ダノンスマッシュを訪ねて~ブリーダーズ・スタリオン・ステーション
2021年の第51回高松宮記念(G1)。昼過ぎから降り出した雨は、午後になると激しさを増し、雨中でのスピード王決定戦となったが、川田騎手に導かれたダノンスマッシュが、最後の直線で馬場の真ん中を突き抜けて先頭ゴールイン。その勝利は、高松宮記念(G1)史上2例目の父仔制覇として記録されることになった。
ほか、史上初の香港スプリント(G1)父仔制覇。そして、そうして国内外で積み上げたスプリント重賞タイトル「7」は、父ロードカナロアと肩を並べるタイ記録。国内スプリント重賞に限れば6勝というのは単独1位。そんな日本競馬史上有数のトップスプリンターのダノンスマッシュは、現在日高町のブリーダーズ・スタリオン・ステーションで供用3年目のシーズンを迎えている。
「現役生活を引退して、当スタリオンで種牡馬生活をスタートさせると聞いたときは嬉しかったですよ。すごい馬が来るんだなって。何しろ、日本産、日本調教馬で香港スプリント(G1)に勝ったのは、この馬と父ロードカナロアだけなのですから。関係した方々にお礼を言いたかったです」と話してくれたのは同スタリオンステーションの坂本教文場長だ。その期待通りに、供用初年度から146頭の繁殖牝馬を集め、2年目シーズンも128頭。種牡馬にとって鬼門ともされる3年目シーズンとなるこの春も、順調に種付けをこなしている。
「血統的に繁殖牝馬を選ばないですし、種付けも上手で、受胎率の良さも生産者の方々から褒めてもらえます。コロナ以降、なかなか牧場をまわって産駒を見に行くことはできないですが、種付けに来てくれる生産者の方が、生まれたばかりの仔馬を連れて来ることがあります。そうした産駒を見る限りにおいては申し分ない出来だと思っています。まずは、今年の1歳市場でどのような評価を受けるのかを楽しみにしてます」と白い歯を見せた。
現在は、かつてはアフリートが、そして昨年まではブラックタイドが放れていた放牧地に移動している。弥生3月とはいえ、北海道の春は遅い。まだ雪が残る放牧地で、馬服を着用することなく元気な姿をアピール。ピカピカに輝くビロードのような皮膚が体調の良さを物語っている。「ブラックタイドは年齢を重ねても元気いっぱいなのですが、周囲の馬を気にする性格なので、静かな放牧地に移動させました。ダノンスマッシュは、とても落ち着いていてマイペース。放牧地を適度に歩き回って、静かな日々を過ごしています」と新しい環境にもすぐになれたという。
その両サイドにはリアルスティール、そしてアルアイン。どちらも我が強いタイプらしいが、ダノンスマッシュの存在が2頭を落ち着かせる役割にもなっているという。
「言葉は悪いですが、無駄な挑発には乗ってこない賢さ、頭の良さを持っている馬です。この放牧地からは隣接する生産牧場の放牧地が見え隠れするのですが、あまり気にする様子もありません」とのこと。まったくの私見だが、競馬場で爆発的なスピードを見せる馬は競馬場のパドックでも、牧場の放牧地でも無駄な力を使わないような馬が多いように見える。ダノンスマッシュもそんなタイプのようだ。
「産駒に期待する声をたくさんいただいております。芝でも、ダートでも、この馬の産駒らしくスピードを武器に活躍してくれる馬が出てくれると嬉しいです」と、来年の産駒デビューを楽しみにしている。