マルターズアポジーを訪ねて~白馬牧場
3歳2月のデビュー戦から現役最後の1戦となった8歳3月の中山記念(G2)まで一貫した徹底先行で、自分自身のスタイルを貫いたマルターズアポジーは、この春、新冠町の白馬牧場で3シーズン目の種牡馬生活を終えた。
5年以上にも及ぶ、そのキャリアの中で、もっとも印象深いのは5歳夏の関屋記念(G3)。それまで、どちらかといえば小回りの競馬場で、道中息を入れながら走れる中距離レースを得意としていたが、このレースの舞台は最後の直線が659mというワンターンコース。不安と期待が入り混じる中、いつものようにハナを奪い、自分自身を貫いた。2ハロン目から11秒台のラップを正確に刻む同馬に対して後続は並ぶどころか、影を踏むこともできない。前半の半マイルを46秒6で通過し、その後は11秒3、11秒1、11秒0と加速。こうなるとほかの馬では手も足も出ない。そのまま2着馬に1馬身以上の差をつけたまま先頭でゴールへと飛び込んだ。前々走はG1の大阪杯(G1)で、前走の七夕賞(G3)はトップハンデを課せられての敗戦。それでも前2走が2桁着順だったことから単勝オッズは12倍以上にもなってファンを喜ばせたが、それがマルターズアポジーにとっては最後の先頭ゴールインとなった。
「馬は健康そのもので元気にしています。普段は本当におとなしい馬で、種付けにも手がかからない優等生です。種付頭数は決して多くはないけれど、受胎率も良いですよ」と牧場スタッフにもかわいがられている。
その言葉どおりに、競馬場で見せていたあの激しさはどこにいったのか、放牧地でもじっとたたずんで、どこか遠くを見ていることが多い。時折、隣にいるアスカクリチャンが走り出すと釣られるように動くことはあるものの、あまり無駄な体力を使うのは好きではないようだ。
ただ、人間のことは信頼しているようで人の姿を見かければ寄ってくる。頭を上げている時間も比較的多く、カメラマン泣かせではないようだ。
重賞3勝は、7番人気、4番人気、7番人気での達成。逃げ馬の宿命と言ってしまえばそれまでだが、勝利するときの鮮やかさと負けるときの潔さも印象的。だからというわけではないだろうが、希代の個性派スターを一目見ようと足を運ぶファンは多いそうだ。
「初年度産駒は来年になりますが、マルターズアポジー、そして祖父のゴスホークケンを思い出してもらえるような産駒を送り出して欲しいですね。私たちは万全の準備をして生産者の方々、繁殖牝馬をお待ちしてます」と牧場側も期待に胸を膨らませている。