ピクシーナイトを訪ねて~ブリーダーズ・スタリオン・ステーション
540kgになろうとする巨体から繰り出されるスピードを武器に、2021年秋のスプリンターズS(G1)では、快足レシステンシア以下のスピード自慢古馬たちを一蹴。日本競馬史上初となる父仔4世代連続G1勝利を成し遂げたピクシーナイトは現在、日高町のブリーダーズ・スタリオン・ステーションで2年目の種牡馬シーズンを迎えている。
3歳馬によるスプリンターズS(G1)優勝は2007年のアストンマーチャン以来14年ぶり。3歳牡馬としては1998年マイネルラヴ以来23年ぶり。内国産の3歳牡馬としてはグレード制制定後、初の快挙となる偉業だったが、その年の暮れに遠征した香港スプリント(G1)で不運にも落馬事故に巻き込まれ、全治不明という大けがを負い、4歳シーズンは治療に専念。復帰したもののかつての勢いを取り戻すことが出来ずに現役を引退。産駒に夢を託すことになった。
「大きな事故を経験した馬だけに、ほかの馬に対する恐怖心があるのではないかと心配していた時期もありましたが、試験種付の時からまったくそんな素振りは見せませんでした。むしろ、仕事は意欲的にこなしてくれていますし、受胎率も上々。それでいて普段は扱い易くて、優等生。休養先のノーザンファーム、そして音無厩舎の方々がしっかりとケアをしてくれたおかげだと思います」というのは、同スタリオンステーションの村尾主任だ。
そして「(かつて繋養していた)グラスワンダーの血が、ブリーダーズ・スタリオン・ステーションに戻ってきてくれた。種牡馬事業に携わるものとして、こんなに嬉しいことはありません」と目を細めている。
現在、向かいの放牧地にはブラックタイドがいて、隣にはフォーウィールドライブとグレーターロンドンが。フォーウィールドライブはとても穏やかな馬で、隣の馬を威嚇することもなければ放牧地を走りまわることもほとんどないというが、ピクシーナイトは放牧時間のほとんどをグレーターロンドン側で過ごしている。「実はこれまで何度か放牧地を変えているのですが、どこの場所へ行っても、ただひたすら、黙々と草を食べています。これほど落ち着いている馬は珍しいと思います。朝、放牧地の真ん中で手綱を放しても、その場で草を食べ始める。そんなところもグラスワンダーそっくりで、どこか嬉しいです」と言う。実は、本馬の父モーリスも、放牧地では同タイプ。なかなか頭をあげてくれず、カメラマン泣かせの父仔なのだ。
現在、馬産地ではピクシーナイト2世たちが次々と産声をあげている。今年の種牡馬展示会では事務局から「素晴らしい産駒が生まれている」と紹介されたが、そうした放牧地での仕草を除けば、似たものタイプの産駒が少ないというのもグラスワンダー直系サイアーラインの特徴のひとつ。それが、サイアーラインを伸ばしている要因のひとつかもしれないが、ピクシーナイトがどんなタイプの競走馬を送り出してくれるか、それもまた楽しみのひとつだ。