オジュウチョウサンを訪ねて~ヴェルサイユリゾートファーム
大袈裟ではなく、日本の競馬を変えた馬だと思う。3歳秋に障害馬としてデビューし、11歳暮れの引退レースまで、途中、有馬記念(G1)含む3度の平地重賞にも出走しながらJRA賞最優秀障害馬のタイトルを3年連続含む計5回受賞。ほか、中山グランドジャンプ(JG1)5連覇含み障害G1は9勝。中山大障害(JG1)、中山グランドジャンプ(JG1)の両最高峰レースでレコードタイムを塗り替え、障害馬として稼ぎ出した賞金は9億1,460万6,000円。もちろん、歴代最高だ。
大逃げを打ったアップトゥデイトを力でねじ伏せた2017年中山大障害(JG1)、極悪の不良馬場でメイショウダッサイ以下を封じ込めた中山グランドジャンプ(JG1)等々。そのすべてが伝説だ。
そんなオジュウチョウサンは現在、日高町のヴェルサイユリゾートファームで種牡馬として2シーズン目を送っている。
「ステイゴールドの産駒ですから、もともとやんちゃな馬ではありますが、頭の良い馬でもあります」と紹介してくれたのは同ファームの白井健一さん。「手入れの際に暴れたり、手を煩わせたりすることはないのですが、とにかく、いたずらが大好き。いつでも何かを噛んでいたいみたいです」と苦笑い。スタッフの帽子やジャンパーなどがオジュウチョウサンの“口撃”にあうこともしばしばだそうだが、怒られると噛みたい気持ちをぐっと抑えて我慢しているそうだ。
現在は朝7時から午後3時くらいまでが放牧時間。放牧地を歩き回ったり、走り回ったりすることはほとんどないそうで、健康状態に不安もない。たまに擦り傷を作って帰ってくるくらいで獣医師いらずの生活を送っているという。そんな様子をカフェの窓から見ることができる。
種牡馬オジュウチョウサンは1頭放牧。人間でいえば「個室」が与えられているのだが、隣接する放牧地では引退名馬たちが集団放牧されている。そんな様子を羨ましそうにじっと見ていることが多いという。白井さんの言葉を借りれば「寂しがり屋さん」。そばに仲間がいることで安心するようだ。
長く競走生活を続けていたために高齢になってからの新しい環境を危惧する声もあったが「馬は、今の生活を楽しんでいるようです」とのこと。昨年は引退直後ということもあって観光シーズンには多くのファンが牧場に足を運んでオジュウチョウサンとの対面を楽しんだそうだ。そのピークは昨年のゴールデンウイークで、1日500人の来場があったそうだ。「(たくさんの方がお見えになることは)覚悟はしていましたが、想像を超えていました」と白井さん。「たくさんの人に囲まれてしまうことを馬がストレスに感じるかどうか注意深く見守っていましたが、あまり気にしていないようでした」。そんなところにも大物ぶりが垣間見える。
とはいえ、オジュウチョウサンは現役種牡馬だ。大切な役割も担っており、供用初年度となった昨年は8頭の繁殖牝馬がオジュウチョウサンと配合を行った。取材を行った3月上旬現在では「まだ生まれていない」とのことだが、もう間もなく、雪が解けるころには絶対王者2世たちが産声を上げてくれることだろう。オジュウチョウサン2世たちの活躍に期待したい。