スペシャルウィークを訪ねて~レックススタッド
種付けシーズン本番を迎えたレックススタッドへ、スペシャルウィーク(日高大洋牧場生産)を訪ねた。
ようやく春の兆しが見えてきた3月の北海道。降り積もった雪も少なくなってきた。今年19歳となったダービー馬は、白い地面から浮かんできた草に目を向けている。種付場へ行く馬が厩舎から出たり、それを終えて放牧されたりすると顔を上げ、時々甲高くいななく。人間より先に気付くほど、周りをよく見ている。シャッター音を鳴らすと、すぐに耳をそば立て、風格たっぷりにポーズを決める。
「種付けの繁忙期に近づいてきましたが、具合は良いですね。しっかり飼い葉を食べていますし、馬体は19歳に見えないほど若々しいです。こちらに来た当初は、特にホワイトマズルやローエングリンが気になっていたようで、互いを見ると放牧地で走っていましたが、騒ぐこともなくなりました。今ではローエンが隣りの放牧地なのですが、とてもリラックスしています。賢いし、展示会でも大人しかったですね。やっぱりダービー馬、良い顔をしています。ちょっと他の種牡馬とは違いますね。」と、紹介してくれたのは、レックススタッドの泉山義春場長。昨年より同種馬場で過ごすスペシャルウィークとは、丸一年の時間が流れた。種付けは少し時間を要すタイプだが、“コツはわかってきたよ”と、苦笑い。命を宿す際の、その気になるスイッチや独特の癖は、昨季の経験で手の内に入れ、人馬のかけ引きに熟練の技を光らせている。
現役時代は17戦10勝。武豊騎手に初の日本ダービー(G1)制覇をもたらし、古馬となってからジャパンカップ(G1)、春秋の天皇賞(G1)を先頭で駆け抜けた。敗れたレースであっても、その追い詰める脚色や、ロングスパートを仕掛ける様は、勝ち馬を凌駕するほどの凄みがあった。一流馬の中にも目立つ存在感、父譲りの流星、高貴な雰囲気があって、天才・武豊騎手と織り成す格好良さがファンを一層惹きつけた。
2000年に種牡馬入りしてから11世代・約1,000頭の産駒がデビューし、名牝ブエナビスタ、日米オークス馬シーザリオ、ダートで頂点に立ったゴルトブリッツ、ローマンレジェンド、クラシック好走のインティライミ、リーチザクラウンらが素晴らしい成績を収めた。最近では孫世代も活躍著しく、昨年の菊花賞馬エピファネイアを筆頭に、ヴェルデグリーン、ジェネラルグラントといった馬たちが重賞戦線をにぎわせている。
「長きにわたって産駒は結果を出していますね。先日もペイシャフェリスがアネモネSを制し、クラシックが楽しみになりました。父サンデーサイレンス、母系は日本古来のシラオキにマルゼンスキー。底力のある血統背景から、代を経ても成績を伸ばしていますね。」
レックススタッド最初のシーズンとなった昨年は79頭と交配し、今年は3ケタの交配数が予想されている。フリーリターン特約はつかないものの、種付料は3年前の3分の1以下となる80万円。西から東、馬産地くまなく反応を得ている。泉山場長は、「このペースならば昨年以上の結果を出せると見込んでいます。長いこと種牡馬をしていますが、心身のダメージはなく、スタミナ豊富な馬ですね。ここで種付けした馬からも、G1馬を出していけるように努めていきたいです。」と、意気込んでいる。
移動後、初の見学公開となった昨年後半は、真っ先にスペシャルウィークのもとへ行くファンが多かったという。牧場見学ツアーでも目当ての方はよくいて、ファンの多い馬であることを実感する。若手種牡馬を抑えての人気に、スペシャル自身も誇らしげな様子だ。晩年を過ごす新天地に腰を据え、期待と笑顔を運ぶ風は、長いたてがみを心地よくなびかせている。