パドトロワを訪ねて~レックススタッド
さすがにスイスの氷上競馬のようなことはできないけれども、日本の競馬が素晴らしいのは春夏秋冬それぞれに四季を感じさせる競馬があることだと、誰かが言っていた。
だから、というわけではないだろうが毎年夏になると、日本の特別天然記念物であり、新潟県を代表する朱鷺から名前の一部をもらったアイビスサマーダッシュ(G3)の活躍馬たちを思い出す。
第1回の覇者は、かつて存在していた名門メジロ牧場生産の5歳牝馬メジロダーリングだった。中、長距離で圧倒的な強さを誇っていた“メジロ”の馬が1000mの重賞競走に勝利したことは、驚きとともに21世紀という新しい時代の変化を感じさせるものだった。
また「夏は牝馬」ともいう。この馬の勝利をきっかけに、アイビスサマーダッシュ(G3)は牝馬によって歴史が積み上げられた。
2012年7月22日、新潟競馬場。あの日も、最も多くの人が優勝を期待していたのは牝馬のビウイッチアスだったが、勝ったのは現在新ひだか町のレックススタッドで種牡馬生活を送っているパドトロワ。優勝馬に限れば12回目にして2頭目の牡馬。実況アナウンサーが「今年はオトコ馬、パドトロワです」とレースを締めくくったことは今でも懐かしい。
種付シーズンもひと区切りとなった7月。久しぶりにレックススタッドを訪ねた。
あの日の新潟競馬場を思い出させるような鮮やかな緑がまぶしい放牧地にパドトロワがいた。8年目のシーズンを終えたばかりの15歳。まだまだ若々しく張りのある筋肉。夏の陽ざしにピカピカに磨き上げられた鹿毛の馬体が良く映える。
しかし、激しいばかりに躍動したあの日と異なり、放牧地でのパドトロワは微動だにしない。ただひたすらに草を噛み、そして少しでも状態の良い青草を探し求めて首を下げたまま移動する。見かねたスタッフが馬の興味を引こうといろいろな工夫をしてくださったが、そんなことはどこ吹く風と言わんばかりにマイペースを貫いている。よほど、この放牧地にいることが安心で、居心地が良いのだろう。
「今年は産駒の活躍もあって、昨年よりは多くの配合申し込みをいただきました。この場を借りて感謝申し上げます」と事務局。
これまでも産駒数と比較すれば、決して悲観する産駒成績ではなかったが、2021年暮れからの初年度産駒ダンシングプリンスの活躍は強烈な追い風となった。カペラS(G3)で重賞初制覇を飾ると、サウジアラビアのリヤドダートスプリント(G3)を快勝。さらには北海道スプリントC(Jpn3)と、JRA、海外、ダートグレードとまったく異なる環境での重賞3連勝を記録した。
「ダンシングプリンスばかりではなく、芝コースを得意とするエムティアンのような馬もいます。父のスウェプトオーヴァーボードがそうだったように、芝ダートを問わずに活躍馬を出せると思いますし、エンドスウィープ系だけに距離の融通性を兼ね備えた産駒が出てきても不思議ないと思います。ダンシングプリンスの活躍をきっかけに、もうひと花も、ふた花も咲かせてほしいと思います」とエールが送られている。