サトノアラジンを訪ねて~ブリーダーズ・スタリオン・ステーション
2024年の12月24日。クリスマスイブの午前、ニュージーランドのリッチヒルスタッドにシャトル供用されていたサトノアラジンが、輸入検疫を終えて日高町のブリーダーズ・スタリオン・ステーションに帰ってきた。
「ちょっとしたクリスマスプレゼントですね」と村尾主任。やや興奮気味に馬運車から降りた同馬の状態を確認すると「旅慣れている馬ですから、あまり心配はしていません。今日1日だけは注意深く観察しますが、明日からは普通に放牧できると思います」。そんな会話から1か月と少々。
すっかりと現在の環境に慣れ、いつもの放牧地に、いつもどおりの穏やかなサトノアラジンがいた。
「いつもと違うサトノアラジンだったのは移動してきた当日だけでした。環境の変化というよりも、気温の変化に驚いていたのだと思います。順応性の高い馬ですから、翌日には北半球の環境に慣れていました」
さすが供用7シーズン中6シーズンを南半球で過ごしているシャトル種牡馬。日本でも初年度産駒から4頭のJRAオープン馬を輩出し、昨年はニシノラヴァンダが函館2歳S(G3)で2着。芝で、ダートで確実にキャリアを積み重ねているが、産駒はそれ以上に南半球で大ブレイク中。南半球における初年度産駒のグランドインパクト、セイクリッドサトノなどの活躍で注目を集め、同じく初年度産駒ペニーウェカがニュージーランドオークス(G1)、さらにATCオーストラリアンオークス(G1)を制覇。さらに2世代目産駒トウキョウタイクーンなどの活躍で2022/23年シーズンに2歳チャンピオンサイアーになるなど、これら産駒の活躍によって1万2,500ニュージーランドドルだった種付料が、その2年後には6万5,000ニュージーランドドルに高騰したことも話題にもなった。
「初めて見たのは社台スタリオンステーションでの展示会だったと思います。ボリュームのある筋肉質な馬体が、鋭い切れ味を武器に活躍した現役時代のイメージとまったく異なっていたのを覚えています」と同主任は初対面の印象を話してくれた。「でも、その時は自分たちが扱うことになるとは思わなかったです」と苦笑い。
目の前にいるサトノアラジンは第一印象どおりのしっかりした馬体はそのままに、例えば経験の浅いスタッフでも扱えるほど落ち着いた気性。ここでも現役時代の印象と大きく異なる実馬に驚かされたという。
「種付けに対する意欲が強いのは祖父であるサンデーサイレンスゆずりかもしれませんが、日本国内において芝コースよりもダートコースの方が、勝星が多いという事にも驚かされています。なんだか、この馬には騙されっぱなしですね」と言うものの、上級馬には芝向きスピードが多いのもまた事実だ。「産駒は父親ゆずりの馬格を受け継ぐものが多い印象ですから、この馬の現役時代を彷彿させるような切れ味豊かなスピード馬が出てくれればイメージも変わると思います。自分たちは、そういうチャンスを逃がさないようにしっかりと準備して繁殖牝馬を待っています」と8度目のシーズンを前にしたインタビューを締めくくってくれた。