タニノギムレットを訪ねて~ヴェルサイユリゾートファーム
競走馬として第69回東京優駿(日本ダービー(G1))に勝利し、種牡馬としては日本競馬史上初めて父娘ダービー制覇を成し遂げたタニノギムレットは、2020年の種付けを最後に種牡馬生活を引退。現在は日高町のヴェルサイユリゾートファームで余生を過ごしている。
広く知られているように緑内障を患った左目は視力をほぼ失っているようだが日常生活に支障はなく、まだ移動間もない頃は牧柵を壊してしまうことでも有名となったが、現在では静かな余生を送っている。
同ファームの白井健一さんは「実は、現役時代はタニノギムレットの大ファンだったんです」と同馬を前に声を弾ませている。千葉県の乗馬クラブで働いていた経験があり、1度は馬から離れたものの、再び馬のそばで仕事をしているホースマンだ。「3歳春はシンザン記念(G3)、アーリントンC(G3)、スプリングS(G2)と重賞3連勝。厳しいローテーションでしたが、NHKマイルカップ(G1)は自信の本命(結果は3着)でした」と懐かしそうに話し「20年前は、まさか一緒に仕事ができるとは思っていませんでしたが、実際に扱うタニノギムレットは人間の手を煩わせることなく従順な馬でした。それまでは、どこかいかついイメージがあったので、そのギャップもどこか嬉しかったです」と笑顔を広げている。
現在は朝7時ころから午後3時くらいまでが放牧時間。引退名馬たちは、これからの季節は昼夜放牧に切り替わるそうだが「年齢のこともありますので、日中放牧だけにするかもしれません」という。隣の放牧地に離れているローズキングダムとは大の仲良し。年齢はタニノギムレットの方が8歳ほど上ということもあるのか、先に放牧地に放されたローズキングダムはタニノギムレットが来るまでじっと待っているそうで、互いの姿を確認したのちにそれぞれが自由行動となるそうだが、放牧地についた足跡は互いの放牧地に近い1辺だけが荒れている。
「基本的にはサービス精神が旺盛な馬。ファンの方が自分の放牧地に来たら、寄っていくようなところがあります」。そんな神対応が功を奏しているのか「ファンの多さ、幅広さは繋養馬の中でも1、2を争う」と白井さんは言う。
「もちろん、ウマ娘の影響もあると思いますし、牧柵を壊してしまうようなキャラクターも人気。個性の強さでファンを広げてきた」と聞けば、どこかアイドルを想像してしまうが、それもまた令和時代、SNS世代のセカンドキャリアなのかもしれない。
25歳は、存命する日本ダービー馬の最高齢。「左目以外はいたって健康です。歯もしっかりしていますし、与えるエサも若い馬と一緒です。さすがに種牡馬を引退したばかりの頃に比べると筋肉が若干落ちてきたような気もしますが、ある意味それは当たり前の話。たまに脚に切り傷を作ってくるのも元気な証だと思っています」と頼もしそうです。
しかし、ファンが多いということは逆にトラブルの種も多いということ。「ほとんどの方はしっかりとマナーを守って見学いただいていますが、悪気はなくても決められたルールからはみ出てしまう方もいます。注意をされれば不愉快になる気持ちも分かりますが、すべては馬のためですのでご理解いただきたいと思います」と心苦しそうに話し「そして、それぞれの牧場にはそれぞれのルールがあります。ここではOKでも他場ではNGだということもあるでしょうし、その逆もあるかもしれません。遠くまで足を運んでくださるのですから、楽しい思い出を残してほしい。そのためにマナーをお守りください」と訴えている。
「タニノギムレットは、まだ現役産駒を多く残していますので、その子供たちを一緒に応援しましょう。競走馬として、種牡馬として本当に頑張ってくれた馬ですので、これからはのんびりと過ごしてほしいですし、1日でも長く、元気な姿をたくさんの人に見てほしい」と優しい眼差しを送っている。