馬産地コラム

ミュゼスルタンを訪ねて~アロースタッド

  • 2022年08月29日
  • キングカメハメハの血を伝える貴重な存在だ
    キングカメハメハの血を伝える貴重な存在だ
  • その澄んだ瞳は何を見てるのだろう
    その澄んだ瞳は何を見てるのだろう
  • 気の強さをうかがわせるワンショット
    気の強さをうかがわせるワンショット
  • 供用6年目。種牡馬としての風格が漂う馬体になった
    供用6年目。種牡馬としての風格が漂う馬体になった
  • 手入れの最中も自分の馬房の方向をじっと見つめていた
    手入れの最中も自分の馬房の方向をじっと見つめていた
  • 放牧を終えてシャワーが気持ちよさそう
    放牧を終えてシャワーが気持ちよさそう

 大種牡馬キングカメカメハの7世代目産駒。レッツゴードンキやドゥラメンテなどと同じキングカメハメハのゴールデンエイジを形成した1頭だが、この年はほかキタサンブラックやリアルスティール、シュヴァルグランらが顔を揃えて近年の最強世代と目される世代でもある。そんな2012年生まれ世代の「未完の大器」。2014年の新潟2歳S(G3)優勝馬ミュゼスルタンは新ひだか町のアロースタッドで6年目のシーズンを終えた。

 現役時代に後ろ足2本で立ち上がり、数メートル歩くことも珍しくなかったというエピソードの持ち主だが、放牧地での同馬はいたってのんびり。隣の放牧地でビッグアーサー、シャンハイボビーらが動き回っても、隣り合わせのワンアンドオンリー同様、我関せずとばかりに放牧地の出入口付近からあまり動こうとしない。どうやら、かなりのインドア派。そして、我の強い性格のようだ。

 「昨年(2021年)は過去最多となる21頭に配合しました。他の人気種牡馬と比べて決して多くはない数字ですが、この21頭はミュゼスルタンの産駒が競馬場で活躍することで集まった繁殖牝馬たちです。胸を張れると思います」とは事務局の(株)ジェイエス。3度の骨折を経験し、わずか7戦で競走生活を断念した同馬の種牡馬生活は慌ただしい中でスタートした。

 5歳4月。3度目の骨折に見舞われた同馬は12日に競走登録を抹消され、北海道のアロースタッドに到着したのはその翌日。種付シーズンの最盛期でのスタッドインだったためにほとんどの生産者はすでにその年の配合予定を決定済。広告宣伝もままならず初年度はわずか4頭の種付けにとどまり、生まれたのはわずか3頭だ。しかし、そのうちの1頭ユングヴィが2戦目にJRAで勝ち上がり、重賞の京王杯2歳S(G2)で3着に好走。2年目産駒も中央、そして地方競馬で勝ち上がるなど父の名を高めた。結果、これらは競馬場で結果を出した2020年は20頭の繁殖牝馬が同馬の血を求め、昨年は自己最多となる21頭に種付けを行っている。

 「新潟2歳S(G3)をレコード勝ちした高いスピード能力と早熟性は種牡馬として大きなセールスポイントになると思っています。加えて、骨折明け2戦目のNHKマイルカップ(G1)では出走メンバー最速の上りタイムで3着と好走し、日本ダービー(G1)はサトノクラウン、ドゥラメンテに次ぐ上がりタイムで6着でした。さらに骨折明け10か月ぶりの実戦となったダートの青梅特別も快勝し、ダート適性の高さを示しています」と事務局。血統表を紐解けば京都牝馬特別(G3)などに勝った活躍牝馬マルカコマチにさかのぼり、母のアスクデピュティもJRAで5勝。オープン馬として活躍した。

 普段はアグレッシヴな一面があるそうだが、今回の取材ではほとんど動こうとせずにカメラマンを困らせた。そんなつかみどころがない部分もミュゼスルタンの魅力かもしれない。

 父の名をさらに高めてくれるような産駒がターフを活躍してくれることを期待したい。