馬産地コラム

あの馬は今Vol.36~オークス・イソノルーブル

  • 2008年06月21日
  • 今のイソノルーブル~浦河町・村下農場
    今のイソノルーブル~浦河町・村下農場
  • 同

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 1991年5月19日 第52回オークス 
  優勝馬 イソノルーブル

 オークスからさかのぼること6週間。異様な雰囲気が曇天の京都競馬場(*この年は京都開催)を包んだ。不敗の5連勝でここまで駒を進め、圧倒的1番人気に支持されていたイソノルーブルがレース前に落鉄。パニック状態に陥った同馬が再装着を拒否してレースの発送時刻が15分以上も遅れるという事態になっていた。結局、再装着は不可能と判断されて、右前脚は蹄鉄を履かないままゲートに導かれた同馬は自慢の快速を披露することなく5着に敗れた。市場取引価格500万円の抽選馬によるサクセスストーリーは「靴を失くしたシンデレラ」という悲劇のシナリオへとすりかわってしまった。
 
 そして迎えたオークス。同じ轍は踏まないという陣営の思いは本番入場時に覆面を二重にして、ゲートイン直前までブリンカーを着用するというもの。そうした努力が実を結んだのか、大外20番枠からスタートしたイソノルーブルはゆっくりと先頭を奪うとピタリと折り合いをつけて、そのまま2400mを逃げ切った。不敗の桜花賞馬シスタートウショウも、牡馬相手に重賞2勝を記録していたノーザンドライバーも、未勝利勝ちから3連勝でこの舞台に駒を進めてきたツインヴォイスも、函館3歳Sとシンザン記念で牡馬を蹴散らしてきたミルフォードスルーも、そして札幌3歳SとクイーンCを制したほかつねに一線級で差のない競馬をしてきたスカーレットブーケも、軽快に飛ばすイソノルーブルには追いつくことができなかった。屈辱の桜の舞台から1月半。悲劇のヒロインは、樫の女王となった。
 
 その後、エリザベス女王杯で5着に敗れた同馬は脚部不安を発症して浦河町の村下農場で繁殖牝馬になって、初年度にオグリキャップを配合したが不受胎。2年目に生んだイソノウイナー(父クリスタルグリッターズ)がガーネットSで2着するなど短距離路線で活躍したほか2番仔イソノサンダー(父リンドシェーバー)、3番仔イソノブレーヴ(父ダンシングブレーヴ)が中堅級で活躍した。
 
 「この前、イソノウイナーのファンだという人が訪ねてきたよ。母親を見たくなったって。時代も変わったんだなぁって思ったね」と村下さんは苦笑い。イソノルーブルが繁殖牝馬になった当時、多くのファンやマスコミの取材攻勢に頭を痛めた村下さんにしてみれば、隔世の感だという。現在のイソノルーブルは、自身の娘であるチェイルリー(牝4歳、父ジャングルポケット)イソノキセキ(牝10歳、父フジキセキ)とともに放牧されている。
「今でも一番威張っている。走ることもあるんだよ」と頼もしそうにみつめている。

           日高案内所取材班