ビワハヤヒデを訪ねて~日西牧場
1993年の菊花賞(G1)に優勝しこの年の年度代表馬、最優秀3歳牡馬に輝いたビワハヤヒデを日高町の日西牧場に訪ねた。
日西牧場はこれまでも数々の活躍馬を生産した牧場で、最近ではコリアC2着、アンタレスS(G3)1着、シリウスS(G3)1着等の成績をあげているクリノスターオーの活躍が注目されている。
ビワハヤヒデは父シャルード(USA)、母パシフィカス(USA)、母父Northern Dancer(CAN)という血統。半弟にナリタブライアン(12勝、JRA賞年度代表馬、最優秀2・3歳牡馬、日本ダービー(G1)、菊花賞(G1)、皐月賞(G1)、有馬記念(G1))、ビワタケヒデ(ラジオたんぱ賞(G3))がいる。
のんびり余生を過ごしているビワハヤヒデは、競走馬を引退して明け6歳で日西牧場にやって来たそうだ。「生活している厩舎と、その隣にある種付場はハヤヒデのために建てられた施設です。もう20年間この厩舎で過ごしているんですよ。」案内してくれたのはスタッフの菊池寛文さん。見るからに丈夫そうで洒落た造りの厩舎。ビワハヤヒデの馬房には大きなネームプレートと、ファンからのお守りが多数飾られている。お友達のチャクラもこの厩舎に同居しているそうだ。
「来た当初は放牧地を走り回り元気いっぱいでした。今はマイペースにゆったりと過ごしています。スタッフにいたずらをしたり、じゃれてくる所は昔と変わらないですけどね。」微笑みながら放牧地の奥で草を食んでいたビワハヤヒデに「おーい」と声をかけると少し考えているような素振りを見せ、それからゆっくりとこちらに向かって歩いて来た。菊池さん曰く「しょうがないなぁ」という顔をしていると言う。手入れが行き届いた真っ白な馬体にブラシをかけるとじゃれてくる。「油断したら、噛まれることもあるんですよ(笑)でも性格は大人しくて賢いです。朝6時に放牧、夕方5時に集牧という生活をしています。朝は、放牧地を走って自分で運動をこなすんですよ。年を取ると繋ぎがねてくるのですがハヤヒデはまだ繋ぎが立っていますし、お尻も丸くて肉付きが良く26歳には見えない馬体をキープしていて食欲旺盛、元気いっぱいです。」健康な証拠だというピンク色の鼻先も健在だ。
平和そのものの表情で秋の日差しの中、気持ち良さそうに微睡んでいるビワハヤヒデには今でも日本各地からファンが会いに来てくれるそうだ。「現役時代は強かったですよね。ウイニングチケット、ナリタタイシンと凌ぎを削りあって本格化して、クラシック路線を一冠ずつ獲ったり、距離もマイルから長い距離までオールマイティーにこなしていました。故障した天皇賞(秋)(G1)を除けば連対率100%で、こういうタイプの馬はなかなかいないですね、すごいことだと思います。殿堂入りしても良いくらいの成績を残していますね。その時代を知っているファンはもちろんですが、中にはハヤヒデという名前が自分の名前と似ているので会いに来て、感動したなんて話もしてくれる方もいるんですよ。とてもファンに愛されている馬だと思います。ハヤヒデの事を好きだと言ってもらえるとそれだけで本当に嬉しいので、少しでも長くファンに会わせてあげられるようにケアしたいと思っています。」
優しい眼差しの愛情をたっぷりと受けてこの若々しさを保っているのだと改めて気づかされる。かつて、史上最強の兄弟対決が話題の中心になった過去もあったが、今はのほほんと過ごす姿で、会いに来てくれたファンを癒してくれているようだ。