場スタッフや他の会員さんと楽しい時間を過ごすことができる。
「あの馬、どう思う?」
「オレは好きなタイプじゃないなァ」
「なら、どれに目つけてんの?」
そうした他愛もない会話が、実に心地いい。
パーティーのあとは当然のように、気のあったメンバーと2次会に流れることになる。
翌日もスケジュールはビッシリだ。
さらに募集馬を見たり、種牡馬を見たりするうち、気がつけば午後4時の出発時間が迫っている。
この瞬間がひどく悲しい。
1泊2日の日程ゆえ、どうしようもないのだが、滞在をとても短く感じてしまうのだ。もちろんその気持ちは、ツアーが充実しているからこそ湧いてくるものだろう。
バスが出発すると、その窓から、誰もが名残惜しそうに放牧地を見つめる。そして馬産地の牧場風景を離れると、今度はいっせいに募集馬パンフレットへと視線を落とす。
いよいよ出資馬を決めなければいけない。本当の戦いはここに始まるのだ。そう、ツアーは終わりを迎えても、この瞬間が、また別の楽しみの始まりでもある。
誰かが言った、牧場ツアーは「馬好きの修学旅行」なのだと。
その通りだと思う。
この僕が典型だが、いい年こいたオッサンが、顔を輝かせて募集馬を見つめる。さらに馬の鼻面を撫で、写真を撮る。夜は友と語り合う。そして帰るのを寂しがる。まさにこのすべてが「修学旅行の光景」ではないか。
募集馬パンフレットは、さしずめ旅のしおりだろう。ツアーの途中で加えた書き込みも、やがて貴重な思い出の一つに変わる。
取材・執筆に明け暮れる僕の日常の中にあって、6月の牧場ツアーは「貴重なアクセント」と言っていい。毎年のことだが、この2日間だけは、ただの馬好きに立ち返った自分を発見できるのが心から嬉しい。