馬産地コラム

ファインモーションを訪ねて~伏木田牧場

  • 2022年08月19日
  • たくさんの思い出をターフに残してくれた
    たくさんの思い出をターフに残してくれた
  • 「若いころと比べたら少し食欲は落ちたかな」というがおいしそうに青草をほおばる
    「若いころと比べたら少し食欲は落ちたかな」というがおいしそうに青草をほおばる
  • 23歳とは思えぬほどにしっかりしている
    23歳とは思えぬほどにしっかりしている
  • その目は何を見つめるのだろうか
    その目は何を見つめるのだろうか
  • たくさんの友達に囲まれて幸せな環境
    たくさんの友達に囲まれて幸せな環境
  • 左端。新しい仲間が入ってくると出迎える役割を果たしている
    左端。新しい仲間が入ってくると出迎える役割を果たしている
  • 年齢は重ねたものの放牧地での存在感はピカイチ
    年齢は重ねたものの放牧地での存在感はピカイチ

 デビュー6戦目での古馬G1制覇、そして、無敗のまま古馬G1制覇は史上初。そんな快挙をいとも簡単に成し遂げた愛国産のファインモーションは23歳になった現在、浦河町の伏木田牧場で余生を送っている。武器は500キロ近い雄大な馬格から繰り出されるスピードと、それを支える豊かな心肺機能。行く手を遮ろうという幾多のライバルたちを一瞬のうちに置き去りにする反面、ひとたび機嫌を損ねてしまえば時代を代表する名手をも手こずらせる激しさも内在させる。完璧な強さと、その背中合わせにある儚さもファンの心を鷲掴みにした。“最も多くのファンに愛された外国産競走馬”というフレーズも決して大げさなものではない。そんなファインモーションにとって最後の先頭ゴールインとなったのが、2004年の札幌記念(G2)だった。道中は生涯初めての最後方追走。しかし、スムーズに馬群をさばきながら進出し、最後は楽に抜け出している。

 あれから18回目の夏が来た。

 「年齢をまったく感じさせないほどに元気です。今でも夏期間は夜間放牧。午前9時くらいに放牧に出して、戻すのは朝の5時ですから1日20時間は仲間たちと放牧地で過ごしています。蹄が薄い馬でそこを痛めやすいのと、3年くらい前に腰を痛めたことはありますが、本当に健康な馬で今まで内臓面での病気や不安は1度もありません」と話してくれたのは伏木田牧場の伏木田修さんだ。「20年くらい一緒に生活しているから家族みたいなものです」と優しい視線を向けている。

 「自己主張が強い馬ですが、さびしがりやな面があって周囲に馬がいないとダメなタイプ」という。

 ファインモーションには、ピッコロプレイヤーという年齢は2歳上だが大の仲良しだった米国産のパートナーがいた。いつも同じ放牧地で過ごし、互いの姿が見えないときは鳴いて呼び合うほどの関係だったという。ところが、そのピッコロプレイヤーが昨年に急死。周囲はヒヤリとしたそうだが、現在は同じ年齢で同じ米国産馬ウォーターエナンがそのパートナー役を務めている。

 「この18年間で変わったことといえば、年齢に応じて少し食が細くなったことと、放牧地での順列が低くなったことくらいです」と伏木田さん。

 23歳になったファインモーションの現在の役割は、現役生活を終えて伏木田牧場へと戻ってくる馬、あるいは初めて門を叩くような馬が牧場の環境に慣れるまでの指南役。今では「ほかの馬が出し入れされるのをおとなしく待っているようになりました。賢い馬なので、いろいろな事に慣れたのだと思います」と心情を慮っている。

 「ウチは生産牧場ですから、防疫上見学していただくことはできないのですが、馬はいたって元気です。慣れ親しんだ環境で、たくさんの友達に囲まれた生活を送っていますので、ご安心いただき、強かったファインモーションを心に留めておいていただければ馬も喜ぶと思います」と締めくくってくれた。