馬産地コラム

エアジハードを訪ねて~ブリーダーズスタリオンステーション

  • 2011年07月20日
  • エアジハード-1
    エアジハード-1
  • エアジハード-2
    エアジハード-2
  • エアジハード-3
    エアジハード-3

  一般に名選手と呼ばれる人たちは何かの壁を乗り越えることで素質を開花させる。プロのアスリートが持っている能力は紙一重。それを生かすも殺すも本人次第ということだ。

  エアジハードの場合は、ゲート。そして脚部不安との戦いだった。

  その不安を抱えながら新馬、特別と2連勝。芝の新馬戦を快勝後、ダートの特別を選んだあたりに陣営の苦悩が象徴されている。皐月賞(G1)の出走権をかけたスプリングS(G2)は出遅れて4着。それどころか、ゲート再審査により3歳春シーズンは思うようなローテーションが組めずに苦悩を重ねた。NHKマイルカップ(G1)は内国産馬最先着とはいえ8着。意欲が空回りしているような3歳春シーズンだった。

  さまざまな不安を抱えながら挫折を経験し、優勝した安田記念(G1)。当時、外国産馬が席巻するマイル路線で父内国産馬の意地を見せた。ぶっつけ、初距離の天皇賞(秋)(G1)は不利もあって3着だったがマイルチャンピオンシップ(G1)では栗毛の馬体が秋の陽射しに輝いた。史上4頭目となる同一年度のマイル王者が誕生した瞬間だった。日本が育んだ血統を代表して挑むはずだった香港カップは、現地で脚部不安で断念したために夢で終わったが、外国産馬全盛時代に内国産馬の優秀性を証明させた陣営を評価したい。その競走キャリアは文字通りの聖戦だったのかもしれない。

  JRA賞最優秀短距離馬、そして同最優秀父内国産馬のタイトルとともに馬産地に帰ったエアジハードは社台スタリオンステーション、レックススタッド、ブリーダーズスタリオンステーションと渡り歩きながら12年目のシーズンを終えた。10年にはショウワモダンにより安田記念(G1)の父仔制覇、ならびに父サクラユタカオーから続く3世代連続G1勝利という記録を達成した。「人なつっこい馬で、手入れのときなんかは甘えてくる馬なんです。そんな性格が表情なんかにもにじみでるんでしょうね。スタリオンスタッフにも、そしてファンの方からも人気の高い1頭です」と、同スタリオンの坂本教文主任が本馬の魅力を語ってくれた。そういえば、現役時代は勝負服を象ったメンコを着用していたので気がつかなかったが、品のある顔つきをしている。ほとばしる情熱を感じさせたレースぶりと、そんな優しい素顔のギャプもまた、人気に拍車をかける要因になっているのかもしれない。

  ところが、どうやら来年は新天地への移籍が決まりそうだ。「残念と言うほかありませんが、新しいところでもかわいがられて欲しいし、これからも活躍を期待しています」と主任。16歳。エアジハードの戦いはまだまだ続きそうだ。