馬産地コラム

スズカフェニックスを訪ねて~うらかわ優駿ビレッジAERU

  • 2024年12月20日
  • キリっとした表情には名馬の相が残っている
    キリっとした表情には名馬の相が残っている
  • オウケンブルースリ(右)とは良い関係を構築中だそう
    オウケンブルースリ(右)とは良い関係を構築中だそう
  • スズカフェニックス23歳の春
    スズカフェニックス23歳の春
  • 太田篤志さんとも長い付き合いとなった
    太田篤志さんとも長い付き合いとなった
  • 年齢を重ねても、いまだに子供っぽさを残しているそうだ
    年齢を重ねても、いまだに子供っぽさを残しているそうだ

 直線だけの美学とも言うべき直線一気の戦法を貫いたスズカフェニックスが、高松宮記念(G1)を制したのは2007年の事。しかし、その後は安田記念(G1)5着、スプリンターズS(G1)9着、マイルチャンピオンシップ(G1)3着。諸刃の剣ともいうべき、その戦い方は、鮮やかではある反面、時として前が開かなかったり、ペースが合わなかったりすると、思うような結果を残すことができなかったりする。そんな歯がゆさを吹き飛ばすような勝利を記録したのが同年12月の阪神C(Jpn2)。3歳馬ローレルゲレイロが淀みのないペースでレースを引っ張り、好位勢のスタミナを奪っていく。それまで朝日杯フューチュリティS(G1)、NHKマイルC(Jpn1)含めて重賞2着5回という〝最強の1勝馬〟ローレルゲレイロが、待ちに待った待望の2勝目をつかみかけた、その次の瞬間に大外から飛ぶが如くの末脚で、若き名スプリンター候補の夢を砕いたのがスズカフェニックスだった。

 現役引退後、2009年から北海道新ひだか町のアロースタッドで種牡馬入り。おじに英国ダービー馬ドクターデヴィアスがいるサンデーサイレンス直仔の良血馬。極上のスピードと瞬発力を兼ね備えているだけに期待が膨らんだが、思うような活躍馬に恵まれず8年で種牡馬生活にピリオドを打って、2016年から浦河町の『うらかわ優駿ビレッジ「AERU」』で功労馬としての生活をスタートさせている。

 「年が明ければ23歳。いつの間にか、最年長になってしまいました」と紹介してくれたのは太田篤志マネージャーだ。

 「年齢を重ねても、いまだに子供っぽいところがある、寂しがり屋さんです。タイムパラドックスが元気なときは、本当に良い関係を築いていたのですが、今はオウケンブルースリと同じ放牧地で、そのような関係を構築中です」とのこと。聞けば、どちらかといえばオウケンブルースリが兄貴分。どっしりと構えているオウケンブルースリのそばを、付かず離れずの距離で歩き回っているのがスズカフェニックスだという。

 「オウケンブルースリと言う馬は1頭だとあまり動かず、暇を持て余してしまうところがあるのです。逆にスズカフェニックスは1頭だと寂しがって、落ち着きがなくなってしまうことがある」という事から、同じ放牧地に放してみたところ2頭は、2頭の時間を楽しむようになったらしい。

 「と言っても、オウケンブルースリは多少の事では動じない図太さがありますので最初の頃は〝我関せず〟といったところだったのですが、スズカフェニックスと一緒になってからは、わずかながら運動量も増えてきた」とのこと。それぞれが、それぞれの距離感と関係性の中で良い関係性を築いているようで、撮影からしばらく経っての取材は「だいぶ、距離は縮まって来ています」と白い歯を見せてくれた。

 「食べる事が大好きで、そして寝るのが大好き」というスズカフェニックス。放牧地が青草で覆われているシーズンは放牧を何よりも楽しみにしているそうだが、冬シーズンは食べられるものが限られているので、食事の時間が終わると手持ち無沙汰になるそうで、早めに厩舎へもどすことがあるという。

 そんなスズカフェニックスにとって、オウケンブルースリは3頭のパートナー。最初はぶち模様の乗用馬だったそうで、2番目がタイムパラドックス。タイムパラドックスが亡くなったあとは、隣の放牧地にいるウイニングチケットと仲良く過ごしていたそうだが、その後は1頭に。そこへ、オウケンブルースリがやってきたという。

 「繊細なところがあるスズカフェニックスですから、同じような性格の馬ではなく、どちらかと言えばどっしり構えた馬の方が、相性良さそうです。ただ、歴代3頭のパートナーとの付き合い方を見ると、相手に関わり合い方を変える賢さも持っています」と感心しきり。現役時代は相手や道中のペースに合わせることがなかったスズカフェニックスとしては、やや意外とも思えるエピソードも披露してくれた。

 そんな太田篤志さんは「やはり現役時代、あるいは種牡馬時代のイメージをもって会いに来てくださる方が多いです。それは、仕方がないことだと思うのですが、AERUでのスズカフェニックスをゆっくりと見て、感じて欲しい。同じ放牧地にG1優勝馬が並んでいるというのもあまりないことだと思いますし、2頭が元気に、そして仲良くしているシーンを楽しんでください」と話してくれました。