ハクサンムーンを訪ねて~レックススタッド
その戦法は潔いほどの徹底先行。
どんな相手でも、そして距離コースを問わずに先頭を走り続けた個性派の快足スプリンターとして活躍したハクサンムーンは、現在、新ひだか町のレックスタッドで供用6年目のシーズンを終えた。「気難しいイメージがあるのかもしれませんが、放牧地ではのんびり過ごすことが多いですし、洗い場での手入れや、厩舎の中で手がかかる馬ではありません。何よりも、受胎率は胸を張れるものがあります」と事務局のレックス。初年度産駒となる4歳世代はJRAで2頭が勝ち上がり、3歳世代も2頭が勝ち馬になっているが、そのすべては1200m以下というのもハクサンムーンらしいところだ。
「地方競馬も含めれば、現4歳世代の初年度産駒から現2歳の3世代産駒まで、出走した馬すべてが賞金を稼いでいます(22年9月7日現在)。その中には残念ながら未勝利で終わってしまった馬もいますが、すべての馬が最低1度は掲示板を経験しています。これは凄いことだと思います」と資料を片手に事務局スタッフが胸を張った。
スプリンターズS(G1)でコンマ1秒届かなかった相手はロードカナロアで、高松宮記念(G1)は日本調教馬最先着の2着。それでも記録の上では「G1未勝利」。大きなタイトルを持たないままのスタッドインゆえに種付けはオーナーを中心に決して多くはないが、産駒は中央、地方で活躍し、ハクサンムーンは、ハクサンムーンを信じる人の期待にこたえ続けている。
2013年9月8日に阪神競馬場で行われたセントウルS(G2)もそうだった。スタートダッシュはひと息だったが、外枠から強引にハナを奪うとレースを引っ張り続けた。2ハロン目からは10秒9、10秒9。圧倒的1番人気を背負っていたロードカナロアが残り200m付近で並びかけようとするが、ゆずらない。3着以下を離してのマッチレースが続けられたが、先頭でゴール板を駆け抜けたのはハクサンムーンの方だった。そして、この勝利で2013年サマースプリント王者のタイトルを手中にした。
あれから9年。種牡馬としての風格を身に着けたハクサンムーンがいる。
レックススタッドでは、種付シーズンが終わると朝5時半前後に放牧を開始、約2時間少々のちに馬房へと戻し、手入れなどを行い見学の開始時間に備える。
ハクサンムーンは放牧地へと導かれたのち、ひとしきりルーティーンのように動き回るが、気が済むとじっとたたずむことが多い。
「食欲は旺盛です。よく食べて、程よく動いて健康的な生活を送っていますよ」とスタッフの方が説明してくれたように体調はすこぶるよさそうだ。
隣の放牧地にいるタニノフランケルが若さゆえに放牧地を走り回っても、顔を上げてその様子を確認するだけで意に介さない様子で、先輩種牡馬としての威厳と落ち着きを感じる。
運命のいたずらに翻弄されるように手からこぼれたG1タイトル。競馬に「たら」「れば」は禁句は百も承知だが「もし仮に」とも思ってしまう。
種牡馬として、確かな遺伝力は証明されつつある。今度は種牡馬として、その実力をいかんなく発揮してほしい、そういうチャンスが与えられることを祈りたい。