馬産地コラム

ジョーカプチーノを訪ねて~ビッグレッドファーム

  • 2024年05月01日
  • 18歳とはいえ圧倒的な筋肉量は今も健在
    18歳とはいえ圧倒的な筋肉量は今も健在
  • ビッグレッドファームで9年目のシーズンを迎えている
    ビッグレッドファームで9年目のシーズンを迎えている
  • 気持ちは今も若々しさを保っている
    気持ちは今も若々しさを保っている
  • 藤岡康太騎手を背にG1タイトルに輝いた
    藤岡康太騎手を背にG1タイトルに輝いた
  • 放牧地では唯我独尊的雰囲気を漂わせている
    放牧地では唯我独尊的雰囲気を漂わせている

 2009年5月10日、東京競馬場。第14回NHKマイルC(G1)で藤岡康太騎手を背に、10番人気という低評価を覆して先頭ゴールインを果たしたのがジョーカプチーノだ。このレースでは後続を引き離して軽快に飛ばすゲットフルマークスを積極的に追いかけ、最後の直線でこれを交わすと、2着レッドスパーダに2馬身の差をつけてG1ウィナーの仲間入りを果たしている。

 あのレースから15年。ジョーカプチーノは現在新冠町のビッグレッドファームで9年目のシーズンを迎えようとしている。18歳となり、以前に比べれば放牧地での運動量は減ったものの筋肉量と存在感は今も健在。白い馬体が春の陽射しに美しく輝いている。

 「ジョーカプチーノが勝ったNHKマイルC(G1)は当牧場生産馬でアーリントンC(G3)2着マイネルエルフも出走(=4着)していましたし、逃げたゲットフルマークスはマイネルラヴ産駒の重賞勝ち馬(前年の京王杯2歳S(Jpn2))ですから、覚えています」と当時を懐かしむのは同ファームの蛯名聡ゼネラルマネージャーだ。その後、6歳まで現役を続けたジョーカプチーノは通算23戦6勝。3つの重賞タイトルを手土産に新冠町の優駿スタリオンステーションで種牡馬となったが、供用4年目シーズンを迎えようという直前、ビッグレッドファームへのトレードが発表された。

 「初年度産駒のマイネルバールマンが抜群の動きをしていたからというのが大きな理由だと思うのですが、現役種牡馬をシーズン途中でトレードするというのは初めての経験でしたので、正直いえばG1勝馬がラインナップに加わるというよりも、慌ただしい事務処理のイメージの方が強く印象に残る1頭でした」と頭をかいた。

 そのマイネルバールマンは陣営の期待どおりに2歳6月に新馬勝ち。父に嬉しい初勝利を届けることになり、同じく初年度産駒のジョーストリクトリは翌年のニュージーランドトロフィー(G2)に優勝。こうした産駒の活躍によって初年度からの3年間で58頭だった種付頭数は産駒活躍後の5年目シーズンには100頭を超える繁殖牝馬を集める人気種牡馬となった。

 「ジョーカプチーノは毛色も含めて、父マンハッタンカフェと似ているとは思いませんが、ジョーカプチーノの仔はジョーカプチーノに似ている馬が多く、そういう馬がスピードを武器に結果を残しています。そういった遺伝力の強さも魅力のひとつだと思います」

 そんなジョーカプチーノは「よく言えば自分自身を持っている馬。マイペースというか、思ったとおりに行動できないとイライラを募らせるタイプです。何しろパワーのある馬ですから、そういうときはスタッフの手を煩わせているようです」と、今も〝らしさ〟が健在であることを教えてくれ「これは個人的な思いなのですが」と前置きしたうえで「馬房に行ってもお尻を向けられますし、放牧地でも気が付けば遠くいます。あまり干渉されるのが好きではないようで、それは馬に対しても同じスタンスだと思っています。ほかの馬にちょっかい出すことはほとんどありませんし、隣の馬につられて走り出すなんてこともあまり記憶にありません」。そんなことも考慮されて、放牧地は向かいに24歳となったロージズインメイ、隣は16歳のダノンバラードがいる1番端の場所を与えられている。どちらも、ベテラン種牡馬なので穏やかな時を過ごしているようだ。

 「馬を愛する方々に囲まれて育ち、競走馬としても本当によく頑張ってくれた馬。間違いなく私たちの所有馬ではありますが、そういった方々の思いというものが詰まった馬ですので、どこかでお預かりしている馬、大切にしなければならない馬という感覚を持ち続けた馬でもありました。ここまで大きなケガや病気をすることなく長く種牡馬生活を送ってくれましたので、これからも無事に、長く元気でいてくれたらと思います」と温かい視線で見守られている。