馬産地コラム

リンカーンを訪ねて~社台スタリオンステーション

  • 2011年10月18日
  • リンカーン~1
    リンカーン~1
  • リンカーン~2
    リンカーン~2
  • リンカーン~3
    リンカーン~3

  勝負事において、結果は残酷だ。例え紙一重であっても勝者は歴史に名を残し、名勝負を演出した敗者の存在は時間の経過とともに風化する。“2番”ではダメなのである。

  現役時代は紙一重に泣いたものの、種牡馬として頂点を目指すリンカーンを社台スタリオンステーションに訪ねた。

  事務所を出て、放牧地へと向かう。まだ種牡馬供用されていないドリームジャーニーがいて、今年から種牡馬生活をスタートさせたヴァーミリアン。そして来シーズンからのスタッドインに備えているカジノドライヴの向こうにリンカーンがいた。父はサンデーサイレンスで、3代母サンプリンセスは英国オークス(G1)を12馬身差で制し、ヨークシャーオークス(G1)、そして英国最古のクラシック「セントレジャーS(G1)」を制した名牝。その血はフサイチコンコルド、アンライバルド、ヴィクトリーらを通して日本の地でも美しく輝いた。淘汰選択を繰り返されたサラブレッドの歴史の中で、生き抜いた馬だけがかもし出す独特の雰囲気。鹿毛の馬体が美しい。何気ない仕草のひとつひとつに斬れがある。

  「これほどの馬でもG1を勝てないんですからね」と社台スタリオンステーションの徳武英介さんが独特の言い回しで本馬を称えた。3歳秋に本格化すると菊花賞(G1)でダービーの上位組をまとめて差しきるもザッツザプレンティの2着。暮れの有馬記念(G1)2着で世代最強を強くアピールした。雌伏の時を経て、5歳暮れの有馬記念(G1)で再び世代最先着を果たすが、ゴールではハーツクライとディープインパクトの後塵を拝してしまった。象徴的だったのは6歳春の天皇賞(G1)。従来のレコードタイムを更新する走りを見せたが、再びディープインパクトの前に敗れ去ってしまった。リンカーンの前に、サンデーサイレンスの後輩産駒が立ちふさがった。

  そんなリンカーンの初年度産駒。アイヴィーリーグはデビューから2連勝でNHKマイルC(G1)に駒を進め、デルマドゥルガーは牡馬を相手にジュニアCを差しきった。地方競馬においてはマイネリスペクトが高知競馬の黒潮皐月賞に優勝。南関東でもダイヤモンドダンスがハイセイコー記念で3着するなど中央、地方で活躍馬を出している。とくにデルマドゥルガーは秋華賞(G1)への切符をかけた紫苑Sでは、外々をまわりながらも豪快な末脚を繰り出して勝馬からハナ差の2着。このときの走破時計は従来のレコードタイムを更新するものだった。なにやら、開花寸前の大輪の花を感じさせる産駒たちだ。

  「リンカーン自身が大事に使われたこともありますが、サンデーサイレンス産駒にあっては、晩成型でした。産駒にはそんな成長力が伝わっていると思います。コンスタントではないかもしれませんが、大物を出せると思っています。その日を待っています」とスタリオンもエールを送っている。