馬産地コラム

テイエムオーシャンを訪ねて~川越ファーム

  • 2022年10月31日
  • 今でも気の強さは若いころを彷彿させるという
    今でも気の強さは若いころを彷彿させるという
  • 24歳とは思えぬほど若々しい
    24歳とは思えぬほど若々しい
  • 新しい相棒と仲難しく生活している
    新しい相棒と仲難しく生活している
  • 生まれ故郷に戻りのんびり生活している(右)
    生まれ故郷に戻りのんびり生活している(右)
  • 川越ファームでの生活も20年目を迎えようとしている
    川越ファームでの生活も20年目を迎えようとしている
  • 凛とした立ち姿にG1競走3勝馬の貫禄が漂う
    凛とした立ち姿にG1競走3勝馬の貫禄が漂う

 2022年10月29日、阪神競馬第5競走の2歳新馬戦に出走したヨリマル(牡、栗東・上村洋行厩舎)は2001年桜花賞(G1)などG1競走で3勝をあげたテイエムオーシャンのラストクロップだ。

 母を思わせるような額に伸びた細い流星。そして何よりも抜群のスタートセンスと先行力。手応え十分に4角を回る時は力が入ったが、内側にいた馬の外斜行によりバランスを崩し、ゴール前で力尽きてしまった。手綱を取ったジョッキーが振り返るほどのアクシデントだっただけに不運としか言いようがない。

 そんなヨリマルの母テイエムオーシャンは現在、生まれ故郷の川越ファームで功労馬として余生を過ごしている。24歳。さすがに若い時と比べると体の張りなどには年齢を感じさせるが、大きく体型が崩れたわけでもなく、またやせ細った感じはまったくない。

 「ヨリマルは22歳の時に産んだ産駒なのですが、受胎しているときに両前脚を痛めてしまったのです。診断の結果は屈腱炎でした」と少し照れたように話してくれたのは、川越ファームの川越祐樹代表。「子供を受胎した状態で走ったんだと思います。テイエムオーシャンらしいといえば、らしいのですが」。幸いなことに、出産後、すぐに症状は治まったのだが、年齢的なことも考慮され、繁殖牝馬生活からの引退を決めた。

 現在は、他の牧場からトレードされたばかりの11歳牝馬に川越ファームでの生活を教えている。

 「新しい相棒は地方競馬の重賞勝ち馬の母なのですが、今でも気の強さは負けていません。とくにクビが強く、グイグイと引っ張っていくような、そんな強さを持っています」と頼もしそう。

 そんな川越祐樹代表にとってテイエムオーシャンは人生で忘れられない馬だという。「まだ牧場を継ぐかどうか迷っていたときに、親と一緒に秋華賞(G1)を見に行きました。そのとき、テイエムオーシャンのおかげで本馬場での口取りに参加させてもらい、サラブレッドの生産って素晴らしい仕事なのだなと、強く印象に残ったことを覚えています」。

 だから、テイエムオーシャンの血を残していきたいと強く願っているのだが、テイエムオーシャンはその生涯で産んだ11頭の産駒のうち9頭が牡馬。初仔のテイエムユメノコはオーナーの牧場で繁殖牝馬となったために、トロンビーノ(5歳、父ロードカナロア)だけがその血を継ぐ存在だ。現在はサトノダイヤモンドの仔を受胎。来春の出産に備えているという。

 「自分たちのような家族労働の牧場は、家族労働だからこそ出来る事があると思うのです。出来ることを精一杯やって、オーナーに喜んでもらえるような馬、テイエムオーシャンのような強い馬を育てていきたい」と目を輝かせている。

 「ヨリマル、そして半兄のオーシャンズヨリもまだまだ元気に走ってくれると思いますし、トロンビーノを通じてテイエムオーシャンの血を広げていきたいと思っています。競馬場で見かけたら、ぜひ応援してください」というメッセージを預かった。