馬産地コラム

リアルスティールを訪ねて~ブリーダーズ・スタリオン・ステーション

  • 2025年03月17日
  • 放牧地では豊富な運動量を誇る
    放牧地では豊富な運動量を誇る
  • 13歳、7年目のシーズンを迎えている
    13歳、7年目のシーズンを迎えている
  • ブリーダーズ・スタリオン・ステーションの中でも1,2を争う人気馬だという
    ブリーダーズ・スタリオン・ステーションの中でも1,2を争う人気馬だという
  • 見知らぬ侵入者をジロり
    見知らぬ侵入者をジロり
  • 世界を見てきた目。産駒は世界ナンバーワンを目指す
    世界を見てきた目。産駒は世界ナンバーワンを目指す

 種付シーズン。ここブリーダーズ・スタリオン・ステーションに限らず、種牡馬を繋養する牧場でピンと張りつめた空気を感じるのは冬の寒さだけが原因ではない。

 13歳、供用7年目。日高町のブリーダーズ・スタリオン・ステーションで2年目シーズンを迎えているリアルスティールは、種牡馬として心身が充実期に入ってきたと言う。ドバイターフ(G1)で世界にその名を刻み込んだ、期待の大きな良血種牡馬。その期待の大きさは初年度の配合牝馬リストからもうかがえたが、初年度産駒オールパルフェがデイリー杯2歳S(G2)に勝利したこと、同じく初年度産駒のレーベンスティールがセントライト記念(G2)、エプソムカップ(G3)、そしてオールカマー(G2)を制したことで確信に変わり、2年目産駒フォーエバーヤングのワールドワイドな活躍で、その確信が想像を超えた現実となった。

 そんな周囲の喧騒をよそに人馬の信頼を深めていくのもスタリオンスタッフの醍醐味かもしれない。

 撮影の前日。ちょうど気温が上昇し、雪が融けた放牧地でゴロゴロと寝転んでしまったため「撮影のため、一生懸命に汚れを落としました」と紹介してくれたのは、本馬を担当する村尾主任だ。そこにいるのは世界ナンバーワンの座を目指している馬を送り出した稀有な種牡馬ではなく、1頭のサラブレッドだった。季節柄、お湯はもちろん、水も使えない。体温で乾いた泥を丁寧にブラシで落としながら互いの理解を深めている。そんな村尾さんはリアルスティールを「凄く頭が良い馬です。賢いというか、わきまえている」と表現してくれた。

 この日、リアルスティールは放牧される前から、いつもと違う雰囲気を感じ取っていたという。

 「敏感な馬ですから、今日は放牧前から聞きなれない人の声や、見慣れぬ人に緊張していました」。サラブレッドは群れで生活する集団動物で、種牡馬は、いわばその群れの〝長〟。見知らぬ侵入者に対しては対峙しなければならない立場でもある。そのため体全体からピリピリとした緊張感を漂わせている。奥にいるフィエールマン、手前にいるダノンスマッシュにも反応し、自己アピールに余念がない。

 その一方で「取材には慣れている」という。カメラを向けると表情を作り、体全体がピリっとする。体を動かすのは好きなようで、放牧地でも良く動いている。そのため「撮影がしやすい」とカメラマンからは好評だ。

 種牡馬を扱うようになって四半世紀。これまで数々の名馬を扱ってきた経験から「リアルスティールはディープインパクト産駒ですけど、サンデーサイレンス産駒っぽい雰囲気を感じる馬です」とも表現してくれた。「ここにいる種牡馬は、自分たちにしてみれば、みんな平等です。でも、リアルスティールは、かつてステイゴールドを管理させていただいた時と同じ楽しさを与えてくれています。この馬の能力を引き出してくれた生産者、育成牧場そして厩舎関係者はじめ関わっているすべての方々のおかげ」と感謝の言葉を続けた。

 産駒の活躍により、これまで以上の人気が予想される7年目シーズン。「リアルスティールに限った話ではないですが、無事に、健康にシーズンを終えるまで」村尾主任と種牡馬たちにとって、緊張の日々が続いていく。